凄まじいんだけど!!
「うわ、臭っさ!!!」
なんかガラスが沢山使われている近未来的でお洒落なビルの奥にあったヘリポートに降りて地上まで出た途端に漂ってきた途轍もない悪臭に、思わず顔を歪めて鼻を摘んだ。
「え??
何が?」
碧が不思議そうにこちらを向いて聞いてきた。
マジ?!
この悪臭が気にならないなんて、信じられない!!
時々夏に強烈に黴臭いシャツを平気で着ている男性とかいるから悪臭に対する感度って人によって違うんだろうとは理解していたけど、これは無いでしょう??
が。
田端氏も不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。
あれ?
私だけ??
1人だけ悪臭に気付かないって言うなら鼻風邪かと思うけど、1人だけ悪臭が気になるってなんなの??
『死霊術の悪臭じゃの』
ふいっと碧の横に現れた白龍さまが教えてくれた。
マジか!!
死霊使いの捕縛とか後始末に駆り出されるとやたらと臭いのに辟易としたものだが、あれって腐ったゾンビの臭いじゃなくって術そのものが臭かったの??
と言うか、黒魔術師みたいに適性がある程度合う術師に感じられる特徴みたいなものなのか。
ある意味、死霊使いになれる黒魔術師じゃなくって、天敵的な白魔術師の方が悪臭と感じるべきだと思うけど。
もしかして死した魂と身体を利用することに抵抗を感じなくなると、この悪臭も気にならなくなるのかね?
もしもその仮説が正しいのだったら、生命の尊厳を踏み躙る死霊術を使わせまいとする世界の抑止機能なのかも。
実験する気は無いが。
前世ならまだしも今世では確認のしようが無い事だしね。
それはさておき。
「この悪臭の元がどっちにあるか、分かりますか?」
白龍さまに尋ねる。
私には『臭い』ことしか分からず、どっちの方向でより悪臭が酷いかイマイチ判断が付かない。
試行錯誤で彷徨けば、見当違いな方向に進んでいたら悪臭が減る事で分かるんだからそのうち悪臭の発生源も見つけられると思うが、時間に余裕が無い。
神に頼り切るのは良くないが、ちょっと今回はショートカットを取らせて貰いたい。
『うむ。
あっちじゃの』
白龍さまが右の方を尻尾で示した。
「あっちは・・・去年オープンしたビジネスコンプレックスがあったね」
碧が地図をタブレットに呼び出して確認しながら言った。
「取り敢えず、そっちに向かってみよう」
そのビルじゃなくても、そっちの方向なのは確実なのだ。
急ぎ足で悪臭の元を探しながら進むが・・・辛い。
実際には鼻で嗅いでいないのか、口で息をしても臭いのだ。
なんかこう、生のオニオンとか大蒜たっぷりな料理を食べて後から臭いが胃から口に上がってくる様な感じ?
必ずしも臭いじゃ無いんだけど、辛い。
まだ鼻からくる方が、口呼吸して口全体で味わってしまう感覚よりはマシなので、鼻で息をするのだが・・・それでも辛すぎる。
これが死霊術の悪臭だとしたら、死霊を使う術なんぞやっちゃ駄目だと言う自然の摂理か神の意思かもって思うほど辛かった。
前世で死霊使いの逮捕とかに駆り出された時はここまで酷く無かったんだけど。余程今回は術が大掛かりなのだろうか?
それとも今世は王族に悪事を強要されていないからカルマが綺麗な分、耐性が無いのか。
必死に悪臭が強い方へ向かっていたら、碧の言っていた新しいコンプレックスの横にある会議場みたいな所に着いた。
「こっち?」
碧が少し驚いた様に聞く。
「多分?」
『こっちじゃな』
白龍さまも頷いてくれた。
「世界的に有名なIT企業のお偉いさんたちを呼んだコンベンションが明日から始まる予定で、そのプレオープニングのパーティが今晩こちらで開かれるようだね」
何やらタブレットで調べていた田端氏が教えてくれた。
IT関連って半導体も含むなら最近色々と輸出制限とか技術移転の禁止とかで話題になっているし、ここでガッツリ大手企業や先端技術を持つスタートアップのトップを殺して競争力を削ぐつもりなのかな?
流石にゾンビになっちゃったら知性が激減するから、先端技術の入手には利用できないと思うが。
まあ、渋谷ってビットバレーとか呼ばれてIT関連の企業が集まっているらしいから、非常事態になって立ち入り禁止になったりしたら忍び込んで色々盗むのにもいいかも?
生物兵器や毒と違って、術が終われば安全だと仕掛けた方は分かっているんだし。
とは言え、呪詛で大量に人を殺したら一気に瘴気が集まって別の意味で危険になると思うけどね。
どんな大量殺戮呪詛なのか、確認しないと危険がどの程度の期間続くのかも分からない。
幸い、まだ昼前だ。
これならタイムリミットに間に合いそうだ。
この悪臭じゃあ昼食を食べる気にもなれないから、低血糖で倒れる前になんとしても術を無効化しないと。