フリーパス!
「もしかして、この敷地の瘴気って出るべくして出てきた感じなんですか?
その結界が無ければマシになります?」
従姉妹さんの夫(恭弥さんと言うらしい)が聞いてきた。
「う〜ん、言うなればこの湯殿を完全に密封して蒸気を逃さない様にしたせいで中はサウナ級な湿度、外は普通の室内並みに乾いた環境にしているって感じですかね〜。
そんでもってサウナには特に肌が乾いて困っている人が集まりやすいから、外の部屋にはそう言う乾燥肌の人が長年に渡って多数泊まって夜中にボリボリ乾いた肌を掻いていたせいで肌の破片みたいのが沢山落ちているのに、掃除をちゃんとしていなかったせいでダニが大量に湧いちゃっている状態?
ちょっと無理がある例かもですが」
碧が頭を掻きながら言った。
乾燥肌を掻き過ぎたせいで肌の破片がたっぷり落ちてダニが大量発生って・・・。
まあ、Gが涌いたって言うよりはましだけど。
「それって結界を取り払うとこの温泉の素晴らしさは激減しちゃうんでしょうか?
勿論、必要に応じてお祓いを定期的に頼むのは良いんですが、常時余り好ましく無い状態になりやすいなら最初からそんな結界が無い方が良いんじゃないかと思って。
妻や一部の社員も敷地で暮らす予定ですし」
恭弥さんが言った。
まあ、悪阻に苦しんでない碧の親戚が居たら普通に祓える可能性は高いし、奥さんの親戚が温泉に遊びに来るのを歓迎しておけば勝手にお祓いしておいてくれるとは思うけど、確かに最初からお祓いが必要な状態にしない方が良いよね。
折角霊泉のある敷地を買ったのだ。
風呂に入らないとその効果にあやかれないなんて、勿体無い。
赤ちゃんなんかは温泉にそうそう連れ込めないだろうし。
「いえ、元々お湯そのものが霊泉から来ているんですから、お湯に浸かっている限りは効果は変わりませんよ。
お風呂に入る前の体を洗っている時の浄化作用が多少弱くなる程度なので、ここで体だけ洗って湯船に浸からない変わり者以外にとってはほぼ違いは無いでしょう」
碧があっさり答える。
そうなんだよねぇ。
結界を設置した人間は何を考えていたんだか。
ほぼ完全に金の無駄遣いじゃん。
湯船に浸かって得られる効果はほぼ変わらないのに、ちょっと湯殿の空気を煌めしくした代わりに客室とかその他の部分で定期的に除霊を必要な状態にするなんて。
もしかして、どっかの退魔師系の家や組織の営業担当にでも騙されたのかね?
誰かがここが破産した時にすぐに『買う!』って手を挙げたんだったら霊泉を取り上げるための企てかと疑うところだけど、買い手がつかなくて困っていたって話だからなぁ。
過去に詐欺っぽい押し売りに引っ掛かって設置した結界だとしても、仕掛けた方も昔過ぎて情報が途切れたのかも?
「どれ位瘴気に塗れた人がここに来るようになるかは不明ですが、この霊泉を囲っている結界を解除したら敷地内だったら仕事や日常生活で溜まる穢れや瘴気程度は自然に消えるようになると思いますよ」
少なくとも、前世の霊泉では近隣する神殿にがっつり病人とか生きるのに疲れた人が滞在していても問題無いみたいだったし。
「そうですか。
じゃあ、この湯殿の結界の解除もお願いできますか?
お金は払いますから。
一応会社のサービスの一環として、端末やPCの持ち込みや引取りで来てくださるお客様に温泉利用券を差し上げようかと思っているんで、敷地が浄化されている方が会社の印象も良いでしょう」
にこやかに恭弥さんが頼んできた。
チラリと碧がこちらを見たので、しっかりと頷く。
「あ、じゃあお金じゃなくって温泉利用券の年間フリーパスとか頂けません?」
従姉妹さんに頼めば入らせて貰えるだろうが、『頼む』と言うステップなしに気軽に入りに来れるようになったら嬉しいよね!
「それで良いんですか?
美帆の親戚なんですから、元々いつでもいらして良いんですよ?」
ちょっと驚いたように恭弥さんが聞いてきた。
「親戚カードで頼み込んで使わせて貰うより、サービスを前払いしてフリーパスを貰って入りに来る方が気軽ですから。
ちなみに、結界は建物に組み込まれているんで何ヶ所か壁か床に穴を開けて貰う事になりますが、構いませんか?」
魔力を無理やり流し込んで結界を破壊するのも可能だが、こう言う築造時に最初から組み込まれている結界は物理的に壊す方が簡単だ。
「はい。
・・・ちなみにそれって開けた穴を後で修復しても大丈夫ですよね?」
あっさり頷いてから、恭弥さんが尋ねてきた。
確かに、湯殿の壁に穴が空いたままじゃあ困るよねぇ。
「勿論!」