霊泉?!
「うっわぁ〜。
凄いね、この温泉。
ワーケーションに使うにしても、他の企業とか一般人にも有料で開放すべきじゃ無い?」
碧の従姉妹に頼まれてやってきた元温泉宿の温泉は素晴らしい・・・霊泉だった。
「ふふふ〜。
これがあったからココを買ったんですよ〜!
敷地全部の除霊費を払っても、余りあるでしょう?!」
まだ悪阻が酷い従姉妹さんには入り口で挨拶だけ済ませたのだが、中を案内してくれた旦那が胸を逸らして自慢げに言った。
確かにねぇ。
なんだってこんな瘴気塗れなところを態々買うのかと内心驚いていたんだが、この風呂を見たら納得だ。
霊泉がこっちの世界でも存在したとはねぇ〜。
前世では特殊な幻獣や精霊が気に入って住み着いた場所の側に水源があると浄化とか健康回復効果のある霊泉になることがあって、上手い事そこを占有できた神殿とかが聖水として泉の水を売っていたが・・・ほぼ幻獣も精霊もいない現世に霊泉があるとは思わなかった。
『儂が使っておる境界門のそばを源泉が通っていて魔素が豊富になったようじゃな』
霊視で視ると仄かに輝いている湯船のそばに浮かびながら白龍さまが言った。
そっか、聖域の魔素を含んでいるのか。
ある意味、境界門の魔素が溶け込んでいるだけだったら単に魔力が回復しやすいだけなんだけど、古くからの信仰の地である事で魔素に人の為になる神聖さが付与されて、回復効果っぽいのを持つに至ったっぽい。
面白いもんだよねぇ。
信仰心だけで本当に効果が生じるなんて。
「ですねぇ。
温泉に浸かったらめっちゃ疲労回復効果があるだろうに、なんだって潰れたんだろ?」
碧も呆れたように呟く。
「まあ、敷地の中はかなり瘴気が多かったからねぇ。
あれだと温泉に浸かると疲れが癒されるけど、泊まると寝ている間に瘴気に犯されて体調悪化したんじゃない?
折角温泉で良い気持ちになったのに毎回夜中に金縛りに遭うのは嫌でしょ。
皆が足湯とか日帰り利用しかしなくなって、経営が立ち行かなくなったのかも?」
確か、温泉宿って基本的に豪華で高い夕食で利益率を上げているって聞いた気がする。
つまり、日帰り利用だけでは全然収支がプラスにならないのだろう。
宿泊客が少なくても部屋の清掃人員とかを全部クビにする訳にはいかないし、客が泊まらなくても定期的に清掃をしないと折角客が来た時に埃だらけでマイナスな評価がSNSなんかに書かれたら致命的だ。
まあ、悪い口コミを避ける為の出費で破綻していたら意味ないけどさ。
「あ〜、温泉の効果を高める為に霊気を閉じ込める結界を施してるんだ、ここ。
なのに宿の方をちゃんとお祓いしていないから、霊泉を求めるような瘴気だらけな客の落としていく穢れが敷地に染み込んじゃって、泊まると却って体調が悪くなるような宿になっちゃったんじゃない?」
碧が目を眇めて周りを見回したと思ったら、何やら納得したように頷いた。
言われてみれば、確かに温泉のある中々立派な木造の建物に結界が施されている。
人間には効果があるタイプでは無いが、魔素・・・と言うか霊気を中に留める効果があるね。
お湯の霊気を高めて温泉の効果をより良くしようと施したんだろうけど・・・。
考えてみたら霊泉の周辺って、泉から溢れ出る霊気が周囲を浄化するからこそ、霊泉に惹かれて集まる瘴気に侵された人間が沢山集まっても問題が起きないんだろう。
つまり霊気を閉じ込める結界を設置するなら、瘴気塗れな人が落としていく穢れを定期的に祓わないとヤバい事になるのは簡単に想像がつく。
かなり温泉で瘴気が浄化されるとは言え、時間をかけて体や魂に染み込んだ瘴気って言うのはお湯に浸かった10分とか20分程度で全部落ちる訳ではないんだから。
そんな素早い効果を望むなら、ちゃんとしっかりお金を払ってお祓いをして貰わないとダメだ。
この結界はかなり古い感じだから、それを設置してもらった世代の人はちゃんと宿の方のお祓いも定期的にしていたんだろうけど、世代交代した後継ぎが費用削減とか言ってやめたんだろうなぁ。
「もしかして、この温泉宿を潰したのは霊とかの存在を信じてない人間だったんですかね?
霊泉を受け継いだのに瘴気の存在を信じないで費用をケチって宿を瘴気塗れにするなんて、バカすぎ〜」
勿体無い。
霊泉付きの温泉宿なんて珍しいだろうに。
これは是非、温泉を一般客へ公開するよう説得しないと!
体調不良が無くても、霊泉な温泉に浸かれる贅沢は是非とも定期的に楽しみたい!!