早!!
『取り敢えず、何か個別名称がある方が便利なんだけど希望はある?』
使い魔契約には名前の付与か交換が必要だ。
前世では手抜きな魔術師だと鳥1、2、3みたいな名付けをしているのもいたが、どうせ一羽だけの契約なのだ。
多少時間を掛けて本人(鳥)が望む名前を聞いても良いだろう。
『ハネナガとでも呼べ』
鴉が応じる。
へぇ、鴉にも個別名称っぽいのがあったんだ?
まあ、それなりに群っぽい感じで沢山生きているからお互いの個体認識をしているだろうし、テレパスな種族じゃあないんだから特徴から付けた名称っぽいのがあっても不思議は無いか。
『オッケー。
では、魔力を対価に、一時的に私の使い魔として契約してちょうだい、ハネナガ』
『その願い、応じよう』
すんなり魔力がハネナガに繋がり、入っていく。
へぇ、意外にも鴉って魔力と相性が良いんだね。
前世ではあまり使い魔契約なんてしなかったんだけど、このままリンクを残しておいて調査要員っぽい感じに適時臨時契約するのもありかも?
クルミはクルミで色々と忙しいから、誰かを見張ったり追跡させるのには鳥系の使い魔が居るのも便利そうだ。
躯体が無いと魔力が抜けるのが早いと思うが、ある意味霊体だけの方が目立たないからこれは一長一短かも。
まあ、細かい事は後で考えよう。
『多分、この公園の横から神社の前の通りを日に何回も通って、ちょうど良い獲物漁っていると思うの。
魔力をたっぷり渡した上で毎日補充に来るから、取り敢えずそこら辺に居てあいつが来るのを待ち受けて、来たら私と視界を共有しつつ後を追ってくれる?』
長期的な使い魔だったら魔力を固定化する為に依代がある方が良いが、今回は一時的な契約だし、出来れば追いかけて家の中まで入って様子を確認して貰いたいので実体は無い方が都合がいい。
ただ、霊体だけだと魔力の放出が多めなので毎日補充しないと契約が切れちゃう可能性がある。
今日中にでも犯人を見つけてくれると良いんだけどなぁ。
『うむ。
見つけたら連絡しよう』
使い魔契約でリンクが出来ているし、物理的にもそれほど離れていないので問題はないだろう。
器用にもバサバサと羽ばたく幻聴を撒き散らしながらハネナガが公園の外へ向かう。
さて。
私はどうしようかな。
黒崎さんや杉本さん達との話し合いは写真をばら撒いて様子を見て数日後にと言う事になっている。
ハネナガはもっと早く成果を出すと思うが、流石に公園で座って待っているのも微妙だろう。
(取り敢えず家に帰るか)
そう思って歩き始めたところに、ハネナガからの念話が届いた。
『アイツが来たぞ』
マジ?!
確かに1日何度もここら辺を彷徨いていたけど、こんなに早く来るなんて。
よっぽど私の日頃の行いが良いのか、こいつの行いが悪いのか。
まあ、こいつの行いが悪いんだろうな。
動物を痛めつけて色々やってきているんだ。
カルマはかなりドドメ色になっているだろう。
色があるとしたらだが。
『見せて』
ハネナガに視界共有を頼む。
『あれだ』
突然やたらと鮮明すぎて眩暈がするような視界が目の前の光景に重なった。
慌てて目を閉じて、共有された視界の方に集中する。
鳥の視界ってこんな感じなんだね。
人より視力が弱く視える色も少ないと言われている猫であるクルミの視界を共有してもそこまで違和感がなかったから、霊になった使い魔の視界って共有しても人間の視界に合わせるのかと思っていたが、どうやら劣るのは人間レベルまで底上げされるがより優れた視界は意識しないとそのまま伝えられるのかも知れない。
鮮明な視界に見えてきた男は、あの防犯カメラの映像の男と同一人物な様に見えた。
ある意味、防犯カメラの映像がイマイチだから100%の自信は無いけど。
だが、過去にハネナガ達へちょっかいを出していた奴が犬に酸を掛けて回るロクデナシが出没する地域に偶然同じ様な格好で出てくる確率はほぼゼロだろう。
『よっしゃ!
こいつの住処の場所を確定させたいから、視野を共有したまま後をつけて』
この距離ではあいつの心は読めないから最終確認はまだ出来ていないが、このまま住処まで追いかけて貰って場所を確定させよう。
猫の霊なクルミと違って鴉なハネナガだったら最終目的地に着いてから聞いても私をそこまで案内出来るかも知れないが、見失ったら面倒なので最初からずっと視界共有して見張っておく方が良い。
もしも誰かのペットを襲おうとしたら、こいつをハネナガに襲わせても良いし。
たっぷり魔力を渡したから、体当たりをすれば多少の物理的衝撃を与えられる筈。
ついでに自分の持っていた酸が顔にでも掛かれば良いんだけどなぁ。