一時的に契約
「コイツって大学生?
ちょっと学生にしたら老けて見えるけど、平日の昼から徘徊しているなんて絶対に働いていないよね?」
死ぬ気で6日分の防犯カメラを早送りして確認したところ、私たちはやはりあのチャラちゃん襲撃時間帯に通りがかった自転車が怪しいと言う結論に達した。
「引き籠もってないけど学校に通わず、働きもせず、職業訓練も受けてないっぽいから、定義的にもニートって奴じゃない?
迷惑行為をするだけなら引き籠もっていればいいのに」
『ニート』って『引き篭もり』と同義語じゃ無かったんだね。
家に引きこもってカビを生えさせているよりは自転車で出歩く方が健康的だろうが、出歩いて動物虐待するなら布団から一生出てこなきゃ良いのに。
ニートか否かは不明だが、取り敢えず毎日、日に二度も三度も自転車で周りをこそこそ見回しながら彷徨くなんて怪しすぎるだろう。
毎回リュックを前持ちスタイルだし。
配達業者のロゴは身に着けていないし、何よりも動きがゆっくりしていて、次の場所へ行くことよりも周りを見回す事を優先している。
「流石に他の店舗とかの防犯カメラを6日分見せてもらう訳にはいかないけど、チャラちゃん襲撃時に側を通った筈なので何か見ていないか話を聞きたいからって事で、写真を沢山プリントアウトして商店街とか氏子さん達に渡して見かけたらこちらに連絡をくれる様に頼みましょうか」
黒崎さんが提案する。
「犬ママ仲間にも配って注意喚起しておきますね」
杉本さんが付け足す。
「プリントアウトする許可を獣医さんのところで貰う際に、ついでにコイツを見かけた人が居ないか飼い主さんたちにさりげなく聞いてもらえないか、頼んでみましょう」
碧が更に提案した。
確かに、問答無用で『不審者』として張り出したら名誉毀損か何かでいちゃもんを付けられかねないから、診断中や会計の際にさりげなく見せる感じにやってもらうのが無難だろうね。
と言うか。
見つけたところで表立って何をできるかは微妙なんだよねぇ。
それこそ神社に黒崎さんが設置を依頼した防犯カメラに偶然あいつが誰かを危険な液体の入った水鉄砲で襲っているところが映るなんて事にならない限り、防犯カメラで見受けられる行動が怪しいと警察に訴えたところで出来ることは限られているだろう。
それこそ、人間を害しそうなストーカーですら本格的な抑止力のある行動は誰かに害を与えてからじゃなきゃ出来ないのだ。
マジでペットを痛めつけている現行犯の映像がなきゃダメだろうし・・・確か、ペットって害しても物品損傷とか程度の扱いだった筈。
ちょっとした罰金と注意で終わるだけじゃ無い?
まあ、本人を見つけられれば私がそれなりに制裁を課して、二度とこう言うことが出来ないようにするつもりだけど。
そう言う点、黒魔術って目に見えない形で人を痛めつけられるから便利っちゃあ便利だよね。
悪用できる可能性が高すぎて悪人ホイホイになりそうなのが問題だけど。
と言う事で。
獣医さんのところへ皆で行く事に。
大人数で押し掛けるのは邪魔そうなので、獣医さんとやりとりのあった碧に、プリントアウトして貰った写真をばら撒く黒崎さんと杉本さんが『自分たちはこう言う人間で、こう言う目的でクリニックの防犯カメラ映像を使わせて頂きたいです』って言う為に同行。
ネットで公開したりすると下手をしたら名誉毀損だが、特定の相手に探しているとか注意喚起だと言って見せるだけなら大丈夫だと思いたい。
まあ、『チャラちゃんが襲われた直後の時間帯に唯一通った自転車』、『その他の日も理由もなく彷徨いている』っていう事実だけを伝えて『話を聞きたいんだけど見かけたら教えてくれ』と頼む程度なら大丈夫だろう。
まあ、それすらも困るって獣医さんに言われたらプリントアウトするのは諦めて、碧がタブレットでキャプチャーしたスクリーンショットを見せて回る程度にする予定だが。
『やっほ』
碧達と分かれた後、私はこないだ話した鴉の霊を探しに再度公園の方へ来ていた。
『おう。
あの嫌な男は見つかったかのか?』
狙っていた鴉の霊があっさりと現れた。
ラッキ〜。
地縛霊と違って浮遊霊って気ままに動けるから、鴉の霊がここにいるか微妙だったんだよねぇ。
鴉の行動範囲なんて分からないからここにいなかったらどこで探せば良いのかも不明だし。
『一応画像でこれかな?と思う怪しいのは見つけたけど、本人は見つけられてない。
だから考えたんだけど、一時的に使い魔契約してくれない?
あいつを見つけて棲家まで追跡して貰いたいの』
クルミはそれなりに魔力で底上げしているので色々出来るのだが、私もクルミも直に見たことがない人間をクルミが探すのは無理だ。
防犯カメラの映像じゃあ霊的存在であるクルミには個別識別出来ないんだよねぇ。
実際にクルミの目の前で誰かに水鉄砲で攻撃してくれればやった人間を認識できるけど、どうも犯人はそれなりに用心深いのか臆病なのか、完璧な条件が揃わないと襲わない様なのであれだけしょっちゅうここら辺を彷徨いていたのにこの一週間でチャラちゃんしか襲撃していない事を考えると、襲撃を待っていたら捕まえるのにかなり時間が掛かりそうだ。
その点、この鴉の霊はあいつにちょっかいを掛けられているので、既に相手を認識しているから次に通りかかった時に後をつける事は可能だ。
公園で変な事をしていた奴が別口でなければ、だけど。
最終確認は棲家を特定して貰った後に私が相手の記憶を読めば良いのだから、別人でもそれほど問題はない。
『対価は?』
『魔力で払っても良いし、公園なり決まった場所で鴉とかに餌を暫く提供するのでも良いわよ?』
野良猫に餌をやるのもそれなりに嫌がられるのに。鴉に餌なんぞやったら顰蹙を喰らいまくりそうだから、認識阻害結界を展開してやらないとだけどね。
『ふむ。
あやつを懲らしめる為なのだろう?
魔力で手を打とう』
鴉が合意してそばに来た。
うっし。
これでなんとかなるかな?