退魔協会
「ほう、白龍様に手解きを受けられたのですか」
退魔協会の職員がメモを取りながら感心したように呟いた。
今日は私の発見報告と研修申し込みを兼ねて、碧と二人で退魔協会に来ている。
「ええ。
以前から霊が見えてはいたし、集中すれば祓えたのですが、独学だったせいで無駄があると何点かコツを教えて下さいました」
完全に独学と主張するのは無理があるが、藤山一族に現在在命の黒魔術系の才能持ちは居ない。
なので私の知識は独学プラス白龍さまからの薫陶と言う事にした。
『剣と魔法の世界で魔導師だった記憶がある』なんて言って鼻で笑われるならまだしも、下手に信じられたらそれこそ情報を搾り取る為に監禁されかねない。
白龍さまの勧めもあって、そのネームバリューをガッツリ利用させて貰う事にしたのだ。
「退魔協会にもその知識を分けて頂くことは可能でしょうか?」
職員が微妙に前のめりになって尋ねてくる。
「白龍様の了解を得ていただけば」
つまりは、ノーだ。
今までだって藤山家にそれとなく(場合によっては露骨に)頼んできたのに一度も応じて貰えなかったのだ。
余所者である私なら白龍さまの意向に気付かず(気にせず?)に情報漏洩すると思ったのだろうが、甘い!
それに・・・黒魔術は、魔術があまり一般的に理解されていない世界で迂闊に広めるべき技術ではない。
魂や精神という目に見えない対象に働きかける術だからこそ、魔術を知られていない社会での悪用の可能性は果てしない。
単純に対象物を破壊するだけの火系の魔術の方が、よっぽど結果的には安全だ。
「あ、そう言えば、白龍さまの勧めで研修が終わった長谷川さんと組もうと言う話になったので、彼女の登録が終わるまで私も仕事を請けるのをストップしますね〜。
事務所の設立とかで色々忙しいし。
この手続きの後で事務所設立の提出書類とかの事を聞きに行くので宜しくお願いしま〜す。
・・・そう言えば、新人リクルート報酬の所得税免除って事務所を開いた場合は法人税にも適応できるんでしょうかね?」
碧が軽い感じで付け加える。
流石に碧の友人で白龍さまにも縁が出来た私に変な事をするとは思えないが、それこそ白龍さまから教わった知識を盗み取ろうと研修を変な風に引き伸ばされても面倒だ。
なので私の研修が終わるまで碧は休業、邪魔をするなら藤山家及び白龍さまにも考えがあると言う脅しを掛けることにしたのだ。
碧の言葉にも拘わらず研修が妙に長引いたら、碧パパの出動だ。
そこまでいかないと期待しているが。
「そうですか。
協会からもパートナーとして相性が良さそうな人を紹介出来ると思うのですが・・・同じ女性同士の方が気安いのでしょうかね。
ちなみに所得税に関しては国からの個人へのささやかな謝礼なので、法人税には適用できません」
ちょっと顔を引き攣らせながら職員が応じる。
流石に大きな法人の税収を新人を見つけるたびにゼロにしていては、税収ロスが大きくなりすぎるか。
しっかし、『パートナー』ねぇ。
どうせ白龍さまが出動したら解決できない問題など実質ないのだ。
基本的に退魔協会が勧めてくる『パートナー』は親戚や近所のお見合いババアと同じで、『適齢期』の『見た目がよく』て『能力持ち』な『男』ばかりらしい。
どうも碧や藤山家の家族が求める人材の素養と、退魔協会が『お勧め』と考える人材の素養にはかなりの乖離があるらしく、それも藤山家が退魔協会に距離を置く理由の一つだと碧パパから合宿の際にこっそり教わった。
『場合によっては、それこそ酒や薬でいい気分にさせてベッドに連れ込めば女なんて体に流される生き物だなんて教わってるロクデナシもいるから、気を付けてね』と言われたのだ。
ビックリするぐらい、退魔協会のお偉いさんは頭が古いらしい。
つうか、若いのは比較的まともで老害のコントロールが出来てないだけだと期待しているけど、若いのまで頭が古かったらどうすっかね・・・。
「では、こちらが研修の詳細です。
来週の月曜日からで大丈夫ですね?」
私が提出した登録申請書をPCに入力していた職員が言った。
紙で提出させずに、タブレットやウェブサイトに直接入力させてくれれば良いのに。
めっちゃ古くない??
最近はお役所でもオンライン化に向けて動こうとしている時代なのに。
もしかして、政府機関じゃないから良いだろうと、退魔協会はデジタル化の波に乗らないつもりなのかね?
そんな事を考えながら、渡された詳細に目を通す。
カリキュラムや日程、場所は碧から聞いていたのとほぼ変わりはない。
夏休みで人数が増えて会議室が大きくなるかと思ったが、元より新しい能力持ちそれほどいないのか、変わらず退魔協会本館の小会議室Cだった。
部屋まで同じって・・・何か特別な防諜設備でも設置してある部屋なのかね?