マジで現実だったの?!
「ちなみに碧には陽菜さんの状態ってどんな風に視えてたの?」
家に帰ってお茶を飲もうと準備しながら碧に尋ねた。
解除しちゃった呪詛からでは呪師は追うのは難しいし、あれだけデリケートな呪詛では元々追跡は無理だった可能性が高い。
呪師の追跡は依頼の一部じゃなかったから、最初からそんなに真剣に追おうとはしなかったけどさ。
結局、動機とツイッターの消された書き込み、及びゲームシナリオ化について知っていた人間から推測して調べるしか無いと田加良氏には伝えて、我々は依頼を終了として屋敷から出た。
「なんか蜘蛛の巣みたいだったなぁ〜。
呪詛が縦糸で別の術が横糸って言うの?みたいな感じで、全体像がイマイチ視えなかった。
あれを私が解呪したら何か残滓が残りそうで不安を感じさせる術だったなぁ」
棚から茶葉を出しながら碧が応じる。
成る程。
的を射ているかも。
確かに蜘蛛の糸みたいにデリケートで細やかな術を組み合わせていたから、うっかり触れると巣が破けて残骸を退けるのが面倒なことになりそうなところとか。
精神というデリケートな対象だと、デリケートで繊細な術の方が魔力が強いけど大雑把な術よりも効果的にダメージを与えられる場合もある。
それと呪詛を噛み合わせるなんて、凄い技巧派だ。
あれだったら呪詛を返されても呪師には殆どダメージは無かっただろう。
精神系の術ってそれなりに対象をよく知っている、術の効果そのものが本人に違和感を感じさせない、もしくはじっくり時間を掛けて術を設置できる、と言った様な条件を満たせれば出力はかなり小さくても色々と悪事が出来るからねぇ。
そんな状況は限られるかも知れないが、人間ってある意味赤の他人よりも近しい人間を憎んで排除しようとする傾向が強いから、黒魔術と呪詛を組み合わせた術って言うのはこれからもお目にかかる事がありそうかも。
でも、一応碧にも黒魔術の術そのものは視えたのか。
だとしたら細心の注意を払って時間を掛ければ術を取り払うことも可能?
いや、だけど呪詛側の糸に触れると白魔術師の特効のせいで呪詛が返っちゃうから、巣を壊さずに撤去するのは至難の業そうだなぁ。
元素系魔術師にだったらどんな風に今回の術が視えたのか、興味があるところだ。
まあ、私が治癒したり風で埃を払えないのと同じ様に、他の系統の適性持ちでは精神や魂に干渉する術を掛けたり解除したりするのはほぼ無理なんだろうな。
そう考えると、私の適性を退魔協会に知られても、悪用しようとしない限りは悪しき術の解除に協力して報酬を得るのは悪い事じゃあない。
適材適所って奴だよね。
まあ、なのに白魔術師の治療を禁じる法律を作ったこの国の政治家は何を考えてんだろって話だが。
昔は医者の免許をあっさり交付していたのかな?
でも明治維新時代ではなく第二次世界大戦後の話だった筈だから、そこまで簡単じゃあ無かったと思うが。
白魔術師を抑えつけて無理矢理言う事を聞かせて、一般人ではなく『偉い』人間を優先させるのに丁度良いとでも思ったのかね?
政治家に逆らう様な白魔術師は、抑えつけられて権力層の為に顎でこき使われるぐらいなら普通の退魔師に転向しちゃったんじゃないかと思うけど。
◆◆◆◆
「あら〜」
数日後、タブレットでネットニュースを見ていた碧が声を上げた。
「うん?」
お守り作成から目を上げずに聞き返す。
「田加良コンツェルンの有力分家の一族である剱岳 翔氏が急に体調を崩して大学院を休学したんだって」
碧が教えてくれる。
「え、田加良コンツェルンってマジで実在したの??」
ラノベとかで財閥系の名称としてコンツェルンとかって見かけるが、現実ではもう無いと思ってた。
「高校時代は現実の日常生活を元にゲーム化したって陽菜さんが言ってたじゃん。
彼女が言っていたパーティとか財閥の関係者とか、全部実在しているし開催されてたよ。
だからその中に出て来た人物がゴシップニュースにでも出たらアラートが来る様に設定しておいたんだけど・・・どうやら陽菜さんが剱岳 翔と協力してコンツェルンの跡取りを狙うんではなく、分家である剱岳 翔がライバルと見做した陽菜さんを蹴落とそうとして友人を利用したみたい?
もしかしたら友人も一緒になって陽菜さんを嵌めようとしたのかもだけど」
おお〜。
あの面白くはないとはいえ、乙女ゲームもかくやと思う様なセレブな毎日ってマジで現実に基づいていたのか。
てっきりゲームのシナリオにするために妄想含みで誇張していたんだと思っていたよ!!
従兄弟に廃人になりかねない様な術を掛けられるなんて、金持ちは大変だねぇ。