凄い技術力
「こんにちは」
依頼主の娘は大学生になったばかりのお嬢さんで、私達より1歳下だった。
とは言ってもお嬢様学校出身の令嬢で、綺麗だし化粧のテクニックもウチらよりも遥かに優れていて、ちょっと映画祭とかのレッドカーペットに出てくるセレブの様な一般人と違う雰囲気を醸し出している。
私も碧も、ある意味命懸けの戦闘に巻き込まれるかもって覚悟は一応しながら働いているから、大学の同期よりも現実を見ているし、精神面では成熟していて一般人とは違っていると思う。
若々しさがなくって老けてるとも言えるが。
肉体年齢だけだったら碧が肌の状態をパーフェクトに維持してくれてるから若いんだけどさ。
お陰で基礎化粧品とかは最低限な安物で済ませても問題ないのは非常にありがたい。
それはともかく。
依頼主の娘は良家の令嬢らしく文句なく綺麗に着飾っていたが、卓越したテクニックでも青白い顔色と目の下の隈を隠しきれてなかった。
いや、顔色自体は無理やりパウダーで健康的な色に誤魔化しているんだけどね〜。
首の色も青白いのが隠せて無い。
ちょっと顔を誤魔化すのに必死になりすぎて視野狭窄を起こしたのかな?
「今日はどうもお時間を頂いて有難うございます。
田加良 陽菜です。
退魔師の方々に何か出来る事があるかは不明ですが、もしもこれが悪夢なら、是非とも起こしてくださると嬉しいです」
お嬢様なのに中々丁寧に挨拶してくれた。
「では、取り敢えずちょっと触らせて頂いて良いですか?」
呪詛や黒魔術系だったら私の方が見つけやすいので、ここは私の出番だ。
流石に依頼主の娘の頭に手を乗せるのは微妙なので、ちょっと肩に手を乗せさせてもらう。
ここら辺でもそれなりに本人の魂や精神といった部分にアクセスしやすいんだよね。
暫し目を閉じて集中し、田加良さんの精神を調べる。
確かに、何かあるな。
認識阻害の一種?
だが、普通の黒魔術の術では無く・・・範囲を広く浅く、そして継続時間を長くする為に呪詛の力を使っているっぽい。
へぇぇ。
こんな風に呪詛と組み合わせる事で黒魔術の効き方を変えられるなんて知らなかった。
ある意味、人を害する形で使うのが容易な黒魔術だからこそ、こんな事が出来るんだろうなぁ。
白魔術や元素系の魔術だって人を害せるが、黒魔術のじわじわと精神面から痛めつける効果って呪詛と似ているから相性が良いみたいだ。
そう考えると、自分が使う適性が何とも微妙で切ない。
とは言え。
範囲が広く継続時間が無制限っぽいが、内容は認識阻害の一種だ。
何かを思い違いさせる術。
短時間で、かつ大量に魔力を込めれば夫や恋人を見知らぬ他人だと思い込ませることも可能だが、それはちょっとしたパーティジョークっぽい形で使う程度で数時間程度を越すと対象者が違和感を感じて術が崩壊するのだが・・・。
幾ら呪詛で負担を軽くしているにしても、自分の前世だとかゲームの世界だとかと言った壮大な認識変更は普通だったら滅茶苦茶魔力を食って。数時間を越す規模でかけようとしたら術者が干からびて死にそうになる筈なのだ。
だがそこまで術が強力では無いのに、明らかに被害者は認識が変なことになっている。
今となっては思い込みが記憶の上書きもしているっぽいから、ちゃんと綺麗に術を解除しないで雑に呪詛を消すとこの思い込みと現実との見分けが付かなくなって、それこそ精神障害を起こしかねない。
呪詛と黒魔術を掛け合わせるとこんな使い方があるのかぁ。
何とも凄い技術力だ。
人を害するのに使っているのが惜しいけど、考えてみたらこんな技術なんてどれだけ磨いても悪事以外には収入に繋げられないよねぇ。
「ちなみに、先週倒れるまでは前世の記憶は無かったんですね?」
田加良さんの肩の上に手を置いて精神へ掛かる負荷をモニターしながら尋ねる。
「ええ。
家がそれなりに資産家なのである意味ゲームや小説にあるようなちょっと普通の人とは違う生活をしていると言う認識はある程度はありましたが、それ以外に関しては普通の人生を歩んできていたつもりでした」
田加良さんが頷く。
依頼主の父親の方も、娘はゲームとかがそれなりに好きだったが人並みに勉強や社交もこなす普通の娘で、特に聡いとか変な言動をするような事は無かったらしい。
ティーンエイジャーで社交を熟すって時点で私から見たら普通じゃ無いけどね〜。
「では、取り敢えずその前世の話を詳しく、登場人物の名前とイベント等々、詳しく教えて下さい」
碧がペンを取り出しながら尋ねた。
何かのゲームかラノベの世界観を現実と混合しているんだとしたら、どれが原作だか分かったら前世では無く今世のゲームだと理解させて思い込みを揺るがしたい。なので片っ端から詳細を調べるつもりなんだよね。
何でもネットで調べられる時代で本当に良かった。