非営利・・・?
「どうしたいって?」
愛理ちゃんがちょっと首を傾けて聞き返してきた。
「呪詛って返すと基本的に倍返しが自動で起きるの。
愛理ちゃんはどうもお母さんの祈りが効いていたのかまだあまり呪いも効果を発して居なかったみたいだけど、多分このまま放置したらそのうち事故で大怪我するか、場合によっては死んじゃうと思う。
で、そんな呪詛を倍返ししたらその呪いを掛けた人は死ぬ可能性もそれなりにあると思うけど・・・それで良い?
返すだけなら私達の知っている神社でお祓いをして貰ったらそれで大丈夫だと思う。
それよりも多めに手数料を私たちに払えば、倍返し無しで呪詛をキャンセルするのも一応可能だけど、そうしたい?」
自分を害そうとした人間を傷付けたくないと思うのはちょっと異常な博愛精神だと私としては思うが、例え自分の命が危険に晒されたのだとしても他者を傷つけるのは怖いと考える人間も時折いるからねぇ。
まあ、子供だとそこまで『命は尊い』って言う社会的通念に洗脳されてない場合が多いと思うが。
とは言え、自分の決定で敵対しているとは言え親戚が死ぬと言うのはトラウマになる可能性もある。
人格が歪んじゃったり命を軽視する様になったら不味いが・・・既に虐待を受けてあんな状況で母親を失っているのだ。
歪むタイプなら既に歪んでいるだろう。
多分。
それに、何も言わずに呪詛返しをしてもいつかは因果関係に気付く可能性があるし、幼いとは言えそこら辺は自己責任で決めて貰わないと。
私だって人の命を頼まれても居ないのに奪い去りたくはない。
「う〜ん、絶対確実に死ぬ訳では無いの?」
ちょっと考え込んでから愛理ちゃんが確認してきた。
「不運を呼び込むタイプだからね。
死ぬ確率は増えるけど確実に死ぬ訳ではない呪いだから、返したら不運に塗れるけどそれで死ぬとは限らない」
金をケチってこれにしたのか、偶々伝手があった呪師がこのタイプしか出来ない(またはしない)人間だったのか、もしくは流石に血の繋がった子供を殺す依頼は出したく無かったのか。
私としてはケチっただけじゃ無いかと思うが、そこは本人に会って確認しないと分からない。
親戚の子供の唯一生き残った親を死なせ、その後も悔い改めるのでは無く虐待しつつ子供の遺産を横領し、母親が悪霊化しても平然と除霊を頼む様な人間だ。
捕まって起訴され、損害賠償を更に訴えられている状況で呪詛を掛けたのは・・・愛理ちゃんに何かあって民事訴訟が有耶無耶になったら良いと期待してだろう。
もしかしたら、ケチったんじゃなくって既に資金が尽きかけていてお金が足りなかった可能性もあるかな?
「じゃあ、そのまま返しちゃって下さい。
民事訴訟でボロボロに負けて借金だらけになって苦労して欲しいけど、何かの拍子に逃げられたりしたら悔しいから。死んだらそれでもオッケー、死ななかったら訴訟でとことん追い詰める様に弁護士の先生にお願いするから!」
にっかり笑いながら愛理ちゃんが決めた。
ふむふむ。
そうきたか。
まあ、死ななくても不運は確実に呼び込む事になるから、十分狙った効果は得られると思うよ。
「ちょっと待ってね」
愛理ちゃんの頭に触れて呪詛を辿る。
『どんな感じ?』
黙って見ていた碧が念話で効いてくる。
『う〜ん、ちょっと話に聞く丑の刻参りの藁人形に似た感じの呪符だね。
叔母さんが対価として血を注ぐ事で呪った対象に不幸を呼び込む仕組みだわ。
ここから返したら叔母さんまでにしか行かないね。
こう言う呪符を見つけたら退魔協会とかに通報した方が良いの?』
単に叔母さんに返すだけだったら黒崎さんの神社で厄祓いをすればOKだ。
呪符を作った相手にまで辿りたいなら叔母さんの所に行って呪符を抑えないと厳しい。
『それって呪詛返しをしたら呪符の製作者まで辿れなくなる?』
『さあ?
何も対策を講じてなければ辿れるし、呪師が保険を掛けていたら呪詛返しが起きた段階で燃え尽きて証拠隠滅しちゃうだろうね』
実際に叔母さんの拘置されている所に行って部屋の中を探して呪符を見つけて調べなければ分からないので、なんとも言えない。
現実的な話として、私個人がそれをするのは不可能だ。
会いに行くのは出来ても、拘置所の個人の部屋へ入って調べるのはそれこそ何らかの捜索権限を与えられた当局の人間じゃ無いと無理じゃ無い?
『誰かがその呪師を探して当局に突き出す為の依頼を出していない限り、退魔協会も動かないからねぇ。
一応、田端氏に当局側がそう言う呪符を作る呪師を探していない事だけ確認して、黒崎さんの所で厄払いさせよう』
碧が退魔協会のスタンスを教えてくれた。
なるほど。
営利団体だから違法行為を見掛けても金にならなきゃ何もしないのか。
・・・考えてみたら、退魔協会みたいな業界団体ってNPO(non-profit organization=非営利法人)か公益法人か何かなんじゃ無いの??
利益を求めず公共のためにもっと動け!