起訴!
『安藤の奴はちゃんと傷害罪と殺人未遂で起訴されるって!』
数日ウチで源之助と遊びながら過ごした後、『もう落ち着いたから』と家に帰り、インターンシップや就職活動を再開した八幡先輩から電話が掛かってきた。
「お!
よかったですね!」
なんか裁判って2年とか3年とか続いていたり、10年ぐらい前の事件の控訴の判決が〜なんて新聞で見ることがあるから漠然と時間が掛かるんだろうと思っていたのだが、防犯カメラにあれだけ露骨に映っている上に現行犯で取り押さえられているから早く決まったのかな?
『興信所とそのまま契約し続けて安藤が釈放される危険性や過去の余罪を確認していて貰っていたんだけど、どうも精神鑑定が決め手だったみたい。
そこそこ上手に外面を繕っているけど、他者を自分と同じ『人間』と認識していない反社会性パーソナリティ障害なのでこの後も障害事件を起こす可能性が非常に高いって判定されたらしいの』
どうやって興信所が精神鑑定の結果を入手したのか、興味があるところだね。
それともこれって弁護士とかを通したら被害者なら入手できる情報なのかね?
プライバシーに関わりそうだからグレーな手段で入手した可能性の方が高そうだけど。
「まあ、間違いなくあれは反省ではなく逆恨みするタイプですよね。
しかも防犯カメラがあるところでやろうとするんだから、確かに衝動的で普通の精神構造じゃないのか」
実際、あいつの精神構造はちょっとどころでなく歪だったし。
『あのチャットアプリに来た言動を見てもちょっと異常だよね、あの男。
まあ、それはともかく。
こないだもストーカーされていた女性が殺されて、相談されていた警察が全然役に立ってなかったってメディアでバッシングを受けていたじゃない?
どうやらあいつがストーカーになって、内定を受けて人事に苦情を言った女性同期全員を殺そうとする可能性もあるって警察と検察の方で判断して、事件を起こした今回の件を利用して出来る限り拘束するしか対応策は無いって考えたらしいの』
随分とぶっちゃけた本音だね。
「凄いですね、そこまで興信所が調べて教えてくれたんですか?」
一体どこに盗聴器を付けたんだ??
『いや、こっちをこっそり教えてくれたのは検察の担当検事。
代わりに裁判での証言をお願いしますって』
小さく溜め息を吐きながら八幡先輩が裏を教えてくれた。
成る程。
あの『迂闊に被害者呼びするな』と言ってのけた警察がそこまで内情をバラすとは意外だと思ったが、検事だったらまた視点が違うのか。
ぶっちゃけることで放置する危険性を説明して、怖がって証言を拒否なんてしない様に釘を刺してるのかな?
八幡先輩なら怖がって証言しないなんて事はないと思うけどね。
まあ、考えてみたら殺人未遂で人前で襲った上に防犯カメラにもばっちり映っているのに、適当な傷害罪と執行猶予で解放した安藤が逆恨みして八幡先輩を殺したりしたら警察や検察の面目が丸潰れだよね。
そうならない為に、出来る限り出てこれない様に長い刑期を要求するのかな?
魔術があると制約魔術で被害者に二度と近づかない、二度と害を及ばそうとしないっていう制約を科せるから実際に殺していなかったら殺人と同じレベルまで厳しく対処する必要は無いけど、そういう行動を規制する術がない現世だったら解放したら殺人を犯すと見做して精一杯拘束する必要があるんだろうなぁ。
その分『反省している』って判断されたら刑期が短くなるんだろうけど。
でも、普通に思考能力があったら誰だって嘘をついて反省したふりをすると思うんだが、どうやって嘘を見抜くのかね?
まあ、少なくとも安藤に関しては殺意を抱いたら割れるほど頭が痛くなるし、害を及ぼそうとしたら下痢だしで、比較的安全だとは思うけど。
とは言え。
裁判が終わる頃にでも見に行って、人を殺せない様に強力な枷を科した方が良さげかな?