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遺伝子か環境か

「上手くいった?」

自信過剰男の対処を終え、電車で戻って来た私を迎えた碧が低い声で尋ねてきた。


「うん、色々とやっといたから、これ以上八幡先輩に危険は無いと思うし、多分警察の取り調べでボロを出して殺人未遂で捕まると思う」

バッグを寝室に放り込みながら答える。


「やっぱり殺す気だったの?」

台所に行ってコップを出しながら碧が聞く。


「なんかねぇ。

父親が公務員で国会対策とかをやっているとかで国会の開催中は殆ど家に帰ってこないし、その他の時期も忙しくて実質片親状態。母親は外資系でバリバリに働いていて習い事とかで時間を埋めれば親が居なくても大丈夫だと考えるタイプで、ほぼ子供は放置してる家庭だったようね。

で、保護者が必要な場面では父方の祖父母が色々と面倒を見ていたみたいだけど・・・なんか元々は地主の家系だったかでやたらと特権意識というか権利意識と言うか、一昔前のお代官様か殿様かって感じな人間だったみたい。

自分に不利な行為をする不届き者を罰するのは当然の権利って感じていたようね。

だから『罰する』つもりで階段から突き落とす、そこで死んでも自業自得って感じ?」


碧が顔を顰めた。

「うわぁ。

ジジ馬鹿丸出しで甘やかして育てたにしても、命は大切って教えなかったの?」


「みたい?

基本的に躾は親の義務って事で、学校で何かしでかしても揉み消すしかしないで叱るのは親任せ。親は忙しくて学校からの連絡なんて碌に目を通してないから、軽くお座なりに注意する程度で何もしないって感じだったようね。

地主みたいな良家だと意外と家を継ぐ子供はしっかり育てるところも多い筈だし、実際に息子はかなり厳しく育てたのに、孫は基本的に甘やかして問題を起こしたら金と権力で揉み消すだけで、何が間違っていたかの説明とか今後同じ間違いを犯さない為の話し合いとかは全部親任せ。

で、親は自分を厳しく育てたジジイがそんな手抜きしてると知ろうともしてなかったから、子供は何事も金で揉み消せると信じて育った様ね」

いくら祖父母は親じゃ無いって事で気楽に甘やかすのもある程度はアリだとしても、それは親がちゃんとしっかり子供の育児に関与している場合ならでしょうに。


基本的に親が忙しすぎて育児放棄に近い状態だから祖父母を頼っているのに、親が面倒な躾をしてると思って自分はペットの如く孫を猫可愛がりして育てるなんて、阿保すぎる。


「じゃあ、色々と揉み消された余罪もありまくり?」

碧が尋ねる。


「まあ、ある意味小さい時は田舎町の殿様っぽい感じで周りもたてつかなかったからそれ程目立つことはやってなかったみたい。

ちょっとした遊び半分の虐めで同級生に怪我をさせた事はあるけど、慰謝料を払った時は2月ほどお小遣いカットになって、それからは直接怪我をさせるのは止めてる。

中学や高校になって女の子の存在が気になり始めても、下心満載なのがガンガン寄って来たから問題が起きても金で黙るタイプばかりだったし。

大学に入ってからは流石にお山の大将状態から卒業する羽目になって、何度か上手くいかなかった女性に薬をもったりしたみたいだけどバレてないから正式には『余罪』は無いわね。

付き合った子に子供を堕させたのは何回かあったけど」

デートレイプ・ドラッグを使うのは明らかに違法行為だが、すぐに相手が気付いて調べなければ証拠も無く、有耶無耶に終わってしまう。


「クズだね」

碧がそう吐き捨てながら冷蔵庫から麦茶を出して注いでくれた。


「で、大学2年の時にそのジジイが死んだみたいで、お陰で就職を自力でコネなしでやる羽目になったのも不満だったみたい」

本人的には『知る人ぞ知る良い会社』では無く、『誰でも知っている超一流会社』に入りたかったらしい。

ところがジジイは既に死んでいて、親は良い大学に入るまでサポートしたのだから残りは自力で頑張れと手伝いは無し。


ある意味、付き合いが浅かったなりに両親は息子の歪さに気付いていたのかも?

だけど育児に失敗したって気付いていたならもう少し軌道修正の努力をしろよと言いたい。

『良い年した大人だから自己責任でやっていけ』で済む訳無いじゃん。

息子が起訴されたら親との関係も報道されるんじゃないの?

それなりに偉い国家公務員の子供が人前で殺人未遂なんて、面白おかしく書き立てられると思うんだが。


まあ、そうなったら自己防衛的に息子を守るかも?


結局、自信過剰男は自力では希望していた超一流企業に入れなかったので、取り敢えず入った会社で周りを蹴散らしてスピード昇進してトップに上り詰めて最年少で社長になるか、超一流企業から『是非来てください』と請われて途中入社しようと考えて、まず手始めに同期の女性たちを手懐けようとしていたらしい。


「それなりに良い企業に入れるだけの頭脳と外面の良さがあったのにねぇ」

碧溜め息を吐きながら言った。


「カメレオンみたいに『良い人』っぽい偽装がある程度は上手かったけど、基本的に自分は他とは違う、他より上だって根拠もなく信じていたから働き始めたら直ぐにボロが出たとは思うけどね〜。

甘やかされないで育ったらどんな人間になったのか、ある意味シミュレーションプログラムがあったら試してみたい様な典型的なグレードの低いクズだったわ」

人間は元々クズで生まれるのか、育て方が悪くてクズになるのか。

遺伝子と環境、どちらがクズの形成により大きく影響するのかって言うのは人類にとって永遠のミステリーだよね。


リロードなんて出来ないから同じ人材を育て直すのは不可能だけど、まともに育てたらどうなったのか、興味が湧かないでもない人間だった。


まあ、考えてみたら厳しく比較的まともに育てた父親だって一皮剥けば育児放棄しちゃう父親失格な人間なのだ。

元よりあまり期待できる様な良い素材では無かったのかも?


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