無理だと・・・期待してる
『やっぱり入ってたのはストーカー用のアプリだった・・・』
翌日、八幡先輩から報告の電話があった。
興信所の事務所に行って契約した八幡先輩が携帯を見せたところ、やはり見覚えのないアプリは位置情報の把握とかに使われる事が多いアプリだと教わったらしい。
「やっぱりですかぁ。
こう、情報の送り先を特定して誰からストーカー被害に遭っているのかを確定できません?」
ストーカーが自信過剰男であることを確定させて、関係を断ち切る必要があるのだ。
露骨に後を追っている写真を興信所が撮れれば良いが、不倫調査と違って街中を歩いているだけなので写真を撮っても文句の言いようが無い証拠写真にはなりにくいだろう。
先輩の家の郵便受けから郵便物を抜き取っている写真でも取れれば良いが、そんな事が簡単に出来る様なアパートに住んで居なかったらダメだし。
だからストーカー男がGPS情報を違法にアクセスしていたと証明できれば、その方がいいのではないだろうか。
『残念ながら、フリーメールの捨て垢っぽいから誰が情報を見てたかも分からないって。
彼氏すらいないのに不倫調査用のアプリを入れられるなんて、やめてくれって感じよね』
携帯からため息の音が漏れてきた。
おやま。
メールアドレスが無料で入手できるのは色々と便利だけど、個人認証をもう少ししっかりやって捨て垢でも本人に辿り着けるようにしてもらいたいところだね。
「では、暫くは尾行者が居ないかの確認ですかぁ。
携帯のパスワードもバレている可能性が高いから変えた方が良いのでは?」
違法アプリを勝手にダウンロード出来たのだ。
先輩がアンロックした状態の携帯を放置していたので無い限り、何かのタイミングでパスワードを入力しているのを見られたのだろう。
『うん、それは言われた。
あと、携帯を間違った番号でアンロックさせようとしたらカメラで写真を撮るアプリも入れたから、次のインターンシップの時にどうなるか要確認ね。
色々とありがとう。
取り敢えずは興信所が見張っている間は身の危険もないだろうし、就職活動に専念するわ』
ちょっと吹っ切れた様な声で八幡先輩が応じた。
まだ何も解決しちゃいないけどねぇ。
まあ、アクションを取ったことで状況をコントロール出来ている気分になれて精神的負担が減ったのかな?
いつまで興信所を雇い続けられるかは不明だけど。
ああ言うのって幾らぐらい掛かるんだろ?
クルミもちょっとした警備役にはなれるけど、護衛としては微妙だからねぇ。
遠隔でクルミ経由で術をかけてストーカーを撃退するのはそれなりに厳しいから、出来ればそこまで行かないと期待したい。
基本的に、ストーカー事件で殺人にまでエスカレートするのって何ヶ月も経ってからだよね??
内定が出てから出会ったんだとしたらまだ1、2ヶ月程度で安全圏内だと思うんだけど。
ちなみにクルミ経由での監視では誰かに尾行されているのか、分からなかった。
これが私や碧だったら誰かの注意が一定時間以上自分に注がれると分かる魔道具カードがあるので一発なのだが、あれは対象者じゃないと使えないんだよねぇ。
例えクルミで使えるサイズに作り直せても、クルミに注意を向けている訳ではないので意味がないのだ。
かと言って先輩に直接あれを持たせるのもねぇ。
例え退魔師であると打ち明けるにしても、ちょっと異世界知識が入っている魔道具なのであれが退魔協会にバレるリスクは取れない。
まあ、クルミには多めに魔力を注いだ別の魔道具を持たせてあるので、先輩の命に関わりそうな時はスペシャルなクルミ版昏倒用魔道具を使って襲撃者を撃退してもらう予定だ。
躓いて転んで頭を打った形に見える様に無駄に工夫を凝らした逸品だ。
お陰で昨晩は殆ど寝ていない。
一回だけだったら怪しくてもなんとか誰の目にも見つからないと期待している。
自爆装置をつけて、使ったら燃え上がる形にしたかったのだが・・・流石に聖域育ちの雑草にもそこまでの魔力は無く、かと言って白龍さまの爪の破片は強力過ぎて相手を殺しかねないので使えない。
まあ、もしもクルミがあれを使う羽目になってもそのまま本体に付けて持ち逃げ出来ると期待している。
うっかりぶつかった衝撃で外れて現場に残ったりしたらかなりやばいが、少なくとも指紋は残さない様にビニール手袋を嵌めて作ったからバレないと思いたい。
魔力の痕跡で人を探すのは前世でも難しかった。
こっちじゃあ無理だよね??




