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話を聞かない男


「あ、お久しぶりです!」

大学で学食から出てきたところで久しぶりに八幡先輩に出会った。

リクルートスーツを着ている。

まだ就職が決まってないんだ?

それとも内定者向けのインターンシップにでも行ってるのかな?


「あら、お久しぶり。

最近はどう?」

ちょっと疲れた様子で顔色も微妙な感じだが、いつもの社交的な八幡先輩だ。


「サークルはあまり出てないですねぇ。

やはりちょっと方向性が合わなくなってきたかも?」

手軽にできて興味のあるようなもう実験はやっちゃったし。

微妙に最近は凝り性過ぎる感じで、手間暇かけて皆で準備へのワイワイした一体感を楽しんでいる印象なんだよねぇ。


私があのサークルに入ったのはもっと実利的な理由だからだ。

なので科学が進んでいない世界の貧乏人の子供が、自力で安全に試行錯誤出来る範囲の事しかやるつもりは無い。

大人になってお金がしっかりあるとか、有力な商人や職人の協力を得られる立場になる頃だったら魔術だって使えるだろう。

そうなったらちまちまと金稼ぎをする必要は少ない可能性が高い。

だから大々的に準備が必要な『異世界転生あるある』な革新的技術にはあまり興味が無いんだよねぇ。


それに革新的過ぎる技術は魅力的すぎて、知識提供者の監禁リスクが高いし。

まあ、実際に転生するとも転移するとも本当は信じていない人達に私と同じだけの現実的な実現性を求めるのも間違っているし、最近は色々な魔道具モドキ作りでも忙しいしで、もうサークルは良いかな?って感じだ。


意外と魔道具系の物も作れるようになってきたから、来世での小遣い稼ぎはそっちもありかもだし。

とは言え魔道具も換金性が高すぎて、確固としたバックが居ないガキンチョが下手に売り出そうとしたら誘拐・監禁一直線かもだから、こちらも注意が必要だけどね。


本当にマジで、15歳まで前世の記憶が覚醒しないのはありがたい。

生まれた時とか、5歳ぐらいで覚醒していたら絶対に待ちきれなくてフライングして魔道具や便利グッズを売り出そうとしてやばい目に遭いそうだ。


それはさておき。

「八幡先輩は最近はどうですか?

ちょっと顔色が悪いみたいですが」

どこまで聞いて良いのか不明だが、この程度だったら許される・・・と期待したい。


はぁぁ。

八幡先輩が私の言葉に深く溜め息を吐いた。

「ちょっとねぇ。

内定は行きたかった第一志望の会社から貰えたんだけど、内定者向けのインターンシップで変なのに遭遇しちゃって。

あまりにもアレだからあんなのと社内で一緒に働くのは嫌だし、あんなのを採るような会社もちょっと微妙だから別の会社の方が良いかも??と思って就職活動を続けているんだけど・・・どうもストレスが溜まっているせいか、ずっと視線を感じる気がして休んでも疲れが抜けない感じがしてて」


ええ??

なんかヤバげじゃない??

「時間がありそうだったら、ちょっとお茶でも一緒に飲みません?

違和感を感じた場面とかの話とか、そのアレな人の話とか、聞かせて下さいよ。

一度誰かに話すと論点が整理されるって言いますし」


魔眼で人を好きな様に操ろうとする奴とか、気に入った人間を殺そうとする奴とか、世の中危険な人間は意外と多いのだ。

気のせいで済ませて、後で事件のニュースを聞いて後悔するようなことがあっては困る。


「そうねぇ。

ちょっと愚痴を聞いてもらうだけでも気が楽になるかもだし、良い?」

首の後ろを揉みながら八幡先輩が合意した。

疲れてるねぇ。

以前は元気溌剌とまでは言わなくても、常にピシッとしている人だったのに。


◆◆◆◆


「内定者向けインターンシップでは、会社の実在する問題について皆で考えて問題分析力やグループで作業する指導力とかを磨く感じなの。

社内のアンケートで集まった問題点で、それなりに対応が出来そうだけど大きすぎない案件が各班に割り振られて、提示された問題の分析のためにどんな情報が必要かレポートをまとめ、次に現状分析用の情報を与えられたら今度は解決の為にはどんな情報が必要か議論し、最終的には解決案の作成って言うのを週1で会って話し合いながら3ヶ月で終わらせるって課題なんだけど・・・そこで一緒になった男がねぇ」

深い溜め息が思わずと言った感じに溢れて、八幡先輩の言葉が途切れた。


「バカだったんですか?」

ただのバカならそこまで疲れさせない気もするが。


しっかし。

会社の問題なんて学生に話し合わせて何とかなるんかね?

実務経験も無いような学生の浅知恵で何とかなるなら、現場の人間がとっくのとうに何とかしていそうなものだが。

まあ、新しい視点って言うのが役に立つ場合もあるかもだけどね。

それに要は内定を出した学生に逃げられないよう、会社の人間や同期に一体感を覚えさせるのが主たる目的なんだろうし。


「頭は多分良いんじゃ無いの?

少なくとも計算は早いし。ネットとかを使って情報を調べる手際は良いんだけど・・・。

やたらと自信満々で、自分の意見と合わない言葉を全部スルーしちゃうのよ。

それだけでも十分ウザいんだけど、何故か私がそいつのことを好きだと思い込んでて、こちらからは課題関係以外では声すら掛けていないのに『どうしてもと誘うから付き合ってあげるよ』的な感じで食事とかについてくるし、家まで送ろうとしたりし、マジでキモいの」

寒気がするのか真夏だと言うのに腕を擦りながら八幡先輩が続けた。


えぇ〜?

それってマジでヤバい感じなストーカー予備軍じゃない??

と言うか、視線を感じるんだったら既にストーキングしてない?!


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