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難しいよね

「こちらは癌になって治療中だった一人暮らしの女性が、抗がん剤で具合が悪くなってお風呂場で倒れて亡くなっていた案件です」

青木氏に案内されながら古いマンションの階段を登る。


今日は久しぶりに霊障鑑定の依頼だ。

先日の魔素ダダ漏れ嬢(沙那さん)は弟子入りした後も数年修行しなければならず。力の制御を直ぐに覚えて辞めても最初に払う謝礼金は全く返らないと聞いて、諦めて能力の封印を退魔協会に依頼したらしい。

退魔協会の方は『個人情報ですので』と教えてくれなかったが、神社の方から碧が情報を仕入れていた。


それはさておき。

「病気で亡くなったのに悪霊化しているんですか?」

青木氏の説明に、思わず聞き返す。

ちょっとした事故だとしても、癌の闘病中だったら死ぬ覚悟も出来ていそうなものだけど。

事故物件化するなんて珍しい気がする。


「悪霊化しているかは不明なんですが、ここを借りた人達からは家族が自分の事をもっと親身になって心配してくれないのを恨む夢をしょっちゅうみると相談が来てまして。

元々、亡くなった方が母親から遺産相続で受け継いだ部屋だったらしいのですが、その遺産相続の際にお兄さんとかなり険悪になったせいで癌になったと連絡しても対応が冷たかったらしいですね。

他に家族が居なかったから結局その兄が遺産を相続したそうですが、面倒なので貸していたものの賃借人が居つかないので売りたいと相談を受けたんですよ」

青木氏が説明してくれた。


分譲マンションとは言っても、築50年近いエレベーターも無いような古いマンションだ。

こんなマンションの相続で険悪になるのかね?


まあ、遺産相続って金額そのものよりも如何に自分が相手より損してきたかと言う感情の拗れが根本にあるって聞いた気がするから、この案件の元と現持ち主にとっても感情が拗れた挙句の争いだったのだろう。


4階まで階段に登り、渡された鍵を開けて中に入る。

「なんか肌寒いねぇ」

碧が部屋の中を見回しながら言った。


貸し出し用にリフォームしたのか床板とか壁紙は新しく、綺麗な筈なのだが何とは無しに薄暗くて鬱々とした印象を与える部屋だ。


この寒さとこの印象、確実に霊が居そうだ。

瘴気はそれ程無いので単なる地縛霊でまだ悪霊まではいってなさそうだけど。


『私がお母さんの面倒をみたのに』

『いつもお母さんに家族全員で旅行に連れて行って貰って食事を奢って貰っていた癖に』

『一緒に同居して面倒をみてあげていたのにパラサイトシングルだなんて失礼しちゃう!』

霊は主寝室っぽい部屋でウロウロと彷徨いながらブツブツと文句を言っていた。


お風呂場で死んだんじゃ無かったの?

態々寝室に来て文句を言っているんじゃあ住民にとっては夢見は悪そうだね。

お風呂が霊のせいで肌寒いのも冬場は嫌だけど。


しっかし、兄妹かぁ。

そもそも、男と女だと争いになっても怒っているポイントがズレている事が多いから、話が平行線になってどちらかが諦めて折れない限りいつまで経っても解決しないらしいしね。

まあ、男兄弟の相続争いだって収まらない事も多いだろうけど。

ずっと同居して生活費を年老いた母親に頼っていた(多分)妹と、その分お金を出して貰っていた兄だったら、同額の遺産を残されてもどっちも納得いかないだろうねぇ。


ある意味、兄が奢って貰っていた食事や旅行代と、妹の30年なり50年なりの生活費を比べ、最後数年間の母親の介護を外注してたらいくら掛かったかも計算に入れて遺産額を調整すれば良いのに。


考えてみたら、兄妹って言えばウチもそうだ。

実家からはどちらも出てるから、同居している生活費補助分とか家賃相当額とかは考える必要は無いけど、介護とかが必要になったらそれなりに考えないと。

兄貴がこのまま北海道に残るんだったら親が人を雇うなり介護施設に入るなりしたとしても、見舞いとか手続きの負担は私の方が重くなるだろう。


その分を親への借りだと考えるなら良いが、負担のバランスと言う考えで遺産相続にて補償して欲しいと思うなら、親が健康なうちに兄貴も交えて話し合いをするべきだろうな。


まあ、いざとなったら親の霊も呼び出してどう遺産を割り振りたいのかはっきり言わせるって手もあるけど。

何と言っても親の金なのだ。

例え兄妹間での割り振りが公平では無いとどちらかが感じたにしても、それなりに理由はある振り分け方になるだろう。

少なくともうちの親は子供2人をどちらも大切にしてくれているからね。


これで親自身がどっちかの子を贔屓していたりしたら、遺産争いって泥沼なんだろうなぁ。


ブツブツ文句を言っている霊を見ながら、思わず50年後ぐらいの自分の未来に思いを馳せてしまった。


「遺産相続って難しいねぇ」

碧がポツリと言った。

碧のとこも男と女だし、神社って言う一族で継いでいく責務と資産があるから、余計に難しそう。


「ある意味、個人資産をきっちり使い切って親には死んでもらいたいかも」

自分に遺産が無くても構わないが、兄だけが貰ったらちょっとムカつくかもだからなぁ。


醜い争いをしない為にも、スッキリ綺麗に使い切って欲しいところだね。

そんな事をお願いしたら、想定外に長生きしたらどうするんだって親には怒られそうだけど。






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― 新着の感想 ―
[一言] 結末が不明瞭なまま次々と章が進んでしまうのは ストレスが溜まります。 ザマァは大切ですよ。
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