責任は取れないからね
「こう、正式な弟子入りでは無く、近所の知り合いを教える感じで時間がある時に教えてもらう訳にはいきませんか?」
ちょっと懇願するっぽく沙那さんが聞いてきた。
疲れ切った表情が晴れたら意外と可愛かった顔をそれとなく傾げ、心持ち目をウルウルさせて下から見上げても、私らも女だから効かないよ?
女である事をちゃっかり利用する事をちゃんと学んでいるとは、意外としっかりしているね。
「超常の力って近所の知り合いに護身術を教えるのと違って、残念ながら悪用すると一般の警察とかが取り締まり難いせいで教える側にもかなりの責任が問われるんだよね。
一人前の退魔師として退魔協会に認められるまで、教えた弟子が起こした騒動の賠償責任は師匠役も連帯で負うことになるの。
私たちはまだそんな経済的負担に耐えられる程の収入も資産も無いから、無理」
碧があっさり沙那さんのお願いを断る。
そうなんだよねぇ。
まあ、弟子入りに数百万円って言うのはぼったくりだと思うけど、下手に魔力の使い方を教えてそれを悪用されたらうちらが賠償責任を負う羽目になるから気軽に教える訳にもいかないんだよね。
しかも退魔師になるつもりが無く、単に力のコントロール方法を学びたいだけってなると一生一人前にはならないって事だから、沙那さんが死ぬまで責任が残る。
そんなのは冗談じゃない。
師匠役の連帯責任に一人前になるまで終了時が無いのって弟子入り費用をぼったくりレベルでキープする為の陰謀っぽい考えもあるんじゃないかと言う気もしないでも無いけど、力を持つ者はそれを振るったり教えたりするのに責任を負うべきなのも間違った考え方では無い。
力を振るう気が無くても、他者が振るうのを助けるんだったらそれに関しても責任を持つべきでもあるよね。
『可哀想だから』って力の使い方だけ教えて、それを悪用させないだけの責任感を叩き込まないのは間違っているし無責任だ。
前世では霊視が出来るか否かと魔物に襲われやすいかは関係なかった。
魔獣にとって餌は餌である。
だから現世のラノベにある、『幽霊を視える人間は憑かれやすい』と言う俗説は単なるそれっぽいでっち上げだと思っていたが、確かにこっちの世界では中途半端に才能があって魔素や魔力を垂れ流していると美味しそうに視えて霊に集られるのかも知れない。
そうなると、悪霊祓いを頼む依頼主から力の制御方法を教えてくれと頼まれる事もそれなりにありそうだ。
もしかしたら数百万円を弟子入りに取るって言うのも、どれだけ本気なのかを測る手段なのかも?
後は弟子になった人間が想定以上にダメ人間だった場合の損害賠償用。
ぼったくりも絶対にあるとは思うけど。
「そうですか・・・。
では、父に相談しますね」
元々ダメ元だったのだろう、あっさり引いて沙那さんは頷いた。
「じゃあ、神主さんに除霊が成功している事を確認してもらって、終わりにしましょう!」
碧が言いながら立ち上がる。
そうだった。
これだけ霊に好かれるタイプなら家に帰る前に何かを拾う可能性もあるから、是非とも悪霊フリーな状態である事を確かめて貰っておかないと。
空の魔石でもあればそれに魔素を流し込む程度の事を教えるのは吝かでもないんだけどねぇ。
その程度だったら変な違法行為にも利用できないから、弟子入りと賠償責任にも引っかからないと思うし。
ただ、何といっても魔石が無いのが致命的だ。
聖域の雑草を屑魔石代わりにお守りとか魔道具モドキカードを作っているけど、雑草は魔石とは違って魔力を込めやすく無いし、2、3回充填したらもう使えなくなるからねぇ。
それよりは厄除けのお守りでも持っておいてそれに力を込めるつもりで握っている方がまだマシかも?
ちゃんと効果のある厄除けだったら霊力が籠っているのもあるから、それに充填するつもりで持っていたら多少はお守りの効果が強化されて悪霊を弾く効果が上がる可能性はある。
とは言え、沙那さんの場合は魔力以前の状態だからねぇ。
多少は指向性を持たせられるかも知れないけど・・・たかが知れているから、早いところ封印してもらうのが正解だと思う。
どっかの旧家に弟子入りして才能が開花したら、跡取りの嫁にって話が出て玉の輿に乗れる可能性もゼロでは無いけど・・・男尊女卑の強い頭の固い旧家に嫁入りするのが幸せなことかはかなり微妙だ。
まあ私の知ったこっちゃ無いから、何も言うつもりは無いけど。
下手に何か言って、唆したなんて後からクレームが来ても困る。