協会に任せよう!
「疲れたでしょう。
ちょっとお茶でも飲んで休んで下さい」
碧の除霊が終わったタイミングで沙那さんに眠くなる暗示を掛け、お茶を一杯飲みながら休むよう言って隣の部屋へ碧と移動。
放置するにせよ、助けるにせよ、本人の前では話し合えない。
念話でも碧と私とで黙ってお互いを見つめ合うのも無いだろう。
「なんか変だよね、彼女?」
隣に部屋に行き、扉を閉めてから碧が低い声で言ってきた。
「魔力になる前の魔素がダダ漏れしてるから、それに惹かれてありとあらゆる通りがかりの浮遊霊が取り憑いているんだと思う。
あれはコントロールを学ぶか完全に封じるかしないと、お祓いできる神社から一生離れて暮らせないね。
・・・ちなみに碧って魔力と言うか霊力と言うかの練り方ってどんな感じに習った?」
人間が生成する魔素と魔力の違いなんてイマイチ分からないが、少なくともちゃんと魔力を練ってダダ漏れさせずに中に留めておけるように訓練したら魔素も漏れないんじゃないだろうか?
でも、魔力の練り方なんて言う基本を習ったのなんて遥か彼方の昔で、イマイチ覚えてないんだよねぇ。
寒村時代でも現世でも、覚醒した時点でやり方は分かっていて普通に魔力を練れていたから。
「ええぇ〜?
霊力の練り方を教えるの?
あれってそれなりに時間が掛かったよ?
依頼のついでに教えられるものじゃ無いし、教えるって時間を掛けても上手くマスター出来るか分からないから、お金を取って契約するのも怖いなぁ」
碧が顔を顰めた。
魔術学校でも魔力の扱いを覚えるのが早い子と遅い子は確かにいたなぁ。
魔力の扱いが当然な世界で、収入に直結するから皆が習得にこの上なく熱心だった頭の柔らかい小学生レベルのクラス内でも個人間で数ヶ月程度の違いが出ていた事を考えると・・・これから受験で忙しいであろう女子高生に魔力の扱い方を教える契約なんてしたら後で痛い目に遭いそうだ。
「どっかに弟子入りすれば良いんじゃないかとも思うけど、なんだって魔力じゃなくて魔素が漏れているんかね?」
あれのせいで致命的に魔力を練れないなんて事だったら弟子入りに大金を払っても時間と金の無駄だ。
魔素漏れが治れば完全に無駄では無いが、弟子入り費用は割高かも。
全く魔力に対する何の適性も無さそうな一般人よりは退魔師になれそうな感じがするが、本当になれるかどうかは何年か鍛錬しないと分からないからなんとも難しい。
「なんかこう、ああ言う魔素を吸収する魔道具って無いの?」
碧が好奇心一杯な感じで聞いてきた。
魔素の吸収ねぇ。
アンデッド発生防止の為に魔素を散らしたり吸収したりする仕組みはあったが・・・どんな構造だったっけ?
と言うか、あれって確か素材としてトレントの根が必要だった筈。
トレントが無理でも、何か植物系魔物の素材があれば一時凌ぎな代替品は作れるって聞いた気がするけど、魔物が居ない現世では無理だよね。
「植物系魔物の素材が必要だから無理〜」
『魔力を封じれば良いじゃろ』
突然白龍さまが現れて言った。
おや。
碧に関係がない人間に関して助言してくれるなんて珍しい。
「魔素を作っちゃっているのもそれで止まりますか?」
魔力を封じても、体が生成しちゃう魔素が止まるかどうかは微妙な気がしたんだけど。
魔封じが魔力の入り口と出口のどっちを封じているのかなんて考えた事が無かったからなぁ。
でもまあ、魔封じを受けた人が魔力が溢れて困るって聞いた事がないから、考えてみたらあれって魔力の入り口を封じていたのかな?
『うむ』
白龍さまが頷き、あっさり消えた。
白龍さまが助けようと助言するなんて、沙那ちゃんって性根が良い子なのかな?
だったらある意味退魔師になるのをお勧めしたい気もする。
まともな退魔師が増える事で退魔協会の自浄能力が上がってくれたら嬉しいからねぇ。
「う〜ん、魔力を封じるのってある意味退魔協会の専売特許的な罰則に近いから、凛がやれるって知られない方が良いんじゃないかな?
最悪の場合は白龍さまがやったって事にできるにしても、今回は無理をせずに単に沙那さんの親に魔封じの依頼を協会の方に出させれば良いだけでしょ」
碧が口を挟む。
確かに。
今まで、魅了系の力とかを勝手に封じて来たけど、あまりそう言う能力があるなんて知られない方が良いよね。
退魔協会の情報管理はザルだからあそこに知られたら実質業界で周知されるに等しいだろう。
しかも、下手して『封じられるなら封印解除も出来るだろう』なんて狙われたりしたら最悪だし。
「よし!
じゃあ、どっかに弟子入りするか、魔封じを退魔協会に依頼すべきって助言しよう。
やっぱあの状態で放置はちょっと可哀想だからねぇ」
それなりに出力がありそうだから、下手をしたら普通の地縛霊程度を凶悪な悪霊に育て上げかねない。