普通が良いんだけど
「見て見て〜!
可愛いし機能的だと思わない?!」
作業部屋でお守りを作っていたら宅急便を受け取りに玄関へ行っていた碧が現れ、段ボール箱を切り開いて中からピラミッド型のクッションっぽい物を取り出して見せてくれた。
「猫ベッド・・・だよね?」
クッションでピラミッド型は必要ない。
ビーズクッションにしては小さいし、猫ベッド一択だろう。
とは言え、猫ベッドも必要ないと思うんだけどなぁ。
「そう!
もうそろそろ猫用コタツの時期がお終いじゃない?
だから代わりのベッドが必要だと思って」
碧がにこやかに応じる。
ビニール袋から取り出し、ソファの上に置いた猫ベッドを源之助がちょっと離れた距離からじっと見つめている。
オスの方がメスよりも警戒心が少ないって言うけど、意外とベッドに関しては源之助って中々慎重だよなぁ。
「つうかさ、猫用コタツは電源を切っておけば別に普通にベッド代わりに使えるじゃん?」
猫が入りっぱなしでも低温火傷しない様に低い温度(と電気代)で機能する様にデザインされている猫用コタツは、人間用コタツを模倣してちゃんと四方を覆うカバーがある。
出入りしやすい様に短い一辺のカバーを持ち上げて洗濯バサミで止めてあるので、狭い場所が好きな猫の好みには十分合っているだろう。
中に居ても上に乗って寝ても居心地がいい様に中と上部にはふわふわのタオルが敷かれているし、電源を切れば夏でも使えるんじゃない?
どうせクーラーを使うから極端に家の中の気温は上がらないだろうし。
「いやいや、やっぱり普通のタオルよりもしっかりとしたクッションの方が良いじゃん?」
碧が主張し、中々近付こうとしない源之助を誘惑しようと思ったのか、おもちゃを猫ベッドの上に乗せて動かす。
シャカシャカと動くオモチャに呼び寄せられた源之助が猫ベッド側に来たところでオモチャをベッドの中に突っ込んで動きを止めると、源之助の注意がオモチャからベッドの方に移って匂いを嗅ぎ始めた。
考えてみたらどこの工場から来たか分からないんだから、一度丸洗いした方が良いんじゃないかね?
それとも猫を引き寄せる様な匂いを付けて出荷しているの?
「猫用コタツだけで3つもあるし、キャトタワーにもベッドになるボックスとハンモックもどきがあるのに、更にベッドは必要なくない?」
そう。
寒いからと碧は冬の間にリビング、作業部屋そして碧の寝室と三箇所分も猫用コタツを買っていたのだ。
「お、入った」
ずぽっとピラミッドの中に入り込んだ源之助を見た碧が嬉しそうに私の言葉をスルーしてコメントする。
「でも、出てきたね」
源之助は中の匂いをすんすん嗅いで、そのまま出てきてしまった。
「オモチャが邪魔だったかな?」
中を覗き込みながら碧が呟く。
まあ、確かにキラキラ反射するプラスチックの蝶々が付いた棒は上に寝転がってリラックスするのには向いてないだろう。
なまじピラミッドの入り口が数センチ上がっているせいで、棒の片側が浮き上がっているし。
碧がオモチャを抜き出したら、源之助が今度はピラミッドの外側の匂いを嗅ぎ始めた。
やはりリラックスするベッドと言うよりも見慣れぬ(嗅ぎ慣れぬ?)異物って感じなんじゃないかね?
「ブラッシングして抜けた毛でも擦り付けておいてみるかなぁ。
寒い時期のコタツみたいな誘引力が無いから使ってもらうのは難しそう?」
碧が難しい顔をして考え込む。
「更にベッドを買うならもう少し暑くなって夏用のが売り出されるまで待ってね。
流石に春用と夏用とで別のを複数買ったら置く場所に困るよ」
上が覆われていてあまり大きく無いふわもこピラミッド型は暑くなってきたら熱が籠りそうだ。
そうなるとオープン型のを買おうと碧が言い出すのはほぼ確実だろう。
「あ〜。
そうかもね。
取り敢えずこれを使ってくれる様になるまで、色々試行錯誤かな?」
碧が頷いてくれた。
「碧のベッドに持ち込んで抱いて寝たら『お母ちゃん』の匂いがついて落ち着くかもよ?」
基本的に誰かいたらリビングにいる事が多い源之助だが、留守番時は碧のベッドで昼寝している事も多いらしいから、やはり碧の匂いだと落ち着くのでは無いだろうか?
「おお〜。
確かに!
取り敢えず、今は肌触りのいいシャツでも入れておくか!」
頷きながら碧が自分の部屋へ行く。
猫の毛だらけになるから、取り返した後に洗濯するのを忘れない様にね〜。
リリリリ。
固定電話が鳴った。
コールIDを見ると、退魔協会だ。
前回の理沙さん案件から数週間経ったからもうそろそろ次の依頼が来るかと思っていたが・・・今度は普通な依頼だと良いなぁ。




