逮捕して終わりじゃないからねぇ
「詳しい話を聞かせて貰えますか?」
警察の児童虐待対策班の人は田端氏が既に連絡してあったらしく、直ぐに姿を現した。
児童相談所からの人はそこまでフットワークが軽くなかったのか、1時間ちょっと待つことになった。その人が来るまで愛理ちゃんは動かせないらしい。
なので別室で対策班の人が愛理ちゃんから話を聞いている間、私は私で田端氏に知っている事を説明する流れになった。
「東堂理沙さんと言うこの家に住んでいるあの中年女性の姪が、1年程度前に夫と一緒に交通事故に巻き込まれ、夫は即死、理沙さんも重症で入院となったらしいです。
他に頼れる親戚がいなかった為、理沙さんが入院している間だけ2人の娘である愛理ちゃんの面倒をみてもらうために理沙さんの叔母である彼女にお金を払う事を病院のケアマネージャーっぽい人経由で合意したらしいです。
その時は多少お金に煩い程度で普通の人に見えたから、退院後も日常生活に暫く不自由すると分かった理沙さんも家にくる様に誘われた際に合意したそうなんですが・・・まず家に来たら直ぐに生活費を出すためにキャッシュカードと暗証番号を要求され、それを渡したら離れの2階に押し込まれたそうです。
しかも外から離れの鍵をかけて。
食事は日に1回適当なレトルトとかを渡されて、水分は離れにあった洗面所から飲めと言われ、食料を渡すときに愛理ちゃんが外へ出たいと詰め寄ったらスタンガンで撃退されたそうです」
理沙さんの霊に言われた事をそのまま伝える。
「スタンガン?!」
田端氏が驚きと怒りに声を上げた。
だよね〜。
小学生の女の子だったらそんな事をしなくても十分コントロール出来ただろうに。
「当然、理沙さんは監禁されたままリハビリも、薬の入手も出来ず。
栄養も足りなかったせいかそのまま悪化して半年前ぐらいに亡くなったそうです。
叔母は亡くなった後に知り合いの医者に見せて『家族の元で休みたいと言っていたので退院させたらこんな事になって・・・』って嘘泣きしつつ死亡診断書をゲットして火葬し、そのままうまい具合に愛理ちゃんの後見人に収まって理沙夫妻の遺産と生命保険を好き勝手に使っているそうです」
『しかも愛理は学校にも行かせて貰えずに監禁されたままなんですよ!!
あれ程友達と遊ぶのが大好きな子だったのに!』
理沙さんが怒りの声(念話だけど)を上げる。
なんかこのままだったらマジで悪霊化しそうだね。
雨戸を叩いて除霊する為の人を呼ぶ様仕向けたのって、このままだとヤバいかもと本霊も感じていたからかも。
まあ、悪霊化云々以前に愛理ちゃんに助けは必要だったけど。
「愛理ちゃんは事故の後にトラウマや怪我で部屋から出てこなくなっちゃったって休学っぽい手続きをして学校にも行かせていないそうです。
学校や役所の人が来る前や、反抗的な態度を取ると碌に水も食料も与えずに物置に数日閉じ込めて心を折って外に助けを求められない様にしたんだとか。
どうしようも無くなって力を振り絞った理沙さんの霊が叔母の夢に出てやめてくれって懇願したり、全然それでは効果が無いのでせめて近所の人の注意を引こうと雨戸を叩いて毎晩音を立てる様にしたら、退魔協会の方に除霊の依頼が来ました」
死んだ霊なら誰でも夢に出たりポルターガイストもどきな動きが出来るわけでは無い。
娘の為に必死だったとはいえ、絶望で理沙さん自身が悪霊化しかけていたんだろうなぁ。
今は理性的だけど。
大体、子供のサポート体制にしたって休学と届出が出ていたとしても半年も放置っていうのは微妙だ。
もっと頻繁に会いに来て状態を確認すべきだろう。それに、オバサンが心を折って黙らせているにしても子供が怯えているのをプロなら察せられるものなんじゃ無いの??
引きこもっているって話の子供なんて基本的にいつでも家にいる筈なんだから、前もって心を折る暇もない様に抜き打ちで会いに来ればもっと話を聞けただろうに。
児童相談所って忙しすぎて一人一人にあまり時間を掛けられないらしいけど、明らかに制度が子供を守る役割を果たしてないよね。
「取り敢えず、愛理ちゃんからも虐待の話を聞き出せたらそちらで立件出来るし、あとは資金の不適切な流用が無かったかの確認かな?」
顎を摩りながら田端氏が言った。
「ちなみにこう言う虐待があったらちゃんと愛理ちゃんはあの女性の管理下から抜け出せるんですよね?」
虐待された挙句に殺されちゃう子供って、一度は児童相談所に引き取られたのに後で『心を入れ替えた』って主張する親のところに戻されて、結局元の虐待サイクルに嵌って殺されるってことが多いみたいだけど・・・大丈夫なんだろうね?
折角警察まで関与したのにまた愛理ちゃんが虐待的な環境に戻されたりしたら、今度こそマジで理沙さんが本格的に悪霊化しそうだ。
「少なくとも物置に閉じ込められていたのは事実だし愛理ちゃんは痩せ細っているから、あの女性への恐怖で虐待の事実を現時点で言い出せなくても、落ち着いて本当の事を話せる様になるまで別の所で保護されるのは確実だね。
理沙さんの死亡に関してだって場合によっては保護責任者遺棄致死罪が問われるかも知れないが・・・そちらは専門家に確認しないとなんとも言えないな。
少なくとも横領と虐待に関しては起訴できる様、私も努力するよ」
田端氏が力強く断言した。
『そんなことよりも、愛理はどうなるんです!?』
理沙さんの霊が苛立たしげに問いかける。
彼女の怒りに反応して、なんか部屋が肌寒くなってきた。
まあ、お母さんにとっては金の横領よりも、既に死んでしまった自分への扱いの責任追及よりも、重要なのは愛理ちゃんだよねぇ。
将来的には金も重要だけど。
「児童養護施設に引き取られるにしても、遠い親戚に預けられるにしても、愛理ちゃんの財産を保全できるんですか?
あと、心のケアも忙しい施設の職員頼りでは心もとありませんよね」
「・・・信頼できる弁護士に相談しておくよ」
大丈夫なんかね?