終わらないんだけど
「時間が掛かってすまない。
長谷川さんにちょっかいを出していたのは麻薬取締部のお偉いさんだった。
どうも最近検挙率が下がっているせいで警察との統合論が持ち上がってきて焦ったようだね」
白龍さまが天罰を下してから数日後、田端氏が現れて教えてくれた。
「はい?
麻薬の取り締まりって警察がやっているんじゃないんですか??」
暴力団とかの組織的犯罪の一部じゃなかったの、あれ?
「いや、麻薬の取り締まりは厚生労働省の権限下にあるんだ。
ただまあ、当然の事ながら警察との協力が必要だし、警察側にも薬物銃器対策課っていう部署があるから重複も生じている。だから一箇所にまとめた方が良いんじゃないかという議論は定期的に上がって来るんだが・・・権限を手放すのを嫌がる厚生労働省の言う事に耳を傾ける政治家が多いからね。
相変わらず効率が悪かろうと別組織のままさ」
肩を竦めながら田端氏が答えた。
へぇぇ。
確かに厚生労働省って利権が大きくて味方する政治家や役人が沢山居そうだから効率化の議論なんて進まないだろうなぁ。
それこそ幼稚園と保育園が別の行政省に管理されている不思議な状態すら解決の兆しは無いのだ。どこかの権益を剥がしとる議論っていうのは日本では進まないんだろうね。
麻薬捜査の組織改革もまだまだ起きなそうだ。
まあ、それでもお偉いさんが畑違いな私に変なプレッシャーを掛けてこようとしたんだから、何か話が上がっているのかな?
ちなみにあのおっさん、未だに謝罪に来ていないし連絡もない。
「国家の平安とか、警察っぽい言い回しだったのに紛らわしいですね」
確かに麻薬も被害者が多い犯罪だし、下手に国の中に入って来るのを放置したら被害者が加害者に成りかねないヤバい中毒性に繋がる犯罪ではあるが。
「政治的手腕と言うか自分と部下の役割の重要性を上手にアピールする事でのし上がって来た人だって話だ。
どうも厚生労働省関連の政治家から藤山さんの事を聞いて、その際に長谷川さんの話も小耳に挟んでしゃしゃり出て来たらしい。
純粋な警察組織じゃ無いから呪師にもあまり縁が無かったらしくて、長谷川さんがそう言う何かが出来るらしいって話を聞いて丁度いいと飛びついたって言うのが背景みたいだ」
田端氏が更に続ける。
マジで他に呪師を知らないから私に喰らい付いたの??
もしくは流石に呪師自体は知っていても、警察とか退魔協会に違法行為がバレないように呪詛を依頼する方法を思いつかなかったのか、もしかしたら依頼費をケチりたかったのかもだな。
でも、麻薬取締官のお偉いさん程度で退魔協会に圧力かけられたって言うのは意外だなぁ。
それとも回復符あたりを違法化するとでも脅したんかね?
厚生労働省だったら医療機関と合わせて回復師に対する規制の権限も持っていそうだから、そっちの方向で圧力を掛けやすい立場なのかな?
考えてみたら回復師に対する規制は退魔協会が求めたんじゃ無くって医療機関とかの既存権益側から押し付けられた制約だろうし。
「もしかして、回復師なら天罰の治療も出来ると思って頑張ってるんですかね?
未だに負けを認めてないみたいなんですが」
ふと、気になって田端氏に尋ねる。
いい加減土下座しに来てくれないと、こちらも連絡待ちで外出し難いんだよねぇ。
流石に下痢ピー状態で辛いところでやっと謝ろうと連絡したのに留守だったら可哀想かなぁと待っているんだが。
「あれ、まだ謝罪の連絡が来てないの??
警察でも公安でもないせいで防犯カメラの映像を見ても誰か分からなかったのが、天罰を喰らった治安組織系のお偉いさんって話でやっと正体が分かったんだから、天罰だって分かっている筈なんだが」
田端氏が意外そうに聞き返した。
「・・・もしかして、マジで食中毒か伝染病かと思って病院で治療しているのかも?
天罰だって本人が分かってないか認めてないんじゃない?」
碧が声を上げる。
なるほど。
天罰なんてあると思って無いから私を脅しに掛かったし、信じてないから自分の症状も天罰だと思って無くて小娘に謝罪するのを拒否しているのか。
私は別に謝罪されなくても良いんだけど、白龍さまにはそれなりに誠意を見せて反省の意と今後の行動指針に関して話さないと許して貰えないよ?
まあ、病院にいるなら脱水症状で死ぬってことも無いだろうから別に良いけど。
今回は退魔協会の職員がとばっちりを喰らって無いせいで、反応が遅いのかもなぁ。
白龍さまの話では、悪意の縁に退魔協会の職員は入って居なかったから対象外だったらしいんだよねぇ。
そう考えると、前回の誘拐事件で退魔協会は一体何に協力しようとしたのか気になるところだけど。
もう、気にせずに出かけよう!
終わらないで中途半端に続いている感じで、微妙に落ち着かないんだけどねぇ。