ヤバいおっさん
「呪詛が使えると聞いた。
どうしても国家の平安の為に排除しなければならない人間がいる。
数ヶ月程度だけ働けなくなれば良いのだ。国と国民の為と思って協力して貰えないだろうか?」
碧のマジックバッグとポーチが無事成功し、残った爪をどんな魔道具に使うのが一番効果的か碧と話し合っていたら、退魔協会から呼び出しを食らった。
依頼の内容を言わずに、何がなんでも来てくれと執拗に食いつかれ、時給も払うと言うので出てきたらなんか怪しげなおっさんからヤバそうな依頼を聞かされる羽目になった。
「何を言っているんですか。
呪詛は違法ですよ。
それに呪詛を解呪する術は取得していますが、そもそも自分から掛ける技能は持っていません」
退魔協会で呪詛の依頼を受けるなんて、終わってるし。
一体どれだけこのおっさんは偉いんだ??
退魔協会に登録してからは一応の為に国会のニュースとかはテレビで見て、偉い政治家とかの顔と名前を一致させる様にしているんだけど。こいつは見覚えが無い。
まあ、日本って密室で相談して裏で決めるのが好きそうな国だからねぇ。国会で数億円規模の政治的課題を無視して数十万円の問題に関して執拗に叩かれている大臣とかよりも、表に出ないフィクサーみたいのが実は本当の権力を握っているなんていう可能性は高そうだが。
「別に人を殺せとも、恒常的に害せよと言っているのでも無い。
一時的に機能できなくなれば良いだけなんだ。
報酬は弾む。もしくは何か願いがあるならばそちらを実現するのも可能かもしれないぞ?」
こちらの言葉を無視しておっさんが続ける。
うざいな。
「出来ないと言っているでしょう。
どれだけ魅力的な報酬だろうが、呪詛と言うのは特殊技能だからちゃんと教わって鍛錬しなければ狙った通りの効果なんて出せない様なんですよ。
違法な呪師はそれなりにいるし、どうせそう言う人たちとも伝手はあるのでしょう?
そちらに頼んで下さい」
携帯を取り出して画面を確認する。
圏外。
録音は出来るだろうけど、少なくとも通話は止めているようだ。
録音されても揉み消せると自信があるのかな?
圏外なのは流石に誰か分からない相手にまで話を聞かれたら面倒だと思っているのか。
誰だよ私をこのおっさんに推薦したの〜?
取り敢えず、いつ迄も付き合っても時間の無駄なので、立ち上がってドアに向かう。
「まだ話は終わっていない」
「1、そちらは依頼の希望を言ってきた。
2、私には依頼の履行に必要な技能が無いので無理。
3、出来ない事を話し合ったところで技能が生えてくる訳ではありません。
つまり、これ以上は時間の無駄です。
まだそちらが口にした内容は多分違法では無いのでしょう?
私はそちらのお名前も立場も存じ上げませんし。
このまま物別れ状態で終わらせるのが一番無難だと思いますよ。
私に害を及ぼすと、愛し子の生活に支障が出るからと言う事で白龍さまの天罰が下ると言う話を聞いていませんか?」
確かあれって言い出しっぺは退魔協会から紹介された政治家のお偉いさんだった筈だから、このおっさんだって聞いているんじゃないのかね?
「金ならいくらでも出す」
表情を変えずにおっさんが言い募った。
なんか不気味だ。
こちらを蔑視する訳でも、恫喝する訳でもなく淡々と言い募られるって中々威嚇効果が強い。
以前の政治家のおっさんとは格が違う。
とは言え。
流石に出来ないと言い張る相手を天罰を受けてまで脅したりはしないだろう。
なんだって普通にそこら辺の違法呪師に行かないのかねぇ。
もしかして田端氏の報告書に私が躓く呪詛っぽいのをあの宝冠に付与したって載っているのかなぁ?
そこら辺の情報管理はちゃんとやってくれる人だと思っていたんだが。
まあ、容疑者が躓きまくるせいで防犯カメラで見付けやすかったって話だから、報告書に載っていなくても噂にはなっていたのかもだが。
下手にプロの呪師を使うよりも後で弱みを握られたりしないと思ったのかね?
こんな怖そうなおっさんに違法行為の証拠を掴まれたら一生便利に違法行為の片棒担ぎをする羽目になる。
カルマだけの問題でなく、将来設計的にも絶対に御免だ。
「だから何度も言っていますが、悪戯程度ならまだしも、本格的に人を害するような呪詛は使い方を知らないんですよ。
これ以上話しても時間の無駄ですから、帰らせて貰います」
立ち上がってドアに向かう。
護衛っぽい人が邪魔しそうな素振りを見せたが、おっさんの方をチラリと見て横に退いた。
助かった。
昏睡させて排除するのは可能だが、有能な護衛を無力化出来るなんて知られたら別の意味で粘着されかねない。
天罰代わりにスタンガンでも持ち歩いて、怪しげな人には天罰の代わりに電撃喰らわせちゃうかなぁ・・・。