ドリルの達人?
「ダイヤモンドドリルでも使ったら穴ぐらい開けられるかなぁ?」
ついでに穴を開ける際に出来る粉をハンダにでも混ぜたら魔力伝導性を保持してくれるかもだし。
「そう言えば、言伝えによるとあの硯を形にしたのは職人じゃ無くって刀の達人だったらしいよ。
もしかしたらダイヤモンドよりも鋼鉄の方が良いのかも?
と言うか、刀って鋼鉄なんだっけ?」
碧がタブレットを手に取りながら言った。
達人ねぇ。
「そう言えば、前世のドラゴンスレイヤーなんかは武器も重要だけど魔力も必要って話だったなぁ。
魔術じゃ無くって魔力で剣を硬化して強化しないと、どれ程の名剣でもドラゴンの鱗を切れないって話だったから・・・昔の達人も刀に魔力を通して強化していたのかも?」
日本刀は鉄や岩をも斬れるって話だけど、戦で骨とかを切ると直ぐにボロボロになるとも聞くから本人の腕による最適な角度だけじゃなく、魔力(もしくは霊力)による強化で違いが生じるのかも知れない。
「ちなみに、刃物に魔力を通す練習はやった事ある?」
碧が鋏を手に、聞いてくる。
「ある訳ないじゃん。
肉体的な熟練度は生まれ変わったらリセットされてるっぽいし、そもそも魔術師って安全に守られた遠くから魔術を放つ存在なんだから」
と言うか、黒魔導士はそれすらもしなかったからねぇ。
一応、亡国の危機になったら死霊使いとして死んだ敵味方両方の死体を使って戦える様、年に一度は死霊を使う練習はさせられたけど。それも誰もいない様な山奥に連れて行かれてやってたし、そん時だって護衛がいたから私が刃物を振るう必要なんざ無かった。
「取り敢えず、家にあるドリルに魔力を通して少しでも穴が開きそうだったらダイヤモンドドリルを買うことも考えてみるって事で試してみようよ」
碧が立ち上がって納戸の方に向かいながら提案した。
「そうだね。
白龍さまの爪を粉状に出来たら色々と試してみたい事があるし、少なくとも穴を開けて糸を通せたら糸が緩んで落ちる危険も軽減できるだろうし」
やはり上から縫い付けるだけではポロッと落ちそうで心配だ。
出来れば穴を開けて固定したい。
・・・駄目だったら瞬間接着剤とかでべっとり留められないか、試してみるのもありかも?
瞬間接着剤で留めた物って発火しかねない程熱くなるとどう反応するのか知らないけど。
「取り敢えずはまず、そのままやってみるね」
碧が持ち出してきたドリルをコンセントに繋ぎ、爪の大きめな破片にドリルを立てた。
キュゥイーン!!
甲高い音が流れて、びっくりした源之助が寝室の方へ逃げ込む。
おっと。
敏感な猫の聴覚にはドリルの音は厳しかったか。
碧がドリルを止め、爪を眺める。
「・・・全然傷がついてないね。
どうやらこの粉はドリルのビットが爪に負けて削れた分みたい」
粉を払い、指先で爪を撫でてみた碧がため息を吐きつつ言った。
「スペアのビットってある?」
今付いているビットが先っちょが削れて摩耗しちゃった物なのだったら、魔力を込めるのを試してみるのは新しいまだ歯が残っているビットでやった方が良いだろう。
「ほい」
碧が紙の袋に入っていたビットの包みを渡してきた。
なんだってドリルやスペアのビットなんてマンションにあるのか、ちょっと不思議だが・・・聞かぬが花かな?
ドリルビットを一本手に取り、集中して魔力を流し込む。
硬く。
鋭利に。
穴を穿て。
ひたすら集中して無理やり魔力を流し込み、溢れでてくるのを掬って戻す様な感じで入れ込みながらドリルを受け取ってビットを嵌め、爪に立てて電源を入れた。
キウィィィィン!!
ドリルの回転に魔力を籠めた先のビットへの状態認識がついていかないので、取り敢えず魔力を流し込むことに集中してドリルを爪に押し当てる感じで頑張っていく。
甲高いドリルの回転音と、どんどん溢れ出る魔力を無理やりビットに押し込む為に注ぎ込む魔力の急激な減少で頭が痺れる様な感覚がしてきて・・・もう限界!と思った瞬間とほぼ同時に突然ガクッとドリルが突き抜けた感覚があった。
「おお?!」
慌ててドリルのスイッチから手を離し、爪を覗き込む。
「やったね!!!
穴が開いたじゃん!
やっぱり魔力を籠めて斬るのが正解なんだね」
碧が嬉しそうに言った。
斬るって言うと語弊があるが、取り敢えず穴が開いたからこれでしっかり固定出来そうだ。
じゃあ、マジックバッグの作成だ!!
・・・ついでに余った爪の破片や粉で何か魔道具を作れないかなぁ。
こんだけ頑張ったんだし。