ドラゴンキラーは居ない
「切れない・・・」
流石龍の爪。
ミニチュア魔素節約バージョンの爪でも鋼鉄(多分)より硬かった。
台所鋏で切ろうとしたが、歯が立たず。
もしかしたらと思って比較的新しい文房具用の鋏でやっても駄目。
「ペンチでぐいっとやったら割れないかな?」
碧がトンカチとペンチを持って現れた。
「ペンチに関しては、多分うちらの腕力じゃあ圧力が足りないんじゃないかなぁ。
トンカチは力一杯叩き下ろせる台が必要だね」
小指サイズなのでペンチで押さえて力一杯トンカチで殴ったらワンチャン上手くいくかもだけど。
「こう言う時って座布団で衝撃を吸収しちゃっても良いのかな?」
碧が首を傾げながら聞いてきた。
「どうだろ?
取り敢えず、座布団の上にこの木の板を敷いて、その上でやってみよう」
下に多少音が響くかもだが、まだ昼前だし大丈夫だと期待したい。
平日だからきっと下の住民も仕事か学校に行っているだろうし。
確かこのマンションって共働きが多かった筈。
最上階の大家夫婦以外にも高齢者夫婦は居るみたいだけど、それだったら朝は早いだろうし、耳も遠いだろう。
きっと。
まずはペンチでぐいっと握ってみるが、やはり割れない。
碧がやっても同じ結果。
だよね〜。
鋏で切れない強度がある物をペンチで割るのは無理だよねぇ。
と言う事で、私がペンチで爪を固定し、碧が跪いて思い切りトンカチを振り下ろす。
ドカッ!!
凄い音はしたが・・・トンカチが跳ね返っただけで、爪に特に変化は見えない。
「・・・白龍さま〜。
これ、切って下さい!」
暫しトンカチと爪を睨んでいた碧が、諦めて白龍さまに泣きついた。
前世でもランクの高い素材を扱える職人は少ないって聞いた記憶があるけど、腕が悪い職人に使わせるのが勿体無いって話ではなく、素材をそもそも弄れないのかぁ。
腕が良いと龍の爪とか鱗でも切ったり細工したり出来る様になるのだろうか?
考えてみたら符を書く際に使う硯は白龍さまの鱗を切り出した物だって聞いたけど、一体どうやって形を整えたんだろ?
前世ならまだ文字通りドラゴンを殺す武器とかだってあったし、そう言うドラゴンの牙や爪から加工した刃物もあったけど。
魔力を通して加工する事でとんでもなく強くなる金属もあるって話だったし。
・・・考えてみたら、魔力を通したら金属が変質するなら色んな合金のナイフとかに魔力を込めて何かに変わるか実験してみても面白いかも。
とは言え、こっちではドラゴンと戦う事なんかないから使い所はあまりないけど。
戦争になったらミサイルで遠距離からドカンだろうし。
前世でだって、黒魔術師が近接武器で戦う事はほぼ皆無だった。
王族が目の前で襲われた時には身を挺して守れって事で短剣ぐらいは持っていたけど、実質あれはレターオープナーだったなぁ。
『ふむ。
これで良いかの?』
ちょっと武器の必要性について考えていたら、白龍さまが座布団に近づき爪を握り締めた。
バキバキっと言う音と共にあれだけ強固だった爪があっさりいくつかの破片に割れる。
「ありがとうございます。
後は適当なサイズのを選んで碧のマジックバッグマジックポーチにつければ良いですね!」
アクセサリーとかを宝石を留める爪みたいのが欲しいが・・・考えてみたらホッチキスでもいいかな?
簡単に爪を魔法陣から外してマジックバッグを普通のバッグに戻せる様にするにはどうするのが良いかも考えないと。
うっかり簡単に外れる様にすると何かの拍子に普通のバッグに戻って中身をばら撒く羽目になりかねない。
しかも符だったら普通に亜空間から中身が出てくるだけで済むが、トートバッグにマジックバッグを入れていて、それが突如中身が入っているのに普通の袋になったらトートバッグが破裂するだろう。
人目を引きすぎるし、収納符でない事がバレかねない。
マジックバッグの存在がバレたら、欲しがる人間や組織が怒涛の勢いで群がってきそうだ。
まあ、現実的な話として現世ではマジックバッグを作るのに白龍さまの要らない部位か聖域にある魔力の籠った素材が必要だから退魔協会から極端なゴリ押しをされる可能性は低いかもだが、代わりに氏神さまの存在を信じていない様な一般人に粘着される未来が目に浮かぶ。
うむ。
マジックバッグの構造はよ〜く工夫して、万全にテストしないとね。