失敗した〜
「うっわぁ。
これは流石にうっかりやらかした時のダメージが大きすぎるねぇ」
碧が焼け焦げた和紙を覗き込みながらコメントした。
「だねぇ。
前世では王宮とかに入る際にマジックバッグを預ける決まりだったけど、うっかり持ち込もうとしても警報が鳴って捕まるだけで、突然バッグが火を吹くなんて事はなかったからなぁ。
びっくりだわ」
前世では通常だと魔道具は魔物の皮や魔銀に魔法陣を刻んで作った。
幾ら魔力を保持できるとしても、すぐに破ける弱っちい紙を使うなんて事がなかったし。素材の耐久性自体が全然違うせいなのだろうか?
それとも魔法陣に欠陥があるのか。
もしかしたら使い捨ての暗器的な魔道具には処分がしやすい紙を使っていたのかもだが、そう言う暗部とは尋問とかの時以外は関わりが無かったので詳しくは知らないんだよねぇ。
魔物の皮だって基本的にある程度はグレードがあって防具に使える様なのを使った気がするから、ちょっとした魔力の逆流(なのかね?)程度では発火しなかったのだろう。
こないだの風鼬モドキの皮を持って帰れたら素材として使えたかも知れないが、あれは証拠品として退魔協会に提出しちゃったからなぁ。
前世だったら魔物の骨とか、魔銀を使った魔道具っぽい小物も人気だった。
考えてみたら、普通の動物の死骸と取り替えてあの風鼬モドキは確保しておくべきだったな。
失敗した。
今回の試みだってポーチよりも腕輪の方が良いかもだが、素材が無いことにはどうしようもない。
前世ではそれこそ女性のちょっとした化粧直しの品とかが入る程度の小さな貯蔵機能付きの腕輪とかも人気だったんだよねぇ。
軍の上層部にいる貴族なんかは自腹で実用的な武器や防具を入れて持ち歩けるベルトなんかを持っているのも居た。
軍部でもお偉いさんだと書類仕事が多いし、普段は武器も邪魔にならないレイピアみたいのしか身につけていないが、突然魔獣が押し寄せてきた時なんかは即座に現場に出て指揮を取ることが求められるから自分の身を守る道具は常に身につけておく方が無難だったんだよね。
実際に軍部のお偉いさんが突如現れた魔獣と戦う羽目になる確率は流石に低かったが、そういう状況で情けない格好を見せると政敵やライバル派閥の士官に昇進時に色々と足を引っ張られかねない。なので上昇志向のある軍部の人間は誰も彼もがそう言うのに金を掛けていたのだ。
ああ言う連中だってうっかり武器を持ち込もうとする事はあった筈だが、突然どっかの准将のベルトが火を吹いたなんて話は酒場の笑い話にも出て来なかったよね。
やはり素材の耐久性かな?
「こう、魔力が逆流なり過剰になったら魔法陣が割れて魔道具じゃなくなる様な折り方は出来ないの?」
碧が別の試作品を手に取って尋ねる。
「う〜ん、次元魔術に触れたら動く様な術なんてあったかな・・・。
第一、前世のはうっかり禁止区域に持ち込んでも警報が鳴るだけで中身が溢れ出ることも無かったんだけど」
まあ、そこら辺のノウハウは前世で時空魔術の適性がなかった自分には入手する必要も機会も無かったから、どうしようも無いのだが。
出来ることなら警告を発して、マジックポーチの収納機能が失われる前に一歩下がって最寄りのロッカーにでもしまえる様にしたい。
「凛の携帯ホルダーはまだしも、私のポーチは収納能力を使うから機能が切れたら中身が溢れ出るしねぇ。
こう、次元魔術の結界に近づいたら警報が出る術とかってないのかな?」
碧が首を傾げながら言う。
魔力視の使い方の一種で結界は見極められる。
それを術として魔法陣化出来ないか、集中してみるか。
近づいたら震えるバイブ機能と、触れようとしたらバチっと静電気による刺激みたいのがくる感じに出来たら、うっかり次元結界に入ろうとしないで済む気がする。
呪詛を見つける為の魔力視を利用した魔道具の魔法陣は知っているので、あれの亜種っぽい感じに作成できないか意識すれば早く開発出来そうな気がする。
これはガッツリ集中して魔力を注ぎ込めば一晩ぐらいで出来ないかな〜?
しっかし。
魔道具の素材が無いのはやはり痛いなぁ。
何か現世の素材で意外にも魔力を保持できる物ってないのかね?