これは困る
携帯の下部3分の1だけ入るポーチと言うのは非常に安定性が悪い。
取り合えずお箸を両脇に突っ込んでセロテープで留め、その先に紐を付けて持ち上げたら何とかぶら下げられるが辛うじてと言う感じだ。
歩いている感じにベッドの上で振り回したら、すぐにひっくり返って中身(携帯)が落ちた。
ボトッ。
ベッドの上だから大丈夫だが、アスファルトの上だったら数回落としたら確実に携帯が壊れそうだなぁ。
『前もって分かっているタイミングならまだしも、動いて揺れている間に突然落ちるのをキャッチするなんて無理ですにゃ〜』
携帯に付けられた分体からクルミが文句を言う。
何とか落ちる時の衝撃を抑えられないか練習しているのだが、3回目で既に諦めてしまったっぽい。
根性なしめ〜。
「もっと頑張ってよぉ。
壁の上を歩いている時とか、うっかり落ちても猫ってしっかり足から降りるじゃない。
あんな感じに足じゃなくって念力を使えば良いのよ」
源之助だって偶に走り回っていてソファの背とかキャットタワーの上から落ちる時があるが、見事に足から着地している。
子猫で出来るんだから、経験豊かなクルミだったらもっと簡単に出来そうじゃん。
『念力は自分の手足とは違うし。
それに、携帯は自分の体じゃないから難しいですにゃ〜』
思わせぶりにクルミが言う。
「携帯に憑けるのは流石に無理だよ。
全然魔力が乗らないし、魔石っぽいのを貼り付けて壊れたりしても困るし。
第一、本体が携帯になっちゃったら多分スクリーンは見えないよ?」
出先でも携帯を見ようと企んでるでしょ?
授業中とかに勝手に携帯を使われて充電切れになったりしては困るから、釘を刺しておく。
と言うか、落下防止用に分体を付けておいたら勝手に携帯を使われてヤバいかも?
ピンバッチ型分体では携帯を弄れないと思うけど。
う〜ん。
クルミを使った携帯保護は無理っぽいなぁ。
無くした時用に分体を付けとくにしても、後は落ちない様に工夫するべきか。
「セキュリティゲート用の結界出来たよ〜」
碧がドアのところから首を突っ込んで声を掛けてきた。
「お、ありがと」
恒常型収納魔法陣を付けたマジックポーチがセキュリティゲートの結界に引っ掛かるとどうなるか、一応確認しようと結界の展開を碧に頼んでいたのだ。
「ちなみにそちらはどう?」
ベッドの上の携帯に目をやりながら碧が尋ねる。
「ダメだね〜。
どこから落ちてもすちゃっと足で着地する猫の反射神経って、携帯をキャッチするのには使えないらしい」
何と言っても本猫のやる気も危機意識もおざなりだしね。
「だったらもう、落ちない様にジップバッグとか普通のポーチとかに入れたら?
普通に袋に入っている方が使っていても不自然じゃないし」
碧が提案する。
いや、海辺にでも遊びに行くって言うんじゃない限り、ジップバッグに携帯入れてたら微妙だよ。
でも確かに薄い生地の袋に入れる程度だったら誤魔化せるかな?
服の内側に入れて『ポケットに入れてます』って顔をするならジップバッグでも良いかもだし。
「・・・そうだね、袋に入れたら落ちにくいしひっくり返りにくいね」
まあ、携帯程度の重さだったら態々マジックポーチにしないで普通にポーチに入れて持ち歩いても良いんだけど。
薄い布の巾着袋っぽいのを作ってポケットに入れる感じにするかなぁ。
まあ、それはともかく。
先にセキュリティゲートの方の確認だな。
携帯を出したマジックポーチの試作品を碧が設置してくれた小型セキュリティゲートに近づけたところ、一瞬結界の外に取り残されたように動きが遅れ・・・次の瞬間、魔法陣が燃え上がった。
「「うわぁぁぁ!!!」」
慌てて袋をシンクに投げ込んで水を掛ける。
「え、収納符ってゲートで引っ掛かると中身が出てくるだけじゃ無かったの?!」
前世でもマジックバッグの持ち込み不可な場所はあり、結界で入ったら警報が鳴る様なシステムはあったが、入ろうとしたらマジックバッグが燃え上がるなんて聞いたことないよ?!
「和紙製だから燃えやすいのかなぁ・・・?
収納符は入れた段階で魔法陣の魔力が使い切ってあるから燃えないで単に亜空間がキャンセルされて物が出てくるだけなのかも?
この試作品は継続的に物を亜空間に出し入れできるだけの魔力があるから、反応が違ったみたいだね」
碧が微妙に首を傾げながらも仮説を口にする。
う〜ん。
碧が昔空港のセキュリティゲートを壊した時みたいに、『入れない』か試作品か結界かが『破損』するかと思っていたんだけど、燃えるって言うのはちょっと同じ『破損』でも派手すぎて困るなぁ。
携帯を入れているポーチが燃えたりしたら目も当てられないぞ。
つうか、携帯って燃やしても大丈夫なの??
バッテリーが爆発とかしたら、更に危険なんだけど!?