時間停止機能が無くて良かった
収納の魔法陣を書き込んだ和紙を簡単に折り畳み、袋の形にする。
携帯が丁度すっぽり入るサイズにして、魔力を通してみた。
「まずは重さがどうなるかだよねぇ」
台所から板状の秤を持って来て、ティッシュの箱に寄りかかる様な形で立ち上がらせてマジックバッグ・・・と言うかマジックポーチ?を縦に乗せ、秤の電源を入れる。
マジックポーチに携帯を入れても秤の重さ表示が変わらないのを見て、碧が声を上げた。
「おお〜」
「それってどの位のサイズが入るの??」
身を乗り出して碧が聞いてくる。
「いや、中のスペースは等倍で大きくしていないから。
携帯の半分だけを入れる事で重さがゼロだけど携帯の受信も出来るポーチが欲しいんだもの。
大きくしちゃったら半分だけ携帯を入れるって言う使い方が出来ないじゃん」
まあ、碧用に作る時はポケットを2つ並べる形にでもしてもう一つのポケットには財布やメーク用品とかがある程度入る様にしても良いかも。
でも、恒久型がセキュリティゲートの所とかにある時空結界に触れるとどうなるのか、確かめないと。
毎回壊れるとなると面倒だし、爆発したりしたら騒ぎになる。
それはさておき。
電話の子機を手に取って自分の携帯にかける。
『ただいま電話に出ることができません。しばらくたってからおかけ直しください。ご利用ありがとうございました』
いつものアナウンスが流れる。
うん、やっぱり圏外だ。
マジックポーチもどきを手に取り、更に半分に折り曲げて深さを半分にして秤に乗せてからまた携帯を入れる。
袋の下の部分に魔法陣があり、範囲指定を袋の内径としているので何とかこれでも重さを打ち消すのは上手くいくと期待しているのだが。
「半分に折り曲げるなんて無茶苦茶なことが出来るんだ・・・。
重さはゼロにならないね」
秤を見ていた碧がコメントする。
「確かに」
上に出ている部分が後ろのティッシュ箱に寄り掛かっているのだが、その分が重さとして残っているっぽい。
でも、少なくともマジックポーチとしての機能は想定通り半分に折っても残っている。
手でポーチの下を押さえて完全に直立させたら重さが減った。
反対に、秤の上に横たえると携帯の重量のほぼ半分が重さとして認識される。
「これって上の重さだけが残ると紐でぶら下げた際にひっくり返らない?」
碧が問題点を指摘してきた。
・・・かも?
「紐の付け方を工夫する必要があるかもね。
あと、中身が出てこない様にしっかり固定しないと」
携帯を落として壊しても、無くしても、痛すぎる。
考えてみたら携帯を落としても見つけられる様にピンバッチ型のクルミの分体でも付けておくと良いかな?
落ちた時に衝撃を抑える様頼んでおいたらどうだろ?
クルミが他で何かやっている時でも咄嗟に反応できるか、そっちも実験した方が良さそう。
私に風系の魔術が使えたら落とした時に良い感じにエアクッションっぽくなる術を展開するのだが。
退魔協会で売っている符にも丁度良いサイズと威力の風系の術は無かったから、落とした時の探知用を兼ねて使い魔を利用するか、クッション性の高い携帯カバーを買うかの二択だな。
・・・クルミが忙しくなり過ぎるかも知れないから、もう一体使い魔を作るべきかも?
今度、クルミと要相談ってとこだね。
「さて。
肝心の通話の方だけど。
どうなるかな?」
机の上にマジックポーチを横たえて、携帯を半分入れた形で固定電話から携帯に掛けてみた。
『ただいま電話に出ることができません・・・』
あれ、ダメじゃん。
携帯を取り出し向きを逆さにして入れ直してもう一度掛ける。
『ただいま電話に出ることができません・・・』
「ダメ?」
碧が覗き込む。
「取り敢えず、どれだけ入っていても大丈夫なのか、試してみる」
携帯の下の部分1センチほど入れて、掛けてみる。
チャカッチャ、チャカッ・・・
明るいラテンっぽいメロディの着信音が鳴り始めた。
次に2センチ。
チャカッチャ、チャカッ・・・
これでも大丈夫な様だ。
今度は着信している状態のままゆっくり携帯を押し込み始める。
3分の1ぐらい入れた時点で電話が切れた。
「面白いね。
携帯の中の半導体とかバッテリーとかって亜空間の中でも問題なく動くんだね」
碧が興味深げに音楽を再生している自分の携帯をマジックポーチもどきの中に入れたり出したりしながら言った。
スピーカー部分がポーチの中に入ると突然音がプツリと切れるが、スクリーンを見る限り亜空間の中でも普通に起動してる様だ。
「確かに。
これで中の時間の流れが遅くなる様な機能付きだったらどうなったのか興味深いところだけど、幸か不幸かそういう機能は私の収納には無いから、丁度よかったわ」
後は、袋を3分の1に折っても機能し続けるようにするのと、中身が落ちない様な紐の付け方と固定する方法の工夫だな。
意外と良い感じにいきそうじゃん。
ふふふ〜。