転移者は?
「この卵凄く美味しい!!」
風鼬モドキを倒した事を依頼主に報告し、一応念の為にもう一晩泊まった我々に久保田夫妻がお礼として報酬とは別に新鮮な卵を1ダース程くれた。
ついでにオムレツやフレンチトーストのおすすめレシピも貰ったので帰宅後の夕食にオムレツにしてみたのだが・・・抜群に美味しかった!!
「久保田さんとこって通販もやっているって話だから、今度からここで買おう!」
碧も感激したのか、久保田さんから受け取ったパンフレットを見ながら提案してきた。
「だね。
ちょっと割高だけどケーキを買って食べるのと似た様なもんだし、これだったらフレンチトーストとかを自作しても店に行くのと同じぐらい美味しそう」
ウチにはオーブンは無いけど、電子レンジでも作れるタイプのスポンジケーキとかも試してみても良いかも。
いや、卵の味勝負だったらプリンとかが良いかな?
う〜む、楽しみ過ぎて考えてるだけで太りそうだ。
「そう言えば、2回連続幻獣絡みな仕事だったけど、意外と幻獣ってこの世界にもいるんですか、白龍さま」
オムレツの最後の一口を食べ終わった碧が白龍さまに尋ねた。
前世では幻獣ってそこそこ居たけど、あっちはそれなりに魔素があった世界だったから普通に幻想界から遊びに来た幻獣が魔素の濃い地域に住み着いて繁殖しているケースもあったからなぁ。
考えてみたら、前世の世界と幻想界ってどんな感じに繋がっていたんだろ?
『魔素が豊かな世界同士だとそれなりに繋がっておるから、幻想界の住民もあちこちに出歩いて気に入れば住み着いておるんじゃが・・・ここは魔素が欠乏状態だからの。
たまに何かの弾みで境界が開いても結界でしっかり保護しない限り自然に閉じるから、幻獣の数もそれ程多くは無い筈じゃ』
碧が『美味しいから!!』とお皿に出して勧めたオムレツをゆっくりと食べながら白龍さまが答えた。
龍の味覚ってどんな感じなんだろ?
幻獣の糧って高位であればある程純粋に魔素らしいから、味覚もそっちに特化しているんじゃ無いのかね?
それとも関係ないのだろうか。
「ちなみに世界の間の境界ってどの程度の頻度で開くんですか?」
前世では幻獣はそれなりに居たけど、考えてみたらあっちでは異世界からの転移者の話なんて聞いた事が無かった。
意外とラノベな設定って現実にはないよなぁ。
『それなりの頻度じゃぞ?
数十年から数百年に一度は日本国の領土内でも開いておるぞ』
おや。
だったらそれこそ第二次世界大戦以降でも一度ぐらいは開いているかも?
昔ならまだしも、現代社会に幻獣とか魔物とかが異世界から紛れ込んで魔素の補給の為に人間を虐殺したら大騒ぎになると思うんだが。
退魔協会が人知れず対処してきたんかね?
まあ、幻獣って言っても小さいのだったら普通の狩猟銃でも殺せる可能性は十分にあるけど。
大きかったら大騒ぎになるな。
「じゃあ、もしかして現代の地球上にも異世界からの転移者って居るかもなんですか?」
ちょっとワクワクした様に碧が身を乗り出して尋ねた。
『強力な魔術師がしっかり準備をした上で意図的に界渡りをしたので無い限り、人間では余程幸運に恵まれねば異世界間の移動の際に身体がズタズタになって死んでしまうからのう。
魔術師だったら魔素が殆どなくて碌に魔力の回復が望めないこの世界に態々来るとも思えんから、生きた異世界人は居ないのではないか?』
あっさり白龍さまが碧の話を否定した。
それこそ、ラノベにあるみたいな勇者召喚っぽい感じに地球人が魔術がある世界に誘拐され、強力な魔術師になり、どうにかして元の世界への境界を開くのに成功したら奥さんと一緒に帰ってくるかもという話かな。
要は実質ほぼあり得ない、と。
「人間では、と言う事は魔物や幻獣だったらもっと安全に行き来出来るんですか?」
だとしたらもっと魔物や幻獣がニュースに出て来ないのが意外だが。
全世界レベルだったら確率論的にここ数十年の間に何か来ているだろう。
『魔物や幻獣なら魔素の扱いが本能的に出来るから、界渡りを無事に生き延びる可能性が高いが・・・本能的にそれが出来るからこそ魔素が薄いこちらの世界に来ようとはしないと思うぞ?
昔の魔素が豊かな時代から住み着いている変わり者やその子孫ならまだしも、他のは居るとしたらうっかり追われていて落ちた様な弱くて小さな幻獣が多いだろうな』
オムレツの最後の一切れを食べ終わった白龍さまが答えてくれた。
「なるほど、だったらそれ程幻獣絡みな案件は来なそうですね。
普通の悪霊を除霊する方が気楽なので、良かった」
碧が安堵の溜め息を溢しながら言った。
確かにねぇ。
幻獣系だとある意味キツネや狼みたいな肉食獣っぽい相手と戦うなんて羽目になる可能性もあるし、あまり多く無い方が良いよね。
可愛いカーバンクルぐらいだったらペットにしたいかもだけど、魔素を満足するだけ提供出来ないから無理だろうし。
少なくとも転移してきた魔術師と戦う可能性が低いのは助かるわ〜。