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発酵と腐敗

「取り敢えず今晩は中で待ってみよう」

仮眠を取って夕食を食べ、結界の準備をし、暫し暇つぶしも兼ねて周囲を歩き回ってみたりといった事で時間を潰した私たちは、夜の9時半ぐらいに養鶏舎に来て小さな事務所っぽい部屋から椅子を取り出して鶏達が見える場所に陣取った。


「だね〜。

どうせならこちらを眠らせようとしてくれたら反撃兼ねて捕まえられそうだと思うんだけど」

碧が頷く。


「そうなんだよねぇ。

近づかれないでウチらがいる間中ここを避けられるのが一番困る」

今回の騒動が始まるまでは養鶏場を始めてから10年近く鶏を殺さずにいたのだ。

長期的に休眠状態になれる幻獣もどきな可能性がある。


我々に警戒して暫く休眠し、半年後とか1年後とかに活動を再開されたら我々の信用がガタ落ちだ。


「急に鶏を狙う様になったのってどうしてなんだろうね?

どっかの異界への境界が開いて幻獣とか魔物が迷い込んだのかな?」

碧が首を傾げながら言った。


「新規に迷い込んだったら人間を狙うと思うんだよねぇ。

どう考えても鶏よりも人間の方が一般人でも多少は魔力があってエネルギー源になるから。

そうなると昔からいた幻獣系の子孫で、人間に手を出すと危険だと分かっている知性がある存在って事になるんじゃないかなぁ」

比較的人間と共存しようとする幻獣だって、ここまで魔力がない世界にうっかり迷い込んでしまった場合は魔力を振り絞ってでも境界を開いて故郷に世界に戻ろうと、魔力の補充の為に人間を殺す可能性は高い。


これだけ数がいるのだ。

平民を殺しても大した影響はないだろうと考えてもおかしく無い。

だが、それもしていないのでこないだの柴犬フェンリルと同じで親から人間とは争うなと言い聞かされてきた可能性は高い気がする。


「今まで人間どころか人間に飼われている家畜も避けていたっぽいよね」

周りを見回しながら碧が呟く。


「交通事故とかで怪我をして回復する為にエネルギーが必要なのか、もしくは妊娠でもして仔を育てる為にエネルギーが必要なのか。

どちらにしても困ったもんだね」

交通事故ならワンチャン碧が癒せば良いかもだが、妊娠だったら殺すしかないだろう。


今まで血を繋いできたって事は幻獣なり魔物なりでも現地の動物と血を繋いできたんだからなんとかしてエネルギーの確保を達成出来てきたのだろうが・・・今の世の中では例え子育ての為でも人間の家畜を狙う様では存在を許容されない。


可哀想だと感じても、流石に責任を取って碧や私がずっと一生その加害者たる生き物のエネルギー補給をするのは厳しいし。

魔力も必要とする肉食獣を飼育する為に元気な生き餌の提供なんてただの女子大生な我々には無理だし、自分の魔力や血肉を与えるのも無謀だ。


「ちなみに、幻獣と魔物ってどう違うの?」

碧がふと改めて尋ねてきた。


「実質、発酵と腐敗の違いみたいなもんだね〜。

魔力を持つ生き物の中で、人と争わず時によっては助けてくれる存在が幻獣、絶対に助けない存在は魔物。

基本的に他の生き物と共生しようとか助けようとか思うにはそれなりに知恵が必要だから幻獣の方が全般的に賢いと言われてるんだけど、賢くても只管人間を食おうとするキメラとかは知性があろうとも魔物って呼ばれる」

だから幻獣でも機嫌が悪かったり、必要に駆られれれば人間を殺す。

まあ、人間だって人間を殺すんだから、人を殺すなら幻獣とは言えない!なんて主張するのも烏滸がましいよね。


前世の王族とかにも、絶対に魔物なんかよりも残虐だし考えなしに人を殺してるだろと思うようなのも居た。


「うわ〜。

魔物だったら人間に抑えようもない憎悪を感じるとか、そう言う訳じゃないの??」

碧が微妙そうな顔をした。


「人間は弱いくせに魔力が多い個体が多いから、餌として狙われやすいだけ。

一般的なゾンビでも生きた人間に寄っていくのと同じで、憎しみではなく単なるエネルギー補給の効率性の問題なんだよねぇ」

恨みや憎しみを感じながら死んで魔物化したゾンビだけでなく、それ以外のゾンビも普通に人間を襲うのは単に魔力の補充の為だ。

ゾンビのトロさで捕まえられる魔力持ちな生き物って人間以外殆どいないから、近くに魔力溜まりでもない限りゾンビって街道や街に向かって人間を襲う様になるが、そこに憎しみと言う感情はほぼ無いんだよねぇ。


「うわぁ。生きてるからってだけで憎まれるのも嫌だけど、餌扱いも複雑な心境だね。

久保田さんを狙わなかったって事は幻獣の子孫なのかなぁ。

微妙に殺しにくい」

碧が溜め息を吐きながら嘆く。


「妖怪だと思えば?

このまま放置したら久保田さん達は破産して、それこそそのうち首を吊りかねないんだから。そんな久保田さん達の悪霊を祓う羽目にならない為にもさっさと妖怪を倒そう」

前世だって人間に牙を向ければ幻獣だってあっさり狩られた。

と言うか、珍しい毛皮や羽、もしくは魔石目当てに罪もない幻獣が殺される事だって多々あったし。


「普通の害獣に一捻り効いたバージョンだと思えば良いか」


『その通り。

何か近づいて来たから、睡眠結界の準備を宜しく』

近づいてくる存在の気配を察知して、警戒されない様に念話で準備するよう碧に伝える。


昏倒結界にあっさり触れてくれたら一番楽なんだけどなぁ。




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