古都
「京都って結界だらけって事は、悪霊とかはあまり居ないの?
どうせならいつか依頼で行って見て回っても面白そうだけど」
いつから陰陽師とかが日本で活躍していたのか知らないけど、ある意味この国の魔術は途切れる事も弾圧される事もなく綿々と世界一長く続いてきた技術・・・かも知れない。
少なくともキリスト教とかイスラム教文化圏は中世とかでは魔術を弾圧していたし、中国だって詳しい事は知らないが文化革命の後とかは絶対弾圧したんじゃないかね?
どう考えても共産党と言う唯一の国の権力に、魔術師が社会的地位を保持したまま共存を認められるとは思えない。
教育レベルが高かっただけで懲罰的な扱いを受けた社会だったのだ。
限られた血と技術を引き継いできた人しか使えない能力なんて『特権的』として目の敵にされただろう。
裏では『命を奪わない代わりに』と便利に使ってきた可能性は高いけど。
韓国あたりだったら大丈夫だったかもだけど、あそこは結局歴史的に見ると第二次世界大戦後ぐらいまでずっと中国やら日本やらに圧迫され続けた土地だからなぁ。
あまり技術が伸びたとも思えないが・・・もしかしたら自己防衛系の技術は世界一の可能性もあるか。
まあ、呑気に弾圧されずにそれなりに権力者と仲良くやってきたせいで日本の退魔師がショボいのかもだけど。
イマイチ他国の術師との技術比較が出来ないんだよねぇ。
マジで魔術界のオリンピックとかノーベル賞みたいな腕や研究結果を自慢し合うイベントがあれば良いのに。
折角魔術が戦いに使われない(多分)世界なのだ。
もっとオープンに技術をシェアして磨き上げていけば良いのに。
まあ、磨き上げてもやる事が悪霊退治に代わりないのだったらやり甲斐がないかもだけど。
それに技術を磨き上げた結果、前世のマッド研究者タイプの黒魔術師みたいに世界の理に挑戦されても困るか。
「京都での依頼は絶対に来ないよ。
地元の退魔師が伝手で頼られて先に解決しちゃう事が多いし、そうじゃなくても余所者に頼むなんて恥だって事で絶対に外部者に任せないように名家の連中が中からも外からも退魔協会にもバリバリに圧力かけてるらしいから」
源之助をそっとブラッシングしながら碧が教えてくれた。
「へぇぇ、じゃあ碧も行った事無いの?」
「中学の時の修学旅行で行ったけど・・・なんかこう、排他的な力が結界から滲み出ている感じで頭が痛くなって大変だった」
碧の顰めっ面を見るに、かなり酷かったらしい。
「偶々風邪をひいていたとかじゃないの?」
入るのを拒むとか力の行使を禁じるって言うのならまだしも、結界が『排他的』な効果を持つなんて聞いた事がないんだけど。
「白龍さまが街中に残っている全部の術をぶっ飛ばしてやろうかと怒ったら、どっかの神社の氏神さまがすっ飛んできて許してくれって土下座して頼み込んでたから風邪じゃないと思う」
肩を竦めながら碧が言った。
流石白龍さま。
現世まで残っている氏神の中でも抜きん出てるのか。
まあ、無意味な人間同士の争いに巻き込まれやすい古都の氏神なんて消耗しそうではよねぇ。
室町時代の後半からは京都が焼き払われる事も多かったらしいし、疫病が流行る事も多々あっただろうから氏子を救おうとそれなりに力を使う羽目になっただろうし。
武田家の侵攻とかはあったにしても諏訪の方が京都よりはマシだったんだろうなぁ。
無闇に民を救おうとしなかったのかもだし。
「へぇぇ。
排他的な力ってちょっと怨念的なイメージ?」
余所者や田舎者を見下す偏見って怨念的な感じになるのだろうか?
「う〜ん、長い年月の間にどの家もそこそこ血が混じっちゃったせいで、他家に対する結界が実質全部余所者に対するモノみたいになっちゃったんじゃないかなぁ?
だからローカルな人は比較的平気でさして支障なく暮らしているけど、京都の血を引いていないとあちこちで結界に引っ掛かりまくって疲れるのかも」
碧が軽く首を傾げながら言った。
「うちって一応母方があっちからの家出娘らしいから、だったら私は大丈夫かも?」
とは言え、あまり魅力的に聞こえないから態々お金を払って行く気は失せたかな。
下手に血縁だってバレたら面倒な事になるかもだし。