パンドラの箱?
「ところで長谷川さん、『テイマーっぽい才能』と言うのはどの程度の事が出来るのか、大体でいいのでお伺いできますでしょうか?」
猫好きおっさんが出ていったあと、するっと別の職員が入って来て目の前の席に座り込んだ。
あのおっさんとの時間は時給払いしてくれるって事だったけど、この職員との話の時間もそれに含まれるのかね?
どう考えても目的が違う様な気がするんだけど。
退魔協会にも意外とまともそうな人が居る(猫好きに根っからの悪人は居ない!)と思ったら、これか。
相変わらず、悪い方の予想を裏切らないね。
「基本的には、自我がしっかり確立している個体なら意思疎通が出来ると言う程度ですね。
ただ、意思疎通ができても相手が言う事を聞いてくれるとは限らないので『利用』と言うのは難しいかも?
まあ、山間で誰かが行方不明になった場合なんかで、付近に住んでいる猛禽類に上手く会えたら肉を与える代わりに捜索を手伝って貰えるかも?」
とは言え、悪霊が原因で大量に行方不明者が出る様な案件以外では退魔協会に捜索依頼は来ないだろうけど。
登山者が良く迷子になる様な山のそばに住んで鷹匠っぽい事をやっていたら捜索の手伝いもできるかもだけど、それで生計を立てるのは難しいだろうね。
ヘリコプターで捜索するなら何十万とか何百万の捜索料を請求できるかもだけど、元々飼っていた鷹に探させるなんて言う場合だったら精々数万円程度の捜索料しか依頼者側も納得しないだろうから、普通に退魔師の依頼を受けている方が時間効率は良い。
「こう、怪しい家の中を探ったりも出来ますか?」
適当に煙に撒こうとした私の意図を無視して、職員がずいっと聞いて来た。
「難しいですねぇ。
私と念話で意思疎通出来ると言っても、普通の人の会話を動物が完璧に理解している訳でもないですし。当然字を読める訳でもないので、家の中に入ってもらっても教えて貰えるのって中の人物が何処にいるか程度でしょうから。それだったら普通に赤外線センサーみたいので分かりますよね?」
少なくとも海外ドラマなんかでは突入前に何処に犯人や人質がいるか、調べられているぞ。
第一、そんなヤバい状況だったら呑気に猫や小鳥が中に入っていけるとも思えない。
まあ、この職員が考えているのはもっとスパイっぽい情報収集だろうし、実は動物でも人に飼われていたのなんかは言葉を理解しているのも多いけど。
それを言う必要は無いだろう。
と言うか、黒魔術系の適性持ちなら私が出来る様な程度の事は普通に出来ると思うんだが。
やろうと思った事がないのか、それともコツを教わらないと難しいのか。
使い魔契約とか、それの前段階の意思疎通なんかは魔術学院でごく早い時期に学んだ初歩的な技術だったんだけど・・・初歩的でも取っ掛かりが無いと難しいのかね?
さっきのおっさんに契約を結べるって言っちゃったけど・・・これは白龍さまから教わったって事にしておこう。
「そうですか・・・。
こう、寝たきり老人なんかの家に住む猫なんかに異変があった際に連絡させる様な事が出来たら凄く良いと思ったのですが」
残念そうに職員が言う。
いや、寝たきり老人が猫をどうやって飼うのよ??
猫の世話をする人間がいるなら、その人が異変があった時に連絡してくりゃ良いだろうし、今だったら色々と高齢者用監視器具みたいのもあるでしょ。
「今だったら色々と機械が発達していますから、それで何とでもなるのでは?」
一体誰の家をスパイさせようと考えているのかね?
退魔協会に敵対的な政治家も家の猫でも上手くこっそり使い魔化できたら色々とヤバい情報を抜き取れるかも知れないけどさ。
普通に金持ちや政治家相手にそう言うサービスを始めたら、直ぐに情報が知れ渡って猫を飼う権力層が減るだけじゃない??
まあ、ネズミとかを使い魔化して家に潜入させる手もあるが。
こっちの世界ではそう言う使い魔による侵入への対策は遅れてそうだからなぁ。
でも、今までだって式神系の使い魔はいたんだから、ある程度の対処法は確立してるよね??
私がうっかりパンドラの箱を開けちゃったなんて事が無いと期待したい。




