終了。
「結局、何が起きていてどう解決したのか教えて下さい」
あの後あっさり目的地の村に着き、問題は解決しました!と明るく依頼主に言って温泉に突撃した我々の部屋に、夕方になって試験官のおっさんが現れた。
後で話を聞きに行くとは言われていたので、普通に服を着直していた我々は窓辺にあったローテーブルの側の椅子に座って試験官にお茶を出した。
「あの犬っぽい生き物は、白龍さまの故郷の知り合いの子孫だったようですね。
どうも親が死んだ後、独り寂しく熊や鹿を食べて生きていたところ、ちょっと出歩いた際に車にぶつかられて怖くなって人避けの結界を霊力の籠った親の遺骨の凝縮した物か何かを使って展開していたようです」
碧があっさり答える。
「あのサイズの犬が交通事故ですか・・・」
ちょっと呆然と試験官が繰り返す。
「騒ぎになっていないなら、夜だったんでしょうね。
暗かったら鹿か熊にぶつかったと思ってそのまま運転し続けたんでしょう」
考えてみたら、暗闇で何かに車で当たったら一度降りて人じゃ無いか確認すべきじゃ無いのかね?
でも、ぶつかった相手が熊だったりしたら気が立っていて攻撃されかねないから、車から出るのは無謀かも。
北海道だったら何も無い山道を歩行者が歩いてたりしなくて、人間を轢く可能性は除外していいんかな?
アメリカなんかはちょくちょくヒッチハイカーがいるって話だけど、あまり日本はそう言う慣習って無いよね。
多分。
つうか、日本よりよっぽど治安が悪いアメリカでなんだって車と言う密室に素知らぬ赤の他人を乗せたり乗ろうとするのか、理解を超えるけど。
危険すぎるだろうに。
まあ、それはともかく。
「その人避け結界を展開するのに使っていた動力源を利用して白龍さまが一時的に故郷へのゲートを開いて、あの犬っぽいのを連れて行ってくれたんです。
流石にあのサイズの犬科の生き物を野に放つのはちょっと危険な気がしますが、殺すのは可哀想だしなんと言っても難しいでしょう。
仲間がいる世界へ送り返すのが一番無難な解決方法だったと思います」
元祖フェンリルだったらライフルで撃ってもそれこそピンポイントで目玉を撃ち抜くとでも言うんじゃ無い限り怪我一つしないと思うし、怒らせたら真夏でも吹雪を呼び起こして襲撃者を全員凍らせる事が出来る。
まあ、地球じゃあそれをやった後に魔力の補充が出来なくて、只管数の暴力で何度も攻撃されたらジリ貧状態に陥って最終的にはフェンリルでも負けてしまうだろうが。
あの仔がどの程度能力を引き継いでいるか不明だったが、母親の魔石があったし命の危険に晒されれば本能的に足りない魔力分を命を削ってでも反撃して来ただろうから、この段階で殺そうとするのは間違いだろう。
日本の増えすぎて困っている鹿の駆除役として活躍してもらうと言うのも一つの解決策ではあったかもと思うけど、現実の話として車サイズまで大きくなる可能性の高い肉食獣を野に放つのは反対が多いだろうし。
「ちなみに、余所者がいる場合だけ道に迷った理由は?」
試験官が尋ねてきた。
あ、やっぱりあの仔の言葉を聞き取れて無かったんだ?
つまり、この人は黒魔術系の適性持ちじゃあないのか。
マジで今回の依頼ってどこまで偶然でどこまで計画的なのか、知りたい・・・。
「私ってテイマーっぽい才能があるのか、頑張ればそれなりに自我の確立した動物とかと意思疎通ができるんですよ。
あの仔は死んだ母親に人間とは関わらないように生きていけって言い聞かされていたみたいですね。
だから交通事故に遭って怖くなって人間に近寄るな!って結界を展開したものの、近くに住んでいる人間が家に帰るのは邪魔しない様にって考えていたようです」
人間でそんなデリケートな条件付けをしようと思ったらかなり難しいし高度な技能が必要になるのだが、幻獣は本能で魔力を使う種族だからねぇ。
思っている通りに魔力の方が願いを叶えてくれたようだ。
「あの様な存在は他にも居るのでしょうかね?」
試験官が碧の方を見つつ尋ねる様に呟いた。
「古くからいる氏神さまや妖怪伝説はそう言う存在に基づくと言う話ですよ?
ただ、元の世界に還らずに現代社会の人間へ興味を持ち続けて関与している存在は限られているし、そう言う存在でも気まぐれだって白龍さまは言っていましたね」
碧がにこやかに答える。
「そうですか・・・」
微妙な顔だったが、試験官はそれ以上は尋ねなかった。
流石に神社の娘に、日本の神社の氏神のうちどのぐらいが本当にまだ居るのかなんて聞けないよねぇ。
「昇級テストとなった案件はこれで終わりだと思いますが、テストの結果はいつ分かるのでしょうか?」
明日はもう帰るつもりなのだ。
詳細は今のうちに確認しておきたい。
「ああ、問題なく解決したので、テストは合格です。
2人ともそれなりに活躍したし、対応も落ち着いていたようでしたから、今まで以上に難しい案件でも問題なく扱えるでしょう。
正式な通知は来週になると思います」
あっさり頷き、試験官が立ち上がった。
早!