これで問題なし!・・・多分
『ほら、泣いてないで落ち着いて質問に答えてちょうだい。
まだ誰も人間を殺していないんだったら、問答無用で酷い事にはならないわよ』
宥めるように怯えて泣き叫んでいる仔フェンリル(?)に語りかける。
このサイズで人間を食べていたら大量虐殺になっていただろうから、熊や鹿を食べていたんだろうなぁ。
フェンリルだったら魔力の濃厚な魔物が好物だと聞いた気もするが、こっちの世界にはそんな生き物は居ない。
一度血を味合わせていたら、魔力のある退魔師を食おうと付け狙う危険な天敵になりかねなかったかも?
『お母さんが死んじゃってからも、ちゃんと山や森にいる4本足しか食べてこなかったんだよ。
だけど寂しかったからちょっと遊びに出たら、ブオーって煩い4本足に体当たりされて痛かった!!
びっくりしたし痛かったから巣に戻って来て、誰も来ないようにお母さんの石に助けて貰っていたんだ。
ちゃんと近所の人には迷惑かけないようにしたし!
なのに・・・なのに、なんで来るの〜!!』
源之助って子猫の時も『泣く』っていう感情の動きはほぼ見せなかったが、この仔は随分と泣き虫で臆病だな。
一体何歳なんだ??
いや、それよりも結界と・・・この仔をどうするかの方が問題か。
「白龍さま、ここら辺にこの仔が普通に暮らせるような世界への境界があったりします?」
流石に放置は危険と言っても、牛サイズではいくらペット可なマンションでも飼えない。
しかもこれってもっと大きくなるかもだし。
はっきり言って、今のサイズでも階段につっかかりそうだ。
食費だって馬鹿にできないだろう。
つうか、このサイズの生き物の餌を毎日4階まで運び込むだけでも大変だよ。
北海道も本州と同じで鹿が増えすぎて困っていると言う話を聞いた気がするから、ここで鹿を食って生きていく分には構わないかも知れないが、魔力が極少な食事だけでは将来的にどんな不調を起こすか分かったものではない。
しかも更に大きくなったらそのうち『うっかり車を踏み潰す』とか『ぶつかって車を道から叩き落としちゃう』なんて事態にもなりかねない。
今回は車にぶつかられて『痛い思い』をしたらしいが、次はどうなるか分からないし・・・大きくなって自分に自信を持つようになり、痛い思いをした時に『隠れる』のではなく『報復』を考えられたりしたら、このサイズだけでも十分脅威だ。
魔力が少ないからフェンリルの吹雪を呼ぶ力は無いにしても、北海道だったら吹雪と共鳴して悪化させるぐらいのことは出来るかも知れないし。
第一、この仔の母親の様に野良犬(多分?)を番として選んで、その相手が交通事故なり人間の悪意なりによって殺されたりした場合も怖い。
だが現時点では殆ど悪い事はしていない仔犬(?)を『将来的に起きるかも知れない脅威を考えて殺す』のは気が引けるので、出来ればどっか別の世界に送り込みたい。
『ふむ。
アレの子孫か。
昔この島に居たフェンリルは境界が閉じかけて来た際に諦めて幻想界に戻る事にしたと言っておったが、こちらの狼との子が残ったのだな。
そやつも死んでそこに魔石を残した様だが。
その魔石を使えば、短時間なら境界を開く事は可能じゃぞ』
白龍さまが現れて、あっさり頷く様に尻尾を動かした。
「おお〜。
それは良かった。
流石にこの仔を諏訪まで連れていくのは難しそうですからねぇ。
ここら辺に境界を開けるなら、お願いできますか?」
碧が喜んで白龍さまに頼みこんだ。
なんか貴女さっきから手がワキワキ動いているんだけど、牛サイズなんだから仔とは言ってもわさわさ撫でるのは駄目だよ?
第一、碧には源之助がいるでしょうに。
浮気はダメ、絶対。
「どこにいく必要がありますか?」
既に閉じた境界は私には感知出来ないが、近くだと嬉しいなぁ。
『どうせ閉じておるのを無理やりぶち破るのじゃ。
そこで良かろう』
白龍さまがクイっと大木の横を尻尾で指した。
『君、寂しいんでしょ?
もっと空気が濃くって、仲間っぽい生き物が居る世界に移動しない?』
生粋のフェンリルに相手にしてもらえるかは微妙だが、何らかの犬系の魔物や幻獣と仲良く出来る可能性はあるだろう。
まあ、食われてしまう可能性もそれなりにあるが。
『行く!!』
あっさり頷かれた。
もう少し詳細を聞くとか、怖がるとかしようよ・・・。
幼いだけでなく、ちょっと考えなし?
子供だから、どっかの群れに拾って貰えると期待しよう。
『ふむ。
では、貰うぞい』
白龍さまの言葉と共に、奥から魔石がふわふわと飛んで来て・・・白龍さまがそれを尻尾で大木の横へ撃ち放つ。
カシャン!!
森の中を飛んでいく代わりに、魔石は何も無かった宙で『何か』に当たって砕け散り、境界が口を開いた。
魔素がこちらに流れ込まない様に慌てて結界を展開する。
『ほら、今のうちに早く!』
仔犬モドキを急かす。
『なんかいい匂いがする!!』
そう言って、泣き叫んでいた仔犬モドキはあっさり嬉しげに境界の中へ突っ込んで行った。
『ちょっと向こうで誰か頼める奴が近くにいないか、見てくる』
そう言って白龍さまも消えてしまう。
「取り敢えず。
問題解決、だよね?」
碧があっけらかんと声を掛けてきた。
「多分?
道に戻って普通に村に行けるか確認してみよう。
仕事が終わったにしても、今晩の温泉宿での宿泊は既に手配されるんだろうし」
思っていた以上に早く終わったから、明日の朝1に動物園に行き、午後には東京へ帰れるかな?




