微弱過ぎて厄介
「ここら辺って民話とかでローカルな神様とか妖精、妖怪、もしくは悪霊の昔話ってあります?」
車に乗ってから、ふと思いついて運転している依頼主の木島氏に尋ねた。
大きな魔石を複数使って設置するならまだしも、迷いの森って魔力だけで結界を張ってやろうと思うとかなり大変なんだよね。
しかも突発的に敵が来た時だけって訳でなく、ずっと何週間もなんてかなりの出力を必要とする。
魔石が無いこっちの世界だったら生半可な悪霊程度で実現するのは無理だろう。
だとしたらランクダウンした白龍さまみたいな幻獣かも?と思ったのだ。
そう言う存在だったらローカルな昔話とかで情報が残っていてもおかしくない。
「この地域は戦後に開拓されたので、昔のアイヌの伝説は失われているんです」
木島氏がすまなそうに言った。
あ〜。
そう言えば北海道ってある意味アメリカと同じで、原住民をほぼ駆逐して開拓した新世界なんだっけ。
昔の異世界との境界から来ていたと思われる幻獣由来の妖精も妖怪も神も、現世に残っているとしても情報は失われているのか。
悪霊がいるにしても、アイヌ人集落の殲滅とでも言う様な大量虐殺でもあったんじゃ無い限りそこまで沢山の死も無さそう。
流石に戦後の開拓だったら大量に住民が飢えや疫病で死んだりしては無いよね??
「ちなみに、今回の事件が起きてから村の方で不調を訴える人が増えたとか言った事はありますか?」
本人の承諾なしに住民からエネルギーを拝借して人避けの結界を展開しているならば、小さい村の人口だったら不調を訴える人が出ていてもおかしくは無いのだが。
運転しながら木島氏が首を捻った。
「村に着いたら調べさせますが、特にそんな話は聞いていませんね」
そこら辺はママ友ネットワークとかの方が噂の伝達は早く正確だろうから、村役場にいる女性陣にでも聞いてみた方が良いかな。
まあ、医者の患者数の推移も参考になるけど。
「あれ、なんで曲がるんです?」
木島氏がハンドルを切ったので声を掛ける。
「・・・え?
そこの木を避けて道沿いに進んだだけですけど?」
木島氏が斜め向こうにある大木を指差して言った。
いやいやいや。
別に進行方向にその大木は無かったよ?
「取り敢えず、車を停めていただけます?」
「はい」
微妙に納得していない顔だったが、文句を言わずに木島氏が車を停めた。
ちょうど脇道に入る地点で道が少し広がっているから対向車が来ても邪魔にならなそうだ。
まあ、変な現象が起きているなら道に出ている人も少ないだろうが。
観光シーズンでも無いし。
『曲がりかけて止まったけど、どうしたの?』
碧から携帯が掛かってきた。
「ここが干渉を受け始める地点みたい。
ちょっと見て回ってくる」
『あ〜、だったら私も降ろしてもらって一緒に行くよ』
碧が提案してきた。
「ここら辺にヘリコプターを降ろして良いんだったらね〜」
2人の昇級テストだし、白龍さまがいた方が話がスムーズにいくかもだし、確かに一緒の方が良さそうだ。
牧場にヘリコプターが着陸するのは問題ないらしく、あっさり降りてきた機体から碧が出てくる。
待っている間に周囲の魔力の流れを確認していたのだが・・・イマイチ感じられない。
「どう?」
碧が聞いてきた。
「護身用の膜が邪魔なのか、何も感じられない。
そのレベルでどうやって片っ端から通りがかる人に干渉出来ているのか、分からないわ〜。
碧は何か感じる?」
「う〜ん、私も白龍さまの加護があるせいか、何も感じられないかなぁ」
碧が暫し目を瞑って集中していたが、やがて首を横に振って答えた。
「しょうがないね、ちょっとバリアを解除してみるから何かあったら守ってね」
今までは道を迷わせた程度なので大丈夫だと思うけど。
突然対処方法を攻撃に変更なんてしないでね〜。
敵かも知れない存在の側で無防備になるなんて危険すぎるが、碧が居れば即死以外だったら何とかなる。
多分。
「了解〜」
碧が頷いたので、ゆっくりと周囲に対して警戒を緩め、自分を守るために15歳で覚醒して以来ずっと身に纏っていた力の膜を解放していく。
これって悪意のある存在に対して無防備になるから、マジで嫌なんだけどねぇ。
安全柵のない屋上から下を見下ろしているような恐怖感を感じる。
まあ、今世では安全柵の無い高所になんて行ったことはないんだけどさ。
一方間違えば・・・と言うか、強風が吹くだけでも命に関わると思うと足が竦むし背中がゾクゾクする感覚と似ているのだが、ゆっくりと魔力を手放し、周囲へ馴染ませて行く。
『来るな!
こっちには何も無い!!』
おやぁ〜?