弱者に揃えてもねぇ
電話が終わったので、碧に尋ねる。
「昇級テスト制度なんてあったんだ?
見習いから一人前にランクアップした時には受けた記憶が無いけど」
オリエンテーション研修でも聞いた覚えが無い。
「見習いからのランクアップはある程度の依頼を受けたらほぼ自動的に起きるんだけど、その後は一応退魔協会が熟してきた依頼とかクライアントからのフィードバックとかを参考に『もうそろそろ良いかな?』と思ったら向こうから提案してくるの。
一応拒否も出来るし、人によっては自分からテストを受けさせろって要求する人もいるらしいね。別にある意味どうでもいいから放置していたんだけど、うちらにランクの高い依頼も受けさせる為に言ってきたみたい?」
碧が説明してくれた。
退魔協会側から提案するからオリエンテーション研修で教えないって事か。
何とも微妙だ。
「ちなみにテスト用の依頼でも、報酬は出るんだよね?」
試験官が同伴となると、その人件費やその人関連の経費が誰の負担になるのか気になる。
試験官の旅費もこっち負担なら、関東地方で受けられる案件が出てくるまで昇級テスト拒否もアリな気がする。
「試験費用は退魔協会持ちって事になってるけど、その代わり依頼の報酬がランクごとに低めに一律になるから、多分今回は割を食うんだろうね」
碧が肩を竦めながら答えた。
やっぱりそうかぁ。
まあ旅費がクライアント持ちになるだけ良いとするか。
北海道だったら一週間くらいかけてのんびり回りたいが、それこそキャンピングカーで源之助と一緒でも無いと一週間は厳しいし、北海道までキャンピングカーを持って行く事自体が大変そうだから、ささっと行って依頼のついでにちょろっと何かを楽しむスタイルでいいか。
「まあ、旭川だったらちゃちゃっとあの有名な動物園に行って飛行機で帰ってこよう。
温泉とかあるのかなぁ?」
「どうだろうねぇ。
・・・あれ、旭川って山の中なんだ。
だったら温泉もありそうじゃない?」
タブレットで調べていた碧が応じる。
おっと。
そうなんだ??
何とは無しに海沿いだと思ってた。
自分もタブレットで調べてみると、旭川は盆地にあり、南に降りていくとラベンダーで有名な富良野とかがあるっぽい。
とは言え、ラベンダー畑は多分春じゃなくって夏だよね。
今回は旭川動物園と温泉を楽しんだら帰るんで良いかな。
ついでに北海道に関してネットの書き込みを少し見ていく。
「へぇぇ、北海道の畜産が盛んなところでの獣医さんって生き物相手だから休みがない代わりに、毎日午前中だけ働いて終わりって感じなスローライフが出来るっぽい」
休みがないのはちょっと微妙だが・・・近所の獣医とで組んだら働かない午後を一時的に使う事でお互いのんびり休暇にも行けないかな?
まあ、『近所』がどの位離れるかによるかもだが。
「いくつかの牧場と契約してそう言う働き方するみたいだから、獣医師免許が無いと厳しいんじゃない?
それよりも、凛って生きてる動物でも使い魔的に言う事を聞かせられるんでしょ?
牛全部と使い魔契約しておけば、言うこと聞くし私が病気を治せるしで良くない?
なんだったら周辺の山にいる猿を使い魔にして掃除とかさせても良いかも?」
碧が提案する。
「猿に牛舎の掃除をさせるってちょっと無理が無い??
ウンチの投げ合いとかされたら困るし、イタズラしないぐらいキツく契約で縛ったら疲れそう」
つうか、猿に牧場の下働きをさせるのってちょっと虐待チックだよ・・・。
「私が治療すれば牛乳の出も良くなるし、何だったら味だって改善できると思うんだけどなぁ。
でも、確かに朝から晩まで色々と働かなきゃいけない農業ってウチらがイメージする程スローライフじゃなさそうだね」
碧が肩を竦めた。
「技能持ちの希少性を考えると、退魔師として働く方が楽に稼げるんじゃないかな。
需要と供給的に退魔師の方が立場が強いし、北海道の農家って意外と本州の農協組合とかに邪魔されて金稼ぎをしにくいらしいから」
ただでさえ食糧自給率が低い日本なんだから、海外並みに効率的な農業が営める北海道だけでもその長所を生かせばいいのに。
本州の農家の経営を圧迫するからって本州並みの利益率に下がるまで色々と規制を設け、結局海外との貿易自由化で北海道諸共国内勢総負けなんてアホの極みだよねぇ。
民衆の声を拾い上げる民主制度って良い点が多いとは思うけど、国全体の利益を考えて一部の人間の不満を無視できる君主制も利点はあったね。
まあ、君主制だって有力貴族の利権とかが絡むと必ずしも論理的に利益最大化を図れなかったようだけど。