嫡出推定だし。
「娘を大切にして殺された家族をしっかり祀れば許すって話だったのに忘れ去られていたのが許せないみたい。
まあ、もう殆ど死に絶えちゃってるんだし、昇天して貰おう」
一通り情報収集が終わり、碧の方に向いて悪霊の怒りのポイントを伝える。
「あ〜、昔の人は祖先の霊を祀るのを重視していたらしいし、忘却って言うのはウチらが思うよりも重大な裏切りなのかもね。
家を継ぐのは息子、娘は他家に嫁ぐ存在って考えが強かったようだから娘を大切にしてもイマイチ『家が残った』色は薄かったのかも」
碧が頷きながら鞄を下ろし、一歩下がって深呼吸する。
ごく普通に、直接の先祖の墓ですら年に一度のお盆でのお参りが負担だからってお寺に永年供養を頼んで終わりにしちゃう人が多い今時の我々の世代とは感覚が違うんだろうねぇ。
うちの両親も『面倒を掛ける気は無いし、墓に入って雑草だらけで放置されるのも嫌だから樹木葬にする』ってこないだ申し込んだ話をしていた。
そう言えば母方は家出娘だったから良いとして、父方の墓はどうなったんだろ?
一応今度帰った時にでも確認しておこう。
自分たちの樹木葬を手配するなら既に先祖の分も永年供養を手配してあるとは思うけど。
碧が祝詞を唱え始め、慰霊碑から細かい光が浮き上がり・・・空へと消えていく。
どうやら一緒に殺された奥さんや息子は普通に寝ていたままだったのかな?
庭の瘴気は予定通り私が祓っておく。
それ程土には染み込んでいないが、草とか虫とかに少し吸収されているのでちゃんと祓っておかないとまたコムギ君が体調を崩しかねない。
「お兄さんの方もこれで意識が目覚めると良いね」
屋敷に戻りながら呟く。
山崎さんが連れ子か不倫の子かは知らないが、変な事は言わないのが一番だろう。
連れ子ならば周知の事実だろうし、不倫の子だとしても日本はDVや不倫で離婚していてすら離婚成立後9ヶ月(だっけ?)以内に産まれた子は元夫が法的には父親と言うことになるDNA鑑定を真っ向から否定している国だ。
既に父親が死んでいるとなったら誰にも両親の婚姻期間中に産まれた山崎さんの親子関係に異議を申し立てられないだろうが、変な話を誰かに聞かれたら本人やお母さんにとって不愉快だろうし、これだけ金がある家だったら色々と面倒な事態になりかねない。
ロバの耳の如く、どうしてもこの事を話したくなったらマンションに帰ってからでいい。
「終わりました。
どうも先祖の霊を祀っていくのが大切な時代の霊だったようで、忘れられていたのが許せなかったみたいですね。
静かに昇天しましたのでもう大丈夫だと思います。
ただまあ、先祖の霊でもあるので慰霊碑には時折花でもお供えしてあげたらいいと思いますが」
玄関で出迎えてくれた山崎さんに碧が報告する。
「そうですね。
忘れ去られるのは寂しいですから、もっと日当たりがいい場所に動かして時折コムギちゃんと花を添えすることにします」
山崎さんが頷いた。
「では、失礼します」
碧が軽く頭を下げて帰ろうとしたところ、そっと山崎さんが腕に手を添えて止めた。
「兄は・・・これで良くなるのでしょうか?」
ある意味死んじゃった方が遺産が全部手に入て都合が良さそうなものだが、それは求めていないらしい。
「さぁ。
呪いで意識不明なままだったのでしたら回復すると思いますが、交通事故の怪我が原因だった場合は何も変わりはないと思います。
ただ、悪霊の祟りが関与している可能性があるので、なんでしたらもう一度退魔協会に連絡して、医療機関にいる回復師による治療を依頼したらどうですか?
保険が効かないのでかなり高くつきますが、祟り関連なので今依頼すれば待つ時間は大幅に短縮されますよ」
おや。
そうなんだ?
医療機関の回復師による治療って滅茶苦茶高い上に待たされるって聞いた気がするけど、祟り関係だったらちゃんと本来の退魔師の役割に基づいて優先的に対処して貰えるのかな?
まあ、祟りとかだと現代医療的な診断を無視して一気に悪化して死んだり、恨みを募らせて病院に瘴気をばら撒きかねないからいくら治療期間を引き伸ばして金が欲しくても、放置は下策なのだろう。
呪い殺された人って悪霊化しやすいし。
これだけ豪邸だったら、きっと相続税を払うより安い値段で治療もして貰えるだろうし。
上手くいくと期待しておくよ。