本契約
「取り敢えず、躯体の候補はこれらなんだけど、どれが良い?」
早速帰宅し、チュー助に家にあった各種ネズミ型オモチャを見せる。
ネズミっぽい毛皮モドキで覆われた硬い小さめな鼠、
拳より一回り小さいサイズの柔らかいクッションっぽい鼠の縫いぐるみ、
足の代わりに車輪が付いているプラスチックの鼠、
麻紐を編んで作ったような鼠、等々。
碧がペットコーナーに近づく度に新しいのを見かけると買ってくるので色々とある。
プラスチックのとか縫いぐるみっぽいのはあまり魔力の保持性能が良く無いので、これは使うなら中に白龍さまの聖域で拾った石の欠片を埋め込む予定だ。
車輪付きの以外は動く構造では無いので、そこそこ魔力を多めに与えて念力で動いてもらう事になる。
クルミだと小さい隠密型ならまだしも、縫いぐるみの時はストラップとしてバッグに付けているからあまり自力で動く必要はないんだよねぇ。
家に帰ってきたら何か頼み事をしていなければ勝手にタブレットを見て遊んでいるが。
タブレットで動画を見たりネットサーフィンするだけだったらそれ程魔力を使わないが、チュー助が源之助と追いかけっこをするとなるとそこそこ魔力が必要になる。
魔力補給は碧にも協力を頼もう。
私は収納の亜空間を広げるのにも魔力が必要だし。
『これかな』
チュー助が麻紐製の鼠に近寄った。
やっぱり自然素材が良いのかね?
麻紐を洗濯出来るのかは微妙に不明だが、それ程高い訳でもないので予備を買っておけば良いだろう。
「分かった。
じゃあ、躯体に入れるね〜」
がちゃ。
「ただいま〜」
術を掛けようとしたところで玄関の開き、碧の声が聞こえてきた。
碧が帰ってきたっぽい。
ついでに術に参加させるかな?
白魔術師の碧だと動物霊を利用する使い魔は作れない。だが、無防備な霊に魔力を込めて触れたらうっかり浄化させてしまう白魔術師の特性部分を私がカバーすれば、共同契約っぽい感じで使い魔にすることも可能だ。
そうすれば彼女もチュー助と意思疎通が出来るし、魔力補填も出来るから、碧が嫌がらなければ巻き込もう。
「おかえり〜。
これからチュー助の本契約をするところなんだけど、碧も入る?
共同契約者になれば意思疎通が出来るし、魔力の補填もできるよ〜」
考えてみたらGは碧の結界のお陰で家の中に入れないが、ムカデや大きな蜘蛛なんかは入れる。
そう言うのを見つけ次第抹殺する様に撃退命令も埋め込んでおこうかな。
Gが居ないと確信できるのは本当に素晴らしい事だが、目に見えなくてもベッドの下とか冷蔵庫の後ろにその他の虫がいたりするには嫌だ。
「チュー助??
凄いネーミングだね。
まあ、チュー助君がそれで良いなら良いけど。
本契約は是非参加させて」
碧が私の選んだ名前をディスりながらリビングに来た。
まあ、確かに安易な名前だけどさぁ。
『源之助』もかなり不思議な名前だよ?
去勢手術した獣医さんのところのアシスタントだって微妙そうな顔をしてたのを私は見たぞ。
「そんじゃあ、やるから手を出して〜。
魔力を少し貰う形になるから、抵抗しないでね」
前世だったらこちらが掛ける術に抵抗しないと言うのは、それこそ隷属魔術とかを掛けられかねない危険な行為なので事前に誓約魔術で悪用しませんと絶対に誓わせるものなのだが・・・こっちの世界では隷属魔術系が知られていないようなのでそう言う慣習は無い。
人間の本性を考えると、絶対に隷属魔術とかを考えつく下劣な輩がいると思うんだけどねぇ。
もしかして、世界の魔素が薄いと隷属魔術とかの効果は薄いとか消えやすいとかなのだろうか?
そう考えると誓約魔術で誰かを縛っても、その拘束力を信用しすぎるのは危険なのかも。
まあ、碧の場合は白龍さまがついているから警告しておく必要もないか。
転生した後は忘れてるだろうし。
使い魔を躯体に憑ける本契約と、共同契約者を交える術との魔法陣を脳裏に描き、魔力を込める。
一度躯体を提供したらその後は躯体を交換したり増やしたりするのは比較的自由なのだが、最初の躯体は本契約扱いで重要だし間違いがあると使い魔との繋がりが弱くなるんだよねぇ。
折角比較的賢そうな鼠の霊を勧誘できたのだ。
問題が起きない様に細心の注意を払っていこう。
これで源之助のダイエット問題が解決すると良いね〜。