合宿しよう!
「見てこれ、中々良いでしょ?!」
散々試行錯誤した藁編みの努力の結晶として最後に完成したバックパックもどきを手に掲げて、私は思わず部室の皆に賞賛の声を求めた。
「うん、良いね〜」
「頑張った、頑張った」
「流石執念の女!これでどっかの異世界に転移しても一安心だ〜」
微妙に賛美とは違うコメントもあったが・・・取り敢えず褒めて貰えたと思うことにして、私は満足感と共に椅子へ腰を下ろした。
結局、ラノベ生活クラブでは意外と藁編みに意地を見せたメンバーが多く、お洒落な籠や鍋置きを何週間かの試行錯誤の末に成功させた後、最終的には各自でトートバッグやバックパックを完成させつつある。
これも最初は物を入れたら底が抜けるようなのが多かったが、もうすぐ1学期が終わろうとする7月になり、ほぼ実用に耐えられる上にお洒落な物が完成してきている。
「次はどうしようか?
石鹸も内政チートの『あるある』だけど、苛性ソーダを買わずに作ろうとすると意外と大変だって話なのよねぇ」
何やら書類を書き込んでいた八幡先輩が、先日完成したトートバッグに荷物をしまいながら首を傾げて部屋全体に話しかける。
このサークルの創立期に既に一度本格的な石鹸作りはやっているらしい。
その際の苦労話も聞いている八幡先輩はちょっと石鹸作りには腰がひけている。
苛性ソーダといったら劇物の一つだからねぇ。
それを自作するとなるとかなり危険物の取り扱いに慣れていないとヤバそうだが、今のサークルメンバーはラノベについてワイワイ話し合いながらお手軽で原始的なDIY体験を楽しみたいお遊び派が殆どだ。
創立メンバーのようなガチの理系人間がいない中で『あるある』だからと石鹸作りを決行して、誰かが怪我をしたら責任問題になりかねないと危惧しているのだろう。
「蚊取り線香の自作ってどうでしょう?
ちょっと自分で実験しようかと思って、実家のそばで知り合いに耕作を辞めた畑を使って暇つぶしに除虫菊を育てて貰っているんです。
咲いたのを適当に刈り取って干しておいてって頼んであるんで、花から実際にパウダーにして蚊取り線香が作れるかも試せますよ」
丁度部室に入ってきた碧が、八幡先輩の台詞を聞いて提案してきた。
「え?
やるかどうか分からないのに、除虫菊を育てて貰ったの?」
ちょっと引いた感じで八幡先輩が聞く。
「近所のセミリタイアしたお爺ちゃんが暇で暇でしょうがないって言っていたし、畑って何も育てないと色々問題が起きるんで・・・ちょっと除虫菊の種でも撒いて適当に育てておいてくれたら実験に使わせて貰うかも?って冗談半分に言ったら、想定以上に本格的にやってくれちゃったんですよ〜。
私一人で使い切れる量じゃ無いみたいで、どうするか悩んでいたんです」
眉をハの字に下げた碧が溜息を吐きながら裏をばらした。
なる程。
暇な近所の爺さんが、神社のお姫様の為に張り切っちゃったのね。
タイミング的に、私のために符作成に関する資料を取りに行った時かな?
「もう花は終わっているの?」
そばで聞いていた1年文学部の青木さんが尋ねる。
「ピークは過ぎたらしいけど、まだ遅咲きの花がそれなりに残っているみたい?
何だったら遊びに来てついでに花の刈り取りと干す作業もやってみる?
雑魚寝でいいんだったら、実家は神社だからお祭りの時とかのミーティングに使う広間で寝るのも可能だよ。
近所の学校の合宿とかに貸し出す時もあるんで、夏ならなんとかなるペラペラな寝具はあるし」
碧が楽しげに提案した。
なる程。
夏ならシーツと薄い掛け布団で十分だろうけど、冬だったらがっつり暖かい布団が無いと厳しいよねぇ。
近所の学校とやらもきっと冬場に泊まり込みの合宿はしないに違いない。
「ちなみに、場所は?」
興味を持った他のメンバーも寄ってきて話し合いに参加し始めた。
「諏訪湖の畔。
湖まで歩いて3分ぐらいかな?
敷地内に小さな川と滝があるから、夏場も案外と涼しくって良いですよ〜」
先輩の問いに答えながら碧がタブレットを取り出してマップアプリを立ち上げる。
その滝って白龍さまの聖域だったしないよね??
まあ、碧と仲がいい知人が遊びに行くのは白龍さまも許すだろうけど。
「じゃあ、次は蚊取り線香作りにして、ついでに夏休み初めに碧の実家へ遊びに行かせて貰って除虫菊の伐採をやってみるのに賛成な人〜?」
八幡先輩が部室にいる皆に声を掛ける。
緩いよねぇ。
来ていないメンバーの意見は無視して良いんかいなという気もしないでも無いが、決まった後に興味があったら参加すれば良いというのがこのサークルのスタンスらしい。
「「「「賛成〜!」」」」
しゅぱっと手が上がり、満場一致で次のプロジェクトと夏休みの合宿が決まった。
やっと収納の符が作れるようになったんで、もうそろそろ退魔協会に報告して研修を受けて登録しようかと碧とも話していたんだけど・・・取り敢えず、合宿後で良いや。
下手に今報告して『是非とも研修に今すぐ参加してくれ』って言われて合宿を逃すことになったら悔しいし。
退魔協会だって、存在を知らない人間に研修を早く受けろとプレッシャーを掛けることは出来ない。
知らぬが仏ってやつだね。