勧誘活動
野鼠が近所の公園に居るのかは微妙に不明だったが、以前見たテレビの特集では渋谷の歩道にある低木の茂みにも居ると言っていた。それなら、そこそこの人数が遊びにきておやつやコンビニ弁当の容器を捨てている公園にも居るだろうと期待して翌日近所の公園に来てみた。
『やっほ』
人影が少ない小道にあるベンチに座り、魔力視に集中して辺りを探し、近くで此方を伺っていた小さな霊に声をかけた。
『やっほ?』
意外とはっきりと念話の声が返ってきた。
『継続的に魔力をあげるから、ウチの子になってニャンコの遊び相手になってくれない?
普通の猫だから噛みつかれても痛く無いよ?』
それこそチーズやクッキーが欲しいならあげても良いが、霊が食材を吸収出来るだけしっかり躯体を作ろうと思うとかなり大変なんだよね。
出来れば魔力で満足して貰いたい。
霊だったら魔力の方がチーズよりも糧になるし。
『痛く無いの?
本当に?』
鼠の霊が恐る恐るこっちに近づいてきた。
『今の形になってから、痛い思いをしていないでしょ?』
まあ、猫の霊に喰われたら痛いとは思うが、軽く遊び感覚で叩かれる程度だったら痛くは無い筈だ。
生身の猫やカラスに襲われる程度だったら完全にノーダメージだろうし。
死んだ動物の霊に害を与えられる生身のカラスや猫が居るなら、こっちが縁を結びたいぐらいだ。
退魔のパートナーとして協力してもらったら面白いだろう。
『・・・そう言えばそうかも』
鼠霊君が頷くかの様に上下に動いた。
『家の中だったらニャンコが入れない細い隙間もそこそこあるし。
魔力を吸収したらより頭が良くなるし、早く動ける様になるし、場所が良ければ念力で躯体を飛ばして逃げる事も可能になるよ?』
まあ、源之助の運動能力を考えると多少飛んだだけじゃあ彼のジャンプから逃れられないと思うが。
でも、捕まって噛まれたところで痛くは無いのだ。
慣れれば平気になる・・・かも知れない。
『躯体のオモチャも複数準備しておくから、汚れたり噛まれてボロくなったら取り替えられるし。
まあ、公園でウロウロしていても良いだろうけど、刺激という意味ではウチでニャンコ相手に追いかけっこする方が楽しいんじゃないかな。
猫相手に裏をかいて逃げ切る遊びを安全に出来るのはうちだけだよ?』
なんといっても、霊のままだったら生身の猫は追いかけられないし。死んだ猫霊相手に追いかけっこをして噛みつかれたら痛みを感じる。
遊べて、痛く無いのは使い魔になって躯体を得て、生身の猫相手の追いかけっこする場合のみだ。
・・・クルミにこの子を噛まないように命じておかないとだな。
クルミも魔力を吸収してそれなりにパワーアップしているから、下手に鼠の霊を噛みついたりしたら消滅させかねない。
『お試しって事でやってみて、ダメそうだったらここに戻してくれる?』
迷っていた鼠霊が、恐る恐る合意した。
『勿論。
取り敢えず、名前はチュー助で良い?』
ジェリーと言うのも考えたが・・・あれはトムが毎回それなりに痛い目に遭っているので、あそこまで源之助を翻弄はして欲しく無い。
言霊じゃあないが、ジェリーにあやからない様に名前は別のにした。
『良いよ』
鼠霊の合意と共に、魔力が譲渡されて関係が繋がった。
『よっし、家で躯体を確認しよう』
碧が大量に買ったオモチャのどれかで良いだろう。
鈴付きのと、中にまたたび実が入っていてシャカシャカ鳴るのと、どっちが良いかな?
しっかし、意外にも『チュー』とか語尾に付かない普通な話し言葉だな。
・・・もしかして、クルミが語尾に『にゃ』って付けるのって飼い主がそう言う話し方で生前のクルミに話し掛けていたから?
いくら猫が『にゃあ』と鳴くとは言っても、霊体になって念話するのには関係ないもんね。
あのあざと可愛い話し方は飼い主からの刷り込みかな?
「ただいま〜」
家に帰ったら、珍しく碧は居なかった。
リビングに行ったら源之助がキャットタワーの家からこっちを見て、尻尾をふるりと揺らして挨拶してきた。
源之助って碧や私が居る時は比較的そばのソファやローテーブルの上で寝ることが多いのに、留守番の時って基本的にキャットタワーの上で寝ているっぽいんだよねぇ。
なんでなんだろ?
隠れたり逃げたりを重視するならもっと良い場所があると思うんだけど。
猫にとっては高さが最重要項目なのかね?