ある意味、既に解決済み
青木氏の調べによると、
あのアパートの大元の所有者の妻(85歳)は3年前から介護施設に入っているとの事。
子供は息子2人と娘(58歳)だったが息子はどちらも既に死去。娘は結婚して30年以上前から北海道に在住。
息子1は妻1(60歳)が生存。子供は息子(死去)と娘(30歳)。死去した息子(孫)も死ぬ前に結婚していたが子はいない。娘も結婚しているが現在はまだ子供はなし。
息子2も妻2(55歳)が生存。子供は息子が2人と娘が1人だが、息子の1人は小学校の時に交通事故で死亡、もう1人は心臓が弱く移植手術待ちだそうだ。娘は未婚だが普通に働いているらしい。
「これって絶対男性系が呪われてるよね〜」
青木氏から送られてきた情報を読んだ碧が溜め息を吐きながら言った。
「だね。たまたま男性だけに発現する遺伝子異常持ちな家系って言うんじゃ無い限り、最初の持ち主が女性を嬲って殺すタイプの連続殺人鬼だったんだろうねぇ」
まあ、遺伝子異常が死因だとしても呪いでそれが発現した可能性が高いし。
大体、一族の男がほぼ全て全滅って遺伝子異常だとしても確率が高すぎだろう。
「子孫を呪うことはあっても兄弟を呪うことってあまり無いらしいから、ほぼ確実に諸悪の根源は元の所有者だね。
この様子だったらこれ以上調べなくても良いかな?」
碧が言う。
「そうだねぇ。
まだ人殺しを続けてるなら何とかしなくちゃと思ったけど、死んでるみたいだし、介護施設の奥さんに会いに行くのは難しいし」
普通に街に暮らしているならクルミに張らして外に出た際に『偶然』出会い、思考誘導を使って知り合いだと誤認させてちょっと時間を貰うのも可能だが、介護施設となったら受付で名前や連絡先等を書かなければならないので色々と情報が残る。
まあ、これだけ家族が死にまくっていたら介護施設に見舞いに来る人間も少ない可能性は高いが、そうなると訪問者は余計に変な注意を引きそうだ。
「これだけ強烈に子孫が呪い殺されるような事をやったのに、息子達が結婚して子を産めてるって事はタイミング的には多分息子らが家を出た後にあのアパートを使った可能性が高いよね。
だとしたら30年ぐらい前?
それだけ前だったら今更被害者の名前を確認して遺族に知らせるのも無理だろうし」
つうか、遺族を見つけるのもほぼ不可能じゃないかね?
30年も前の行方不明者の届出なんて警察に残ってなさそう。
残っているにしても連絡先情報は更新されていないだろうし。
「そう考えると、あのアパートって築30年以上って事?
新築アパートを殺人現場に使っていたって言うのも理解し難いけど、そんだけボロい建物を学生寮に提供するのも信じられないね」
碧が顔を顰めながら言った。
「確かに!
それこそ悪霊粘液モドキが無くてもカビとかで体調を崩しそうだよね。
そう考えると、瘴気を祓っても体調を崩した居住者達は治らないかも」
ある意味、黒カビの方が瘴気よりも体に悪い可能性は十分ある。
まあ、黒カビに晒されている状況で瘴気に冒されたら体調を崩す確率が更に上がるから、瘴気を祓った事で多少は状況が好転しただろうけど。
「しっかしこれだけ一族が死にまくってるのに、何だって退魔協会に相談しなかったんだろうね?」
碧が源之助に向かってオモチャを動かしながら首を傾げた。
「だね。
『まさかウチの家族が呪われているなんて事は無いだろう』なんて現実逃避気味な事を考えている間に男性陣がほぼ全滅して死ぬのが止まったのかも」
元々退魔協会の事を知っていたので無い限り、不幸が重なっても呪いや悪霊なんてそうそう思いつかないだろう。
しかも先祖代々の呪いっていうのならまだしも、現代日本で突然一族が呪われるなんて心当たりが無ければ思いつきもしないだろうし。
「その心臓病の人ももしかしたらあそこを祓った事で良くなるかもね。
まあ、呪いのせいで心臓に欠陥がある状態で生まれたんだったら無理だけど。
少なくとも、呪われている状態だったら心臓移植しても多分拒絶反応とかで上手くいかなかっただろうから、確率がゼロだったのが普通レベルには戻っただろうね」
碧が指摘した。
確かに。
心臓移植なんて順番待ちが凄いのだろうから、折角の心臓が確実に失敗する患者に無駄に移植される事にならなくて良かった。
もしかしたら悪霊粘液が祓われた事で負荷が無くなって心臓の状態自体も改善するかもだし。
取り敢えず。
一件落着、かな?