天罰なら雷だよね〜
「意外な事に、公的には誰もあのアパートで死んでないみたいだね」
何やらタブレットでネットを調べていた碧がお風呂から出てきた私に教えてくれた。
「はぁ?
田端氏に聞いたの?」
死体が無い=殺人事件として立件出来ないのに、警察の情報網を使ってくれたんだ?
まあ、あまり役に立つ情報じゃあ無かったけど。
「いや、事故物件を公表しているウェブサイトで確認した」
なにそれ。
「そんなのあるんだ?!」
凄いな、現代の情報化社会。
不動産屋って人が死んだ事故物件でも取り敢えず数ヶ月ほど入居者が入ればその次の賃借人には告知する必要がないって聞いた気がするけど、そう言うサイトがあるならそこで最終確認出来ちゃうんだね。
事故物件の大家や売りたい持ち主にとってはいい迷惑だろうなぁ。
犯罪歴ですら『知る権利』と『忘れられる権利』の争いで検索サイトから消させる判決を勝ち取れる事もあるらしい事を考えると、よくぞそう言うサイトが訴えられないもんだ。
まあ、軽微な犯罪歴と『死』だったら重要性が全然違うのかね?
とは言え、自殺だったら『他人が知る権利』と『大家の経済的損失』の争いってどっちも微妙な気がするが。
「このサイトが情報を集め始める前の事件なのか、ここでの殺人が一度も発覚してないか、どっちだと思う?」
碧がタブレットのサイトを見せてくれながら聞いてきた。
「発覚しなかった方に一票。
死体をバスタブで溶かすなんてセンセーショナルな死体遺棄方法が発覚してたら、絶対ニュースになってると思う。
そう言う連続殺人事件の話は検索してみたけど出てこなかったから、発覚していないんじゃない?」
死体の処分が一番殺人が発覚しやすい段階だと思うから、それを溶かして消すって言うのはある意味凄く効果的な証拠隠滅方法だろう。
とは言え、死体遺棄の問題が無くなっても被害者を時間かけて苦しめていたら逃げられる確率が上がるから、そう考えるとあのアパートでの被害者はあまり長時間は苦しまずに死ねたのかな?
まあ、あれだけ悪霊化に近い形で残っちゃっているんだからそれなりに苦しんだとは思うけど。
少なくとも痛めつけられ過ぎて体力が尽きて最終的に死ぬみたいな救いのない死に方では無かった可能性が高いと信じたい。
「うげ〜。
じゃあ、犯人がまだ別の場所で人を殺してる可能性もありかぁ。
青木さんにあのアパートの事を確認しよう」
顔を顰めながら碧が携帯を取り出した。
◆◆◆◆
『ああ、あのアパート?
え、大学の寮として貸し出してるんだ?!
うっわぁ、鈴木さん思い切ったねぇ』
スピーカー通話にした携帯の向こうから青木氏の声が流れてくる。
やはりあのアパートの事は知っているらしい。
「有名なんですか、あそこ?
大学で瘴気を纏っている男子学生を複数名見かけて調べ始めて辿り着いたんですけど、大学に知らせずにあんなヤバい物件を寮として提供させるなんてちょっと不味いんじゃないですか?」
確かにそう簡単に人は死なないだろうが、大学が仲介した寮のせいで体調を崩して休学とか退学する羽目になったらその生徒の全人生を狂わせてしまう事になる。
ある意味、自分で調べて引っ越せる個人に紹介するより酷いだろう。
『鈴木さんもねぇ。
事故物件を幾つか扱って成功したからあそこも何とかなると思って相続で元の持ち主の妻が売り出した時に買ったらしいんだけど、子供達から残りの半分を買い取れる前に息子の1人が死んじゃってそっちの相続人が増えて話が複雑になったと思ったら、その後も数年おきに相続者の誰かが死んで権利者が鼠算とまでは言わないけど不動産の権利関係としては悪夢なレベルまで増えちゃって・・・。
取り敢えず貸し出し業務の委託は何とか手にできたけど、壊して建て直すなり売るなりするにはにっちもさっちも行かないらしくてねぇ。
住んだら具合が悪くなるって有名だし空気自体がなんか変だから貸し出しも殆ど出来ないしで頭を抱えていたからヤケクソになって思い切っちゃったんじゃないかなぁ』
青木氏が噂話っぽくあのアパートの持ち主について教えてくれた。
うへぇ。
所有者を纏めずに相続がおき、更に何度か相続者が死んでそっちも均等に所有権を相続者に分けたせいで収拾がつかなくなったのか。
なまじ投資用不動産扱いだから、誰か一人に纏めるべきと言う話にならなくて部屋ごとに相続したか何かで泥沼化したんだろうねぇ。
場所だけ見れば都心の悪くない立地条件で、古いとは言え近くに大学があるんだから学生需要も見込めるしで悪くない資産に見えたんだろうなぁ。
とは言え。
元主がそれだけ死にまくっているとなると、あの悪霊粘液モドキの恨みが影響しているみたいだ。
その鈴木さんとやらが全然平気(資金繰り以外)なのに元の所有者系の子孫がガンガン死んでいるって事は、もしかしてあそこで人を殺していたのって最初の所有者だったのかも?
自分のアパートを誰かに貸した風に見せかけて使えば、事件が発覚して捜査が行われた際に碌な書類が残ってなくて賃借人を追跡出来なくても善意の第三者扱いで責任は追及されないで済むかもだよね。
人が入れ替わる際に清掃に入っていたって言えば家の中に指紋があったりしても言い抜けられるし。
「その死んだ最初の持ち主の近親者って誰が生き残っているか、分かりますか?」
青木氏に尋ねる。
本人が死んでるなら、記憶を読んで本当に殺したのかも確認できない。
そうなったら近親者経由ででもそいつの霊を召喚して確認するしか手は無い。
『・・・調べてみますね』
青木氏が何も聞かずに応じてくれた。
「なんかさぁ。
ヤバい事故物件をウチらの大学関係に押し付けたら、上手くいけばタダで除霊して貰えるなんて情報が不動産業界で広まったら嫌だね・・・」
溜め息を吐きながら碧が言った。
「それとなく、青木氏に『愛し子を意図的に利用しようとしたら天罰が降るらしい』って話を流して貰ったら?
ヤバい物件をウチの大学に紹介するヤツが出てきたらそいつの家に雷でも落として貰ったら効果抜群だよ、きっと」
終わらぬ下痢とかでも苦しいだろうが、やっぱり天罰って言ったら下痢よりも雷の方がそれっぽいよね。




