表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/1361

人知れず悪を狩る?

「うわぁ・・・」

夜の方が瘴気や死霊が活発で見つけやすいだろうと言う碧の意見を採用し、事故物件疑惑の臨時学生寮に来た私は思わず呻いてしまった。


「なんで悪霊が学生に憑いてないのか、疑問だね」

夜空に赤黒く瘴気を滲み出ているアパートを見つめながら碧も呆れた様に呟いた。


一応の為と言う事で同行してくれたんだけど、碧が一緒で良かった。

ちょっと一人でこれに対応したくない。

よくぞまあ、こんな所に住んで大学の連中も無事だったね。


つうか絶対ここって事故物件で、入居したら体調崩すでしょ。

ここを大学に仲介した不動産屋はちょっと酷すぎない???


まあ、視えてなければ普通の事故物件と同じ様な感じなのかもだけど。


「前世の世界って魔素が多かったから、死体をちゃんと焼くなり浄化するなりして処理しないとゾンビ化して色々面倒な事になったんだよねぇ。

黒魔術師だったら臭いさえ気にならないならゾンビをゴーレム代わりに活用できたけど、他の適性持ちだとゾンビの管理って意外と魔力を使ったし。

流石に本人に被害が及ばない様にするのは難しくないけど、ゾンビってきっちり管理してないと勝手に彷徨いて生きている人間や家畜を襲うから数が増えると討伐対象になるし、沢山発生すると調査されるから・・・違法実験とかしているマッドサイエンティスト系の魔術師もちゃんと死体の処理だけはするのが常識だった」

しないと大した悪事もしない間に捕まるから。


「で、私が住んでいた国の比較的中心部に近い所で色々と人体実験とか動物実験した悪の魔術師みたいのがいたんだよねぇ。

そいつは黒魔術師じゃ無かったんだけど面倒くさがり屋で、死体を全部溶かせば燃やすのと同じ効果があるだろうって家の裏の池の酸性度を人体を溶かすぐらいに高める魔道具を作って、そこにガンガン死体を投げ込んで溶かしていたんだけど・・・周囲で死骸がやたらとゾンビ化するって言うんで調査が入った時もこんな感じだったなぁ」

納得できない殺され方をした死体って、浄化されるならまだしも普通の炎で燃やす程度じゃあ悪霊化は止められないんだよねぇ。


だけど、どうも死後すぐに死体を溶かされると変な反応が起きるのか悪霊がドロドロに溶けて混じった感じになって、こう言う濃度の高い変な瘴気が充満して色々と弊害が起きまくる様になる。

で、私が対処に呼ばれた。


「え。

アパートの裏にでも酸性の池があるって言うの??」

碧がドン引きした顔で聞いてきた。


「いや、バスタブの中で業務用の錆落としとか漂白剤とか何かそう言う系の酸性度が高い液体を混ぜて、死体を溶かして下水に流したんじゃないかな」

死体を直ぐに溶かしたせいで悪霊が形を無くしてドロドロの怨念の塊みたいになっているっぽい。


どうせならそのまま下水に流れて薄まって海に散らばればまだいいのに、何故か悪霊粘液っぽい形になってここにこびり着いて残ってしまったようだ。


「なんかさぁ。

随分と世の中人殺しが多いんだね」

碧がため息を吐いて疲れた様にしゃがみ込んだ。


「まあ、戦争とかで殺される人数を考えたら誤差以下だと思うし、前世では普通にスラムとかで病死や餓死や凍死していた人間が大量にいたけど。

考えてみたらあっちでは沢山あちらこちらで人が死んでいたから、人殺しが死体を隠し易かったんじゃないかな。

統計学的に考えたら時代とか国によって精神異常系の人殺しの数が変わるってことはあまり無いんじゃないかと思う」

確かに碧と働く様になって色々と人の業を目の当たりにする機会が増えた気はするけど。


まあ、戦場でのストレスで異常化する人は今の日本には少ないだろうけど、どちらせよそう言うのは暴力的な殺人が多いだけで、こう言う隠れてこそこそ殺す系とはまた違うだろう。

多分。


「《《あれ》》から誰が殺したのかとか、被害者の名前とか、聞くのは無理?」

悪霊粘液っぽいのが染み込んでいる地面を示しながら碧が尋ねる。


「無理だねぇ。

まあ、お陰で成仏できていないものの自己の意識もないだろうから、あまり苦しんでないかも?」

死ぬ前にどれだけ苦しんだかは知らないが。


「じゃあ、もう浄化しちゃうね」

悪霊が残っているなら殺人者を特定する為に浄化を待つ必要があるかも知れないが、意思疎通が出来るだけの知性が残っていない残滓だけだったら残す必要もない。


さっさと安らかにさせてあげるのが正解だろう。

「うん、お願い。

碧が浄化する方が救いがあると思うし」


碧が静かに祝詞を唱え始め、やがて穏やかな煌めきと共に周囲の瘴気と悪霊の残滓が空へ消えていった。


魔力視でボロいアパートを確認したら、一階で寝ている人影には瘴気が少し残っているっぽい。

可哀想だからあちらも祓っておくか。

瘴気を祓いさえすれば、碧が癒さなくても自然回復するだろう。


「これって犯人を捕まえるのは無理だよねぇ?」

碧がアパートを睨みながら聞いてきた。


「空いていたって事は死んだとか捕まったとかの可能性もゼロではないけど、不明だね。

いつぐらいに事故物件になったのか、その前に長期で住んでいたのが誰だったのか、青木氏経由で調べて貰って誰か怪しい人が上がって来たらそいつの記憶を直接読むのは可能だけど・・・司法制度に委ねるのは無理だろうねぇ」

何と言っても骨も溶かされて残っていないのだ。

DNAだって無いだろう。

そうなると死体が無いのでは殺人事件として扱うのは無理な気がする。

目撃証言だって今更出てこないだろうし。


「・・・青木氏に調べて貰おう。

50年ぐらい前の話だったらもう死んでるか呆けてるかだろうって事で無視してもいいと思うけど、10年やそこらの話だったら放置出来ないよ」

碧が立ち上がりながら言った。


まあ、たまにはボランティアで人知れず悪を狩る正義の味方役をしますか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ