諸々の情報
「死体が5人分、ですか・・・」
電話で相談したら直ぐ来てくれた田端氏が、耕されたかの様に一部土の色が違っている地面を見ながらため息を吐いた。
ちなみに、私有地を掘り返す正当性を得る為に死体の一部が野生の動物にでも掘り返されたかの様に偽装した方がいいかとさり気なく尋ねたら、退魔師の告発で十分なので手を出すなと言われた。
一応、クルミ経由でそこら辺の狸にスーパーで買ってくる肉を報酬としてチラつかせる事で穴を掘らせるのも可能だったんだけどね。
下手に現場を荒らさない方が良いかとも思ったので確認したら不要らしい。
掘り起こす機械とかを手配して一緒に来るかと思っていたのだが、現れたのは田端氏一人だった。
先に詳細の聞き取りがしたいとのこと。
電話でそんなの済ませておけば良いのにとも思ったが、状況を把握するには自分の目で直に見る必要がある様だ。
お陰でウチらは3時間ほど待ちぼうけだったけど。
「そこの大きめな石5つは私が置きました。
一応手袋はしていたんで指紋とかは付いていないと思いますが、死体を掘り起こす時にうっかり傷を付けたりしない様に場所がはっきりしている方が良いだろうと思って」
暇だったしね。
「ありがとう。
ちなみに、被害者の名前とかは分かるのだろうか?」
「手前から、渡部 理恵子さん、高橋 祥子さん、成田 絵里さん、別府 ケイさん、三枝 翔さんです。
渡部さん、高橋さん、成田さんはウチの大学の院生や研究員だったらしいですね、
別府さんと三枝さんは帝南大学の院生と助手だったそうです。
ちなみに犯人はウチの大学の長谷部教授に変な感じに入れ込んでる水野 紗里。学者専門の転職エージェントとして働いていて、長谷部教授の研究室の人間が教授に対する忠誠心が揺らいでいると感じると別のポジションの話を持ち掛け、受けると殺しているらしいです」
待っている間に聞き取りしておいた情報を提供する。
さっさと終わらせて帰りたいからね。
「・・・被害者に女性が多い気がするんだが、被疑者はその長谷部教授と肉体関係を持っているのかな?」
『無いわ〜。
そんな時間は無いし、教授は忘れっぽいけど一応愛妻家だし』
渡部さんが笑いながら田端氏の言葉に応じる。
聴こえて無いけどね。
「いえ、少なくとも渡部さん曰く、あり得ないだろうと。
色々聞いた話の印象では、どうも父親を重ねている感じかも?
長谷部教授って白髪ボサボサで、若い女性が異性として意識するタイプじゃ無いですし」
愛妻家に関しては詳細が分からないので言及しないでおく。
何が愛妻家なのか、不明だしねぇ。
忘れっぽいってことは誕生日とか結婚記念日とかも忘れているんでしょ?
夜遅くまで研究室に残っていそうだし、何をもって妻に愛情を示しているのか分からん。
相手に示されて無い愛情なんて、あまり意味は無い気がする。
水野が女性を多く殺しているのは、彼女が同担拒否タイプで、同性の女性をより強くライバル視しているからなんじゃないかね?
まあ、教授がセクハラとかをしないので研究室に女性が比較的多いと言うのもあるらしいけど。
暇潰しに渡部さんから聞いていた話だと、学者社会って狭い上にコネが大きくモノを言うせいでパワハラとセクハラが横行しまくりな世界らしい。
まだ訴訟上等な海外の研究室(もしくはそう言う環境から来た外人)ならまだしも、純粋に日本人しかいない研究室だと日常茶飯事的に尻を撫でられたり肩を抱かれりするのなんて序の口だそうだ。
なのでそう言うことをしない教授には女性研究者が集まりやすいんだそうで。
折角伸び伸びと研究出来る教授の元に入り込めたのに変な精神異常者に目をつけられて殺されちゃうなんて、不幸だよねぇ。
それでも1人しか悪霊化していないんだから、お人好しが多い様だ。
名前や詳細を聞く為に霊を召喚したら水野に憑いていた2人のうちの1人は悪霊化していた。
お陰で戻した今だと水野の居場所がすぐに分かるんだが・・・田端氏に言っておくべきかね?
「ああ・・・3人には行方不明者として届出が出ているな。
転職エージェントだとすると職場を離れるタイミングを作り出して殺しているのかな?
その教授は本当に全く関与していないのだろうか?
それだけの人間が行方不明になったらおかしいと普通は思うだろうに」
タブレットで何やら確認していた田端氏が聞いてくる。
「最初の被害者は長谷部教授の研究結果を盗んで別の大学に移動したらしいです。
だから疑わしいかも知れませんが・・・少なくとも被害者曰く、水野がベラベラ喋っていた内容からすると勝手に彼女が憤慨して正義の鉄槌を下したつもりらしいですね。
・・・もしかしたら、教授が疑わしいって言ったら水野は全て自白するかも知れませんよ?」
5人も殺すほど大切にしているんだから。
まあ、自分のモノにならないなら他の人のモノになるのも許さない系の人間だったら駄目だろうけど、元々自分のモノにする的な付き合いでは無いっぽい印象だから大丈夫じゃないかね?
そこら辺の見極めはプロに任せよう。
「ふむ。
ご協力感謝する。
後はこちらで捜査していくが、何かあった場合は連絡しても良いだろうか?」
田端氏が携帯を手に取りながら聞いてきた。
「ええ。
ちなみに被害者達の霊を成仏させたいので、起訴が確定した時点にでもご一報お願いしますね」
流石に有罪が確定するまでなんて言っていたらきりがないから、起訴の段階で成仏してもいいだろう。
もしも何らかの理由で罪を逃れる様だったら、最後の手段として天罰と言う手もあるし。