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意外な展開

結局、昨晩はテレビでやっていた面白いドキュメンタリーに夢中になって、気がついたら夜が更けていたのであのヤバいかも知れない人(ちなみに郵便物によると名前は『篠原 達史』らしい)を調べるのは諦めた。


そこまで急がないし、眠かったし。


で、今日は碧のペット祈祷の手伝いである。

丁度碧と家を出るぐらいのタイミングで彼も家を出たとクルミからチラッと報告があった。

さて、どこに行くんだろうか。

近所にスーパーでは無く仕事場であることを期待したいが・・・あんなもっさりした格好で働ける場所なんてあまり無さそうな気も?



「今日の患者1号は癌末期で食べないせいで胃瘻チューブを付けているらしいんだけど、これは流石に取っちゃったらまずいよねぇ」

神社で巫女衣装に着替え、タブレットの情報を見た碧が微妙な顔をして呟いた。


「どこ経由の患者なの?

退魔師の力を知っている相手なら全部治して胃瘻チューブを外しちゃうのもありじゃない?

使わないのに胃に穴が開いていてもいい事はないだろうし。

患者の意識がないうちに引き抜いちゃって穴も治療して無くしちゃった方が猫にとっては負担が少ない気がするけど。

ちなみに何歳なの?」

もう年寄りで近いうちに老衰で食べなくなるリスクがあるなら、胃瘻チューブを残しておく方が良いかもだが。

まあ、病気でなく老衰で食べなくなったなら、そのまま死なせてあげる方が良い気もするけど。


「まだ5歳だから、癌が治ればまだまだ生きるだろうね。

それもあって延命に頑張っていたみたいだし」

ふうん。

でも、若くて癌になると悪化も早いんじゃないんかね?


「今まで気持ち悪くて食べない癖が付いているなら、ちょっと記憶に介入して気持ちが悪かった情報を消して食欲マシマシ状態にして、モリモリ食べるようにも出来るよ?

でも、急に食べ始めたら消化器官がびっくりしちゃうかな?」

今まで流動食しか食べていなかったのに急にドライフードは不味いかな?


と言うか、下手したらドライフードそのものが残って無いかも?


「飼い主次第かなぁ。どの程度まで情報開示出来て、どこまで信じてもらえるかが重要だし。

う〜んと・・・おやぁ?青木氏経由の紹介の退魔師だって。

マジか」


碧が飼い主情報を更に読んでいって驚きの声をあげた。

青木氏と黒崎さんを信頼しているし、前もって調べて何かする必要もないからあまり飼い主情報って事前に見ていなかった碧だが、ちょっとこれはびっくりかも。


「退魔師だったら回復系の能力持ちの知り合いぐらい居そうなものなのにね。

知り合いだったら非公式に治療ぐらい頼めるだろうに」

商業的に金さえ取らなければ医療行為がうんだかんだと言う話だって周囲にはバレない。


「取り敢えず、信頼出来る人か白龍さまに確認して貰って飼い主と相談するか。

退魔師なら獣医に『奇跡的に重度の癌が治った』のを診せるのは不味いって分かっているだろうし。

あ〜、分かっていたらこんな衣装着なかったのに。

下手したら退魔協会のパーティで会うかも知れない人にコスプレ状態で会うなんて微妙〜」

碧が溜め息を吐きながら嘆いた。


「まあ、もしかしたらいい友人が出来るかも知れないと思って諦めるんだね」

碧を慰め、部屋の整理を始める。


個人情報なんて集めちゃっても面倒なので、基本的に祈祷は現金払いなので患者ペットはまだしも飼い主の名は聞かないし、職業等々の詳細も本人から自発的に言ってこない無い限り必須では無いんだよね。


で。

今回現れた飼い主は・・・意外にも初老の男性だった。

おやま。

この年齢だったらマジで回復師に伝手ぐらいありそうなものなのに。


「・・・え〜と、紹介主の青木氏から提供された情報だと同業者と言う話なので、ぶっちゃけて良いですか?」

相手を見て、一瞬動きが止まった碧だが、再起動して普通に話を始めた。

どうやら白龍さまから合格通知が出たらしい。


「勿論です。

1万円でペットとは言え回復の術を使うお人好しがいると聞いてまさかとは思っていましたが、白龍さまの愛し子だったとは。

絶対に藤山さんの許可なしに話を広めるつもりはないですから、安心して下さい。

ちなみに私の名は杉浦と言います。

今回は本当に感謝していますし、何か今後役に立てる事があったらいつでも言ってください。

それで・・・チョビは治りそうですか?

回復の出来る親しい知り合いにも頼んでみたのですが、小さな生き物の病気は難しいと言われてしまいまして」

碧の名前も知ってるか〜。

確かに怪我より病気の方が回復術が上手く効きにくいが、癌だったら腫瘍部分を取り除いたらなんとかならなりそうだけど。まあ、下手すると病巣部分を除去した後に回復術をかけたら血液中に残っていた癌細胞を一気に増やしちゃったりするリスクがあるのかね?

小さい動物じゃあ人間より体力が無いしね。


「癌は治ります。

胃瘻チューブを引き抜いて、その穴を治すのも簡単です。

ちゃんとチョビ君が餌を食べられるように消化器官もしっかり元の状態に戻すので今日から普通にドライフードをあげても大丈夫です。

ただ、胃瘻チューブを付けているって事は、色々と今までの経過のレントゲンとかエコーの映像が獣医さんの所に残っていますよね?

あまり露骨に重度の癌が完治した証拠が獣医師側に流れると後で問題が起きるかも知れないので、一気に完治させるなら数年単位で掛かりつけの獣医を変えて頂きたいんですが」

碧が問題点を指摘する。


それとなく癌が良くなってきたかの様に何度かに分けて回復の術を掛ける事も可能らしいが、祈祷代が何倍にもなるし、何よりもうっかり祈祷に来るタイミングが遅れると揺り返しで一気に悪化してショック状態になったりするリスクもゼロでは無いのであまりおススメでは無いらしい。


これが一般の客だったら私がそれとなく自発的に獣医を変えようかな〜と言う考えを埋め込むのだが、流石に同業者にやったらバレた時の影響が大きすぎて出来ない。

こう考えると青木氏や黒崎さんに、紹介する相手が同業者の場合は前もって教えてって言っておいた方が良いかも。


「ああ、確かにそうですね。

暫くは獣医に行く必要もないでしょうが、健康診断に行くにしても別の所に行くようにします」

あっさりと杉浦氏が頷いた。


「良かった。

では祈祷しますんで、隣の部屋でお待ちください」

杉浦氏の返事に頷き、碧がうちらに隣の部屋へ行くように指示する。


「本当に祈るんですか?」

意外そうに杉浦氏が聞いてくる。


「祈祷ですから!」

碧が押し切る。

確信犯でも、祈っている形にしておけば咎められにくいからね。


あっさりチョビ君は治り、杉浦氏が涙ぐみながら礼を言いつつ帰っていった。

考えてみたら、杉浦氏って家族はいるのかね?

胃瘻チューブまでしていた飼い犬が急に治ったら、家族に怪しまれそうだけど。

まあ、上手く誤魔化してくれると期待しよう。


さて。

クルミはどこにたどり着いたかな?

祈祷後に碧と杉浦氏が話している間にクルミとのリンクに魔力を込めて視界を共有したら、何やら見覚えのある景色が目に入ってきた。


あれ?

これってウチの大学じゃない??

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