分からん
『犯罪者とか、前科は無いものの危険人物として警察や公安が把握している人物ではありませんね。
ここ1ヶ月の入国管理のデータベースにも入っていなかったです。ただまあ帰国して直ぐでない可能性はありますから、危険と見なされる反政府勢力に加担しかねない傭兵としてマークされている存在では無いとしか言えませんが』
碧が上手く撮った写真を送って田端氏に確認をお願いしたところ、『濃厚な死の気配』をそれなりに真剣に受け止めてくれたのか、調べてくれた。
しっかし。写真だけで入国管理のデータベースと照合出来るのかぁ。
管理社会だねぇ。
1ヶ月分しか調べなかったのは、それだけしかデータが残って居なかったと言うより、特に問題が起きていない状況で碧からの『お願い』に基づいて動ける範囲が1ヶ月分って事なんだろうね。
少なくとも国家権力から危険人物と見做されていない事は分かったが・・・以前のゴキブリ屋敷の殺人鬼とか、血塗れ温泉のロクデナシも別に国家権力には把握されて無かったからなぁ。
そこそこ程度の安心でしかないね。
「しっかし、穢れがついていないのに死の気配が濃厚ってなんなんだろ?」
碧がコーヒーを手に、ソファへ腰掛ける。
「葬儀関連の業者もそれなりに死が染みつくけど、もう少し薄い感じなんだよねぇ。
ある意味、前世だったら屠殺屋なんかはあんな感じだった気もするけど・・・ここら辺に屠殺業者なんて住んでいないと思わん?」
これだけ皆が肉を食べているのだ。
確かにどっかで大量に屠殺しているとは思うけど、現世だったら都会ではなく牧場とか多い地方にある屠殺所でやって冷凍輸送システムに乗せている気がする。
スーパーで見る肉だって、輸入物か、北海道とか鹿児島産とかって書いてあるのが多い。東京都産の肉なんて見たこと無いぞ。
「う〜ん、意外と人ってミステリーだね。
財布を盗んで身分証明書でも盗み見ない限り、分からないもんだね〜」
碧が肩を竦めながら言う。
「そうだね。
現代社会なんて情報が直ぐに丸裸になって怖いと思っていたけど、意外とそうでも無かったね。
取り敢えずクルミにしっかり追跡させて、どこに行くかを調べるしかないかな」
危険人物じゃないならそこまで調べる必要もないのだが・・・まあ、最近はそれ程忙しく無いし、魔力も使っていないのでとことん調べてもいいだろう。
碧のペット専門祈祷も大分落ち着いて週2日ぐらいになってきたし。もうそろそろ退魔協会から依頼が入るかもしれないが、それまでは張り付かせておいても良いだろう。
『今どこ〜?』
ちょっと魔力を伸ばしてクルミに尋ねる。
『洗濯が終わって家に帰ってきたにゃ』
お。
家に着いたか。
更にクルミとのリンクに魔力を注ぎ、視界を共有化する。
う〜む。
ちゃんと掃除しようよ。
1LDKのマンション(もしくはアパート?)の部屋の天井の隅にいるらしいクルミの視界に郵便物がごっちゃになって積み上げられている食卓用らしきテーブルと、ゴミや服があちらこちらに散らばっているだらしない部屋が見える。
台所は・・・カップヌードルとコンビニ弁当が積み重ねられている。
どうやら料理をするタイプでは無いらしい。
台所のシンクに状態から見るに、ここで血を洗い流す様な活動もしていないようだし、これだけだらしなかったらヤバい事をやってたら比較的直ぐに発覚しそうだから、ちょっと安心かな?
夏だったら違う意味で危険そうだが。
コンビニ弁当の容器もしっかり洗わないと色々湧くよ??
『う〜む、家を出たら着いて行って目的地に着くとか誰かに会ったら教えて』
クルミに伝えてリンクを切る。
チラッと郵便物に見えた名前で検索してみるが、特に情報は無かった。
まあ、ネットの検索で出てくる情報は有名人とか大企業のトップとかならまだしも、1LDKに住む様な一般市民では大したものではない上に信頼性も低いだろう。
かと言って流石に殺人鬼やロクデナシであるという濃厚な疑惑もないのに警察に調べさせるのもねぇ。
しっかり名前と住所まで提供して国家権力に調べさせるのは、写真を提供してヤバい人データベースに入っているかを確認するのとはちょっと違う気がしたので、一旦引くことにした。
「何か分かった?」
クルミとやり取りする私の様子を見ていた碧が聞いてきた。
「取り敢えず、ちょっとだらし無い1LDKに一人暮らしっぽいね。
シンクもあまり使っていない様子だったから家でヤバい事もしてなさそう?」
考えてみたら、傭兵だったらもっとお金がありそうなものだよね。
それとも傭兵も売れっ子以外だったらあまり儲からないのかな?
いや、あの部屋の隅にあった綿埃の溜まり具合は長期的に住んでいる様子だった。
そうなるとしょっちゅう海外に出かけるであろう傭兵は無理だよね?
う〜む。
寝ている間にクルミを使って少し記憶を読めないかやってみようかなぁ。
危険度が下がってくると、ショートカットを取りたくなるな。