ちょっと疑問
「武田 信彦だ。
今日は遠くまでありがとう。
こちらに一族の者が集まっているから着いてきてくれ」
依頼主の実家(なんかちょっとした公民館ぐらいのサイズだった)に行ったら、執事らしき老人に案内されて応接間まで案内され、白髪の老人に声を掛けられた。
苗字はしっかり武田なんだね。
まあ、戦国時代中はかなりいい加減にあちこちの血筋を適当に皆さん名乗って居たって聞く。
それっぽい家系図も金を払えば朝廷のお墨付きで作成できたらしいし、明治維新の後は農民ですら自由に適当な苗字を名乗れたらしいから、本当にあの有名な武田家の末裔かは不明だけど。
と言うか、『武田家』って言っても福井の方とか広島の方とかにも居たらしいし、それだって大元は同じ源氏の末裔って話だからねぇ。
第一、日本の武士は一応全部平氏か源氏なんだっけ?
アダムとイブでもあるまいに、国の侍人口全部が二つの家系から出てるなんて有り得ないが、考えてみたら世界の全人口が6人の知り合いを介せば繋がりがあるとか言う話だから、2000年の歴史の中である程度の血のつながりは日本人なら誰とでもあるんかも。
と言う事で案内された大きな宴会場みたいな部屋。
個人の屋敷に宴会場があるなんて、驚きだね。
田舎だと名家とやらは人を集める事が多いんかな?
取り敢えず目の前の老人を魔力視で確認する。
『どう?』
碧が念話で聞いてくる。
『かなり穢れが蓄積してるけど呪いは無いね。
でも普通に生活していて溜まるにしては穢れが多すぎるかな?』
よっぽど酷いことをやってきたか、それこそどっかにひたすらここら辺の人たちを恨む悪霊でもいるのか。
別に建物の周りはそれ程瘴気だらけって訳では無かったけど。
呪いにまでなっていなくても、穢れも多ければ体に不調を起こす。
とは言え、皆が同じような症状で死ぬとなると怪しいが。
『私は右端から視ていくから碧は左端から確認していくのでどう?』
『うん、そうしようか』
「ああ、このまま観察させて下さい。
却って紹介だなんだで会話をしていると気が散るので」
碧が宴会場でガヤガヤと話していたグループの注意を引こうと声を上げる素振りを見せた武田氏(まあほぼ全員同じ苗字なんだろうけど)に声を掛けて止める。
つうか、この人数に紹介されるなんて迷惑なだけだよ。
その上、後で『折角お知り合いになれたので』とか言って連絡先を聞かれた挙句に退魔協会を通さずに割安料金で除霊してくれとか各自から『こっそり』頼む連絡が来たりしたら時間の無駄だし迷惑だ。
普通だったら『退魔師』として紹介なんてされたら詐欺を疑う目で見られる可能性が高いが、なんといっても一族ごと呪われていると思っている連中だ。
絶対に伝手があったら除霊を頼んでくるだろう。
それはさておき。
部屋にいる人間を一人一人調べていく。
う〜ん、皆やたらと穢れを溜め込んでいるが、呪われているのは水子霊に取り憑かれた一人だけ。
近くに悪霊を封じた慰霊碑でもあって、そこから穢れが漏れているんかね?
ふと、入り口に控えている執事さんを確認してみる。
彼はそれ程穢れを溜め込んでいない。
宴会場でお茶を出しているらしき女性もだ。
ふむ。
明らかに穢れが溜まる相手が選ばれている感じだね。
とは言え、考えてみたら武田家って言ったって嫁や婿は血が繋がっていないだろうし、これだけ人数がいたら浮気をして生まれた、実は血が繋がっていない子だっているだろうに。
『呪われているのはあっちの若い男だけだね。
水子霊を使っているから女関係で拗れたんじゃないかな?
碧は何か分かった?』
『う〜ん、なんか肝臓を悪くしかけている人が妙に多いね。
穢れそのものも肝臓に溜まっているっぽい気がするし。
家系的に肝臓が弱いのかな?』
碧がちょっと首を傾げる。
「ちなみに、亡くなる方は一族の血を引いた人だけですか?
それとも嫁いできたお嫁さんやお婿さんもでしょうか?」
武田氏に尋ねる。
「武田の名を名乗ると若死する事が多い。
嫁や婿もそうなので呪いなんじゃ無いかと言われている」
むっつりと爺さんが答えた。
「武田の名を名乗らない親戚もこう言う場に集まるんですか?」
娘だったら余程の事情が無い限り、結婚したら夫の苗字を名乗るだろう。
そう言う場合はどうなるのか。
「武田から離れた人間は呼ばれぬな」
なんとも排他的な一族だ。
なんだって今時それ程古びたやり方に固執しているんだろうね?
なんかヤバいけど金になる秘密でもあるんかな?