それって医療行為じゃないの??
「一族の呪い、ですか?」
今日も今日とて退魔協会から電話がきた。
まだ春休み中だから、今のうちに儲けていつの日か事務所用のガレージ併設戸建てをゲットしてキャンピングカーを整備する為にも仕事が来るのは良い事なんだけどね〜。
なんとはなしに退魔協会からの電話って身構えてしまう。
実質国内唯一の退魔師関係の仕事を仲介する組織と信頼関係が無いって言うのは困ったものだが。
もう少し青木氏経由の仕事を増やすべきかね?
でもあっちはある意味素人の相対取引だから安めなんだよねぇ。
あれを増やしすぎて退魔協会の仕事を断る羽目になったら収入アップという目的からは反してしまう。
まあ、それはともかく。
今度はどうやら呪詛関係らしい。
『一族』なんて現代日本ではあまり聞かない言葉な気がするが、田舎に行けば旧家が地域一帯を一族で牛耳っていたりするのかな?
昔から横暴な事をやっていたならどっかで恨みを買って呪われても不思議では無いが・・・一族全部を呪おうなんて思ったらかなり大変なんだけどな。
呪いよりも、単に遺伝子異常なんじゃないんかね?
狭い地域で血縁同士の結婚を繰り返してきていたら血が濃くなるだろうし、そこで何か遺伝子異常が紛れ込んだら一族誰もが若死しやすいなんて事にもなりそうだ。
とは言え、退魔協会の調査部が呪いがあると認定しているんだろうから、何かはある筈か。
「はあ、そうですか。
ですが、それでいいんですか?
・・・なるほど。
ちなみに遺伝子異常だった場合でも、治療はしませんよ?違法行為になりますから。
依頼主はそこのところはしっかり理解しているんですよね?
裏取引的に違法な治療込みでの報酬額だとゴリ押しされても困りますが、ちゃんと向こうは我々は呪いしか対応しないと分かっていますね?
呪いで引き起こされた身体異常は、長期化していた場合は呪いを解呪しても完治するとは限らないのもちゃんと依頼主に告知してありますよね?
・・・分かりました。
では、その依頼主から承諾サインを貰った告知書のコピーも依頼詳細と一緒に送って下さい」
なんか随分と念を押してるねぇ。
普通の呪いって返せば大体被害者の苦しみは治る筈なんだが・・・『一族の』なんて言っているから変な感じに長期化している呪いなのかね?
遺伝子異常が起きやすくなる様な呪いだったら癌になりやすくなるって事だから、呪いを解呪しても既に罹患した癌は治らないんだよねぇ。
再発は起き難くなるだろうけど。
だから前世では病気になる系の呪いはさっさと解呪しないと、手遅れになるとか解呪後の治療費が高すぎて破産するとかいった事もあった。
まあ、そこまで長い間気付かれずに呪えること自体が滅多に無いから珍しいケースだけどね。
教科書には色々と過去の例が載っていたなぁ。
今回もそう言う問題なのかね?
「来週は甲府の方にちょっと出張だって。
なんでも武田家の血を引くとか言う旧家が一族全部で呪われているから解呪して欲しいって依頼してきたんだって」
電話の終わった碧が受話器を置きながら教えてくれた。
「武田家って戦国時代に滅びてるよね??」
そりゃあ、手を出した妾の子とかは幾らでもいるだろうが、『一族』なんて言うほどの名家だったら確実に息の根を止められているんじゃ無いの??
「まあ、あの地域一帯が実質武田家の親族だったからね。
流石に豪族全部を根絶やしにする訳にはいかなかっただろうから、ある程度は残っていても不思議はないよ。
単に明治維新の後にでも『武田の末裔』だって言い出しただけの可能性も高そうだけど」
碧が苦笑しながら教えてくれた。
考えてみたら、信濃とか諏訪の辺なんて、武田に併合されて搾取しまくられた地域だよね。
武田が落ち目になった後にはそれなりご近所さんが報復に動き回っていた話なんかも聞いてそう。
と言うか。
「甲府って言ったらなんか寄生虫が比較的最近まで残ってて昔は人がよく死んだって話じゃ無かったっけ?
根絶できてなかった寄生虫とか、その亜種だったりするんじゃないの?」
現代医術では、ちゃんと不調の原因が分かっていなければ治療できる病理でも実はそれ程効率的に対処できていないと先日まざまざと見せられたばかりだ。
単なる風土病モドキの誤診で、偶々血族に罹患者が多かっただけなんじゃないの?
「こないだちゃんと呪いを確認できた調査部の人が態々行ったらしいんだけど、なんか呪いっぽい影が視えるけどはっきりと呪いが確認できなかったんだって。
取り敢えず、原因解明だけでもしてくれって」
それって良いの??
「治療しなくても診断するのって治療行為じゃないの?」
って言うか、普通の医者に治せない様な病気の原因を解明できるんだったら、がっつり診断料を取るべきだよね?
まあ、解呪料の方が診断料より高い可能性もゼロではないが。