逃亡生活って中々ハード
「お、これじゃない?」
インターネットカフェに入って調べたら、すぐに私が考えていた宿屋のホームページが見つかった。
「ついでに予約しておこうか?」
Web予約のボタンがあったのでクリックしたが・・・クレジットカード情報が必要だった。
「これってさぁ、クレジットカード会社にまで私達の情報を求めるかなぁ?」
碧が微妙な顔で悩みつつウェブサイトの入力スクリーンを睨んだ。
「本来なら何の罪も犯していないし容疑者でもないウチらの情報を集められないと思うけど、アメリカの副大統領関連だからねぇ。
もしかしたらCIAとかがハッキングして情報を盗むかも?」
そんな事にリソースを使うよりは誘拐犯を一網打尽にするのに時間をかけて欲しいところだが。
つうか、カード会社の情報を入手するのがどのくらい大変かにもよるんだろうなぁ。
海外ドラマなんかだとサイバー部門のプロっぽいのはちょちょいのちょいって感じで数分でありとあらゆるところから情報を抜き取っているけど、現実にはどうなんだろ?
「VISAとMasterしかカードがないから、本社側からあっさり情報を見れるかもね〜」
碧が財布を確認しながら呟く。
中国の会社は政府に情報提供義務があるが、アメリカってどうなんだっけ?
一般人で何も犯罪に関わっていない私達の情報を集める権利は無いはずだが、盗む用のバックドアみたいのを大手カード会社全部に設置していたらあっさり抜き取れるかも。
国ごとのデータの管理とか機密保持ってそれなりに厳しい筈だけどねぇ。
中国のサーバーにデータを保管することが散々問題になって報道されたんだから、米系のデータだってそれなりに管理はきちんとしていると思いたい。
クラウドサービスなんかは政府系ですらアメリカの大手会社の方がセキュリティがしっかりしている上に安いって事でそっちのサービスを使っているのが多いらしいんだから、日本国内の情報まで本社がある本国の情報機関に筒抜けだったら嫌過ぎる。
「電話して、カードなしでも予約出来ないか聞いてみよう。
温泉が沢山ありそうな地名だし、ここがダメでも泊まれるところはどっかにあるでしょ。
ダメだったらそれこそ夕食と日帰り風呂を楽しんだ後、都心に戻ってきてカプセルホテルにでも泊まっても良いし」
あれも一度試してみたかったんだよね〜。
残業が多すぎて必要に迫られて使う羽目になるのは嫌だけど、ちょっと冒険チックに煩い役人から逃れる為にって言うのはありだと思う。
「そうだね。
・・・となると、この駅周辺の温泉宿マップとここからのルートと宿の電話番号をプリントアウトして、後は駅でテレフォンカードでもゲットして連絡かな?」
碧がテキパキと必要な情報を確認しながら言った。
「明日チェックアウトする時にはもうクレジットカードを使っても良いかな?」
ダメだったら現金を下ろしておく必要がある。
電車代は一応払えるぐらいは財布に入っているが、宿泊費は厳しい。
今後はもしもの時の為に、収納に5万円ぐらい現金も入れておこう。
「カードを持っていないって言わないと多分チェックインの時にカード番号を控えさせてくれって言われるよ。
だから先に人が多いところでお金を下ろしておかないと」
碧が宿泊料金を確認しながら指摘する。
そっかぁ。
宿って先に食い逃げ(プラス宿泊逃げって言うのかな?)されない様にカード番号を欲しがるのか。
明日の朝になればどうせもう帰るし、うちらの情報が漏れても良いと思ったけどチェックインの段階ではダメだね。
「うっし。
じゃあ、コンビニでお金を下ろしてついでにテレフォンカードや下着の替えも買っておこうか」
歯ブラシやシャンプー・リンスは多分宿についてるよね?
と言う事で必要な情報をプリントアウトして外へ。
コンビニは道の向こうにあったのでそこで5万円ほど下ろしておき、必要な物を買って駅へ。
公衆電話にたどり着くのに20分近く掛かった。
駅の案内で見つけたけど、巨大な駅だから歩き回るだけでも時間がかかるし、最近は利用者が少ないし人通りが多過ぎると煩いしでちょっと外れた所にあるせいで、発見にも時間が掛かった。
大地震が起きた時なんかに携帯よりも公衆電話の方が通話が繋がりやすいって話だけど、見つけるのが大変すぎて諦めちゃいそうだな、これ。
そんな事を考えながら碧が宿の人と話すのを見ていたら、ぐいっと親指を上げて見せられた。
お、部屋があるっぽい。
まあ、平日だしね。
「当日予約だからカードなしでも大丈夫だって」
うっし!
と言う事で温泉へ。
と思ったが。
「うわぁ、考えてみたら現金でチケットを買うのって初めてかも。
最近ってSuicaで大体済ませていたし、地方に行く時はオンラインで買ってたわぁ」
チケット売り場でどうすればいいのか周りを見回しながら思わず呻く。
「逃亡生活って中々ハードだね」
もしもの時の為の予行練習が出来て、良かったかも?