ちょっとした善意(?)
「おや。
随分と渋い趣味だね〜」
先日見かけたSPとは違う、もう少しゴツいイヤホンマイク付きSPを後ろに従えて歩いている少女を見かけて思わず独り言がこぼれた。
今日は先日雑誌で見たちょっと便利な台所用品を探そうと浅草の向こうにある古くからそれ用の店が集まる河童の名前がついた地区を歩いていたのだが・・・なぜか外人SPがいた。
勿論、彼が護衛しているらしき副大統領の子供(多分)らしき少女も。
浅草寺とか秋葉原ならまだしも、ここら辺に来るとは中々渋い趣味だ。
SPがつくような人にはあまり歩き回らないで欲しいのが正直なところだが、流石にそっと目立たずに外出するのまで咎めるのは哀れか。
とは言え。
『なんか変な人が後をつけているんだけど・・・。
クルミ、あの後ろを歩いている男とその仲間をちょっと下痢にしちゃってくれる?』
街中で誘拐劇なんぞ展開されたら周囲に被害が及びかねない。
一番確実で私の存在が目立たない方法は誰かの車が運転ミスで不審者に突っ込み彼らを無力化することだが、そうすると運転手が危険運転で咎められる可能性が高いので可哀想だろう。
普通の一般人で防御用の符を持っていなければ使い魔経由の黒魔術でもお腹を一時的に下らせる事は出来る。
取り敢えず、下痢になって動けなくなれば少女もここら辺から離れるだろう。
そんな思惑は帰って来たクルミの報告で崩れた。
『だめ〜。
護符持ちだった』
マジか。
道に出してある籠の中の売り物を手に取って立ち止まり、不審者達を魔力視で確認する。
護符と、何やら黒魔術系の魔道具も持っているっぽい。
えぇ〜。
アメリカ副大統領の家族を狙うなら薬とか武器を使うべきでしょうに。
魔道具を使って意識を奪うつもりと言うのは想定外だ。
まあ、銃を使われるよりは周囲への被害が及びにくいから、有難いと言うべきかもだけど。
最近は飛行機で入国するなら液体とかも持ち込み規制が多いらしいし、考えてみたら実質ノーチェックな符や魔道具の方が簡単に持ち込めるのか。
海外の魔道具がどんなものなのか、ちょっと興味はあるが・・・どうすっかなぁ。
下手に助けたりしたら変な人たちの注意を引きかねない。
現代だと道に向けた防犯カメラとかに写ってしまう可能性が常にある。なので下手に手を出して『邪魔をしたのが誰か』とか、『助けてくれたのが誰か』とかを攻撃者側や副大統領側が本気で調べたら私の顔とIDがバレそうだ。
日本だろうとアメリカだろうと、国の上層部の人間に『私』と言う人間を認識させるぐらいだったらどっかの政治家の子が誘拐されるのを放置する。
幸い、周囲の人間に被害は及ばなそうだし。
まあ、誘拐なら殺されない可能性も高いだろうと思って諦め、そのまま自分の買い物に戻ろうとしたところへ散歩中のテリアっぽい小型犬が目に入った。
おお?
しかもそちらにターゲットの娘っ子が進んでいる。
『クルミ、あの犬にターゲットへ飛びついて騒ぎながら戯れた後に、うっかりっぽい感じでズボンにおしっこを掛けるようお願いして』
犬のおしっこは猫のほど臭いが強烈ではないが、流石に若い女の子が犬におしっこをかけられてそのまま買い物を続ける事は無いだろう。
犬が変な風に戯れついたら周囲の注目も集まるだろうし。
『了解〜』
生きていると犬と猫はあまり相性が良く無いのだが、何故か霊になるとそれなりに友好的になり、猫の霊のお願いも聞いてくれる事が多い。
職業意識のしっかりした訓練された犬はハンドラー以外のお願いなんて見向きもしない事が多いが、碌に躾けられないっぽい小型犬なら楽しそうだからと喜んで協力してくれる可能性が高いだろう。
「きゃあ!
すいません!!」
突然犬が飛び出して手元の紐を引っ張って少女に飛び掛かったのに飼い主が慌てて謝罪の声を上げた。
少女の方は幸いにも犬好きなのか、特に騒ぐ事なくしゃがみ込んで撫でているが・・・やがて突然声を上げて飛び退いた。
何やら英語の罵り声が流れてくる。
以前大学で見た留学生が手をドアに挟んだ時も思ったけど、外人ってこう言う時に『ぎゃぁぁ!』って叫ぶんじゃなくって何やら罵るんだねぇ。
叫ぶのって本能的な反応だと思ったけど、育つ社会によって反応方法が違うようだ。
前世では悲鳴をあげている暇があったら相手を殺せって感じに本気でヤッていたからあまり意識しなかったけど、あっちではどうだったっけ?
まあ、それはさておき。
テリア君が上手くおしっこを掛けてくれたらしい。
何やら飼い主と少女と慌てて近づいて来た護衛と・・・通訳?の人っぽいのが頭を下げたりポケットティッシュを差し出したりしているが、通行人が足を止めて注目し始めた段階で不審者達が姿を消した。
どうやらここでの襲撃は諦めたっぽい。
まあ、他の場所で再度トライするかもだけど・・・そこはプロの護衛が何とかしてくれると良いね〜。
幸運を祈る。