やっぱ使えないぃ〜
「結局、ちゃんとした回復師だったら微細な呪詛も視えるんじゃん。
病院に勤めている適性持ちの人員が存在するんだから、退魔協会に依頼がなくても長期患者は調べるべきでしょうに」
結局、碧があのあと魔力視で呪詛を見つける為のコツを何点か列挙して集まりは終わった。
呪詛に掛かっていた人には詳細が後で伝えられるらしい。
家に帰ってから今回の騒動の不満を口にしたら、碧も肩を竦めた。
「本当にねぇ。
せめて回復師による治療をどうですかぐらいの提案をすりゃあ良いのに、長期治療の方が金になるからって患者が言い出すまで素知らぬふりをする為にも診断すらさせてないんだろうね」
「なんかさぁ、あんだけ金持ちに呪詛由来の病人が多いなら将来的には呪詛発見とか呪詛祓いに特化して金儲けするのもありかな〜なんて思ったけど、絶対に医療業界に邪魔されそうだね」
調査部みたいに視えないならまだしも、視える人員がいるのに態と調べさせていないのだ。
私がサービスを始めたら即座に競合して同じサービスを始め、私が競り負けて廃業するまで邪魔をするだろう。
それでも諦めずに費用度外視でやったりしたら、下手をしたら交通事故を装って殺されかねない。
医療系だから家族の治療を態と失敗して寝たきりにさせて脅してくる可能性もあるし。
どの位日本の医療業界が腐っているかは知らないが、無理やり回復師の治療を医療機関内にするよう法整備させたのに、治療にきた人間すらちゃんと癒さずに金を搾り取る事に注力しているスタンスを考えると、少なくとも病院経営の上層部は金儲け重視で動いていると思われるし、その場合に儲けを減らす競争相手は敵と見做されるだろう。
それこそ、黒魔術系適性持ちだと呪詛を見分けやすいと気付いたら、前世の様に黒魔術師を徹底的に抑圧しようと動く可能性すらありそうだ。
本当に、現代社会で魔術って使い道が少ない。
「だねぇ。
しっかり退魔協会に金が流れ込む仕組みを考えてやれば何とかなるかもだけど、フリーランスっぽく協会を通さないコンサルティングなんてやったら、あっという間に潰されるだろうね」
碧が溜め息を吐きながら同意した。
呪詛の被害者は金持ちや権力者が多いから、上手く根回しすれば権力者側に守って貰えるかもしれないが・・・守ってもらっているうちに、『呪詛を見つけたり防いだりできるなら、目に付きにくい呪詛を掛けるのも出来ない?』とか提案されるようになりそうだ。
清濁併せ呑むなんて言うのは、それなりに力が無ければ沈まずにキープするのは至難の業だ。
弱者が泥水を避けない働き方をしたら、あっという間に汚泥に飲まれて腐り果てるなんて事になりかねない。
「なんかこう、世の中のためになる事をしながらガッツリお金を稼ぎたいなんて思わなくもないんだけど・・・難しいねぇ。
何にせよ、ガッツリ儲かる事をやり始めたら退魔協会にしっかり利益提供しないと足を引っ張られそうだし」
「そうだよねぇ。
私も昔は回復師として普通の人をどんどん癒していこうと思っていたんだけど、叔父が散々嫌がらせされたりとんでも無い嘘の噂話や報道をされたりして徹底的に邪魔されているのを見て、諦めたもん。
退魔協会も最初は叔父に何やら合法的な医療機関をバイパスする金儲けの手法を提案してきたらしいけど、金を搾取したいんじゃ無いって断ったらその後は一貫して素知らぬふりで助けようとしなかったし。
まあ私だったら医師免許を取った後に本格的な嫌がらせをやられたら白龍さまが相手を撃退してくれると思うけど、私一人しか出来ない世直しなんて意味がないからねぇ〜」
碧が溜め息を吐く。
碧一人が治療できる患者の数なんて限られている。
そうなると全面闘争で医療機関を経営破綻に追いやっても碧の手の届く範囲にいない人は困るだろうし、いつか碧がリタイアした後は更に問題になる。
「いつか国とか強い政治団体とかにガッツリ恩を売る機会があったら、回復師関係の法律を変えてもらおう」
とは言え、詐欺師と本当の回復師の見分けを付けるためには誰かがお墨付きを出す必要がある。
結局はそこがボトルネックになったり、新たな利権団体になって一般人への治療が広まる事へに障害になったりしかねないなぁ。
そう考えると、前世の神殿はまだ良心的だった。
神の数が多かったおかげで、何処かが特に腐敗すると別の神殿に人が流れることで相互牽制になっていたんだよねぇ。
日本もちゃんと神と意思疎通が出来る神社とかがしっかりそう言うのをやってくれたら良いのにって気もするけど、形だけの神社モドキと本物を見分ける方法が無いから難しいんだろう。
「そうだね。
とは言え、今更日本の医療機関の構造を変えられるかはちょっと怪しいけど」
溜め息を吐きながら碧が言った。
やたらと小さな医院が多すぎて経営効率が悪いんだろうなぁ。
大病院は大病院で医師や看護士が過酷な残業三昧な日々を過ごしているらしいし。
民間の医者が多すぎて国がバッサリとナタを振るって効率重視な形に整備できないんだろうけど、いつかなんとかなる日がくるんかね?