当てずっぽ診断は駄目だよ
『視える?』
碧の上から目線スタンスは正解だったのか、ちゃんと約束の日時に先日の病院の大会議室に持ち込まれた居心地の良さそうな椅子に偉そうな老人(壮年ぐらいのもいたが)が5人ほど座って和やかに雑談していた。
一応、あまり次から次へと退魔師が観察に出入りするのは落ち着かないだろうと言う事で、薄いがそれなりに防音機能のある仕切りで分けたスペースに私たちは案内されている。
魔力視で見たら、5人のうちの4人は呪詛が掛かっているのが視える。
一人は単に治療方法が合っていないだけの不幸な人間らしい。
呪詛を掛けられていない事が不幸なのか否かは微妙に不明だが。
『右から順に腎臓、肝臓、肝臓、呪詛なし、脳の血管で合ってる?』
碧が念話で返してくる。
『うん、私も同じ見立てだね。
じゃあ、それでよろしく』
下手にまだ学生な私に利用価値があると思われると色々と面倒な事になりかねないので、暫くは無敵な天罰シールドのある碧が表立って行動してくれる事になっている。
だから私は碧と大学で知り合って色々得をしているラッキーな後輩もどきと退魔協会には思われている筈だ。
場合によってはやっかみで嫌がらせとかを受ける可能性もあるが・・・あの政治家が碧を脅すために私を誘拐してくれたお陰で私の事も碧の友として白龍さまが守ってくれると証明され、本格的にヤバい嫌がらせは受けないだろう。
命に関わる状況になったら自重を捨てて反撃するし。
いつまでも碧におんぶ抱っこは良く無いので、大学を卒業したぐらいの時期に合わせて徐々に『腕を上げて一人前になった』っぽく独り立ちを演出しようと話し合っている。
今は『独学の後、足りなかった部分を碧と藤山家の親族の諸々に教わっている学生』という形にしているのであまり有能すぎるのは無理がある。
ハニトラとかには今でも十分注意が必要だろうが、どうせ男女の付き合いになって触れ合うようになれば相手が嘘を演じていれば感じられるのだ。
プライドは傷つくかもだが取り返しのつかないところまではいかないだろう。
まあ、それはともかく。
私と碧に視えると言う事は、黒魔術師か白魔術師の適性があれば極小な呪詛も視えると言う事だろう。
元素系の適性持ちでもそれなりに訓練を積んで魔力視を研ぎ澄ましていれば視える筈だが・・・どうやらそこまで退魔協会の調査員は鍛えていないらしい。
下手に鍛え方の助言なんぞして怪しまれても面倒なので、ここは白魔術系適性持ちを連れてこいと言うのが一番早いだろう。
一応、都合がつく調査部の人間全部と回復術の使える退魔師を呼び付けておくよう碧も助言してあったし。
まあ、病院側が自分のところの回復師の協力に合意するのかは知らないが。
病院にとっては一番望ましいのは金払いの良い患者が徐々にゆっくり時間をかけて改善するか、死なない程度にゆっくり悪化する事だ。
あっさり治って治療が要らなくなるのは望ましくないだろう。
もっとも、退魔協会側だって医療業界にズブズブになっていない回復師を何人かは確保しているだろうから、願わくはその人員がちゃんと今回来ていると期待したい。
まあ、碧がしっかり視えるのだ。
病院側の回復師にだって視える筈なのにその人員を寄越さなかったり、もしくは『視えない』と言わせたりしたら病院の無能さか意図的な治療阻害が患者にバレて、影響は単に患者が完治して退院するよりも遥かに大きなものになるだろう。
「5人中4人に微細な呪詛が掛けられています。
視えますか?」
碧が部屋に来ている集団に声をかける。
何とは無しに幾つかのグループに分かれている雰囲気だ。調査部、病院の回復師、退魔協会の回復師といったところだろうか?
「お互いの発言に影響されても困りますので、まずは皆さん紙に誰がどこに呪詛が掛かっていると視えるか書いて下さい。
別に私への提出は必要ありません」
碧が机の上に置いてあるメモ用紙を指しながら指示する。
別に碧が評価する訳では無いのだ。
まずは書いて確定させておいてから、各自の答えを確認するだけである。
意外と頭の中で考えただけの答えというのは他の人間の意見を知ると変わることがあるのだが、今回はそういう『分かったつもり』は要らないのだ。
はっきりとどう言う適性持ちが微細な呪詛を見分けられるかのテストなので、変に嘘をつかれても後で首が締まるのは嘘をついた本人だ。そこは参加者も分かっているだろう。
ゴソゴソと皆が紙に書き始める。
やはり回復師と思われる人達は視えているのか普通に書いている。
調査部の人間は・・・一人は黒魔術系適性持ちなのか、あっさり書き出している。残りは悩みに悩んで何度か書き直しながら書いていた。
いや、当てずっぽでしかないんだったら書くなよ。
正直に分かりませんと認めるのも重要だぞ。
まあ、もしかしたらこれかな?と思っているのを書いているのかもしれないが。
「では、答え合わせをします」
他の連中が紙に書いている間にホワイトボードに書き込んでいた碧がそれをひっくり返して皆に見せる。
さて。
どうなるかな?