金持ちって汚い〜
「退魔協会にも繰り返し言いましたが、霊は将来に向けた事は特に何も言いませんでしたし、弟さん以外に関しては良い事も悪い事も何一つ全く言及していません。
ちなみに、除霊に行ったらその場で待ち伏せしていた護符持ちの破落戸2人組に襲われそうになったのですが、誰が手配していたのでしょうね?
退魔師が悪霊の反撃を受けて敗退したかに見えるように昏倒させて家の外に放置しておけと言う指示で来ていたようでしたが、我々の名前まで知っていて除霊が失敗する事を求めている人間は限られているように思われますが」
碧が淡々とおっさんを脅しつける。
なんかこう、慣れてるねぇ。
今までもこう言う都合のいい『最後の言葉』を強要する依頼人やその親族とかを対処してきたんかね?
それとも碧パパ・ママの教育の賜物か。
私は今世ではこう言う経験はまだ無いし、前世もある意味王族は開き直って外道な行動をしていたからイマイチこう言う迂遠な協力の強要って馴染みがないんだよねぇ。
しかも王族の命令は断れなかったし。
迂遠な強要をどうやって跳ね返していいのか分からないから、碧が対処してくれて本当に助かる。
そんな事を考えていたら、ドアの外に人が近づいて来たのが視えた。
「ちなみに除霊の失敗を期待して手配するような人間は他に誰がいたんです?」
態と入ってくる人間に聞こえるよう、タイミングを測ってはっきりと尋ねる。
どうせ所有者への口添えを断った事でこのおっさんに恨まれるか憎まれるんだ。
こいつが襲撃の黒幕なら痛い目にあってもらおう。
触らないとしっかりと意志を読めないが、これだけ近距離だったら焦っている状況下での嘘ぐらいは分かる。
「何!
誰かに邪魔をされたのか?!」
音もなく開いた扉から爺さんが入って来た。
あの地縛霊の弟って話だけど、全然似ていない。
まあ、あっちは若い美女、こっちは皺々のジジイだ。
同じ年代だった頃には似た面影があったとしても、現時点では共通項が無しになっても不思議は無い。
年寄りって不思議と似たような顔になってくるし。
ジジイになると白人か東洋人かすら不明になるから不思議だ。
ババアはまだそこまで同じ感じにはならないけど。
あれはやはり髪の毛とかスキンケアの成果なのかね?
「父さん!
私ではありませんよ!
きっと、反対していた功か修でしょう。
恭子の所のロクデナシ息子の可能性もあります」
慌てておっさんが爺さんの方に体を向けて言い訳する。
言い訳は重要だろうけど、老人が点滴のスタンドを動かしにくそうに引っ張って歩いているんだから手伝って椅子に誘導してあげたら?
金持ちのお坊ちゃんらしく気が利かないのか、おっさんが動こうとしなかったのでしょうがないから私が爺さんの方へ行って椅子へ座るのを助ける。
碧はおっさんが邪魔で動けなかったしね。
ついでにそっと爺さんの魂の方も確認してみたら、そこそこ恨みを買ってきたのか、それなりに穢れとか恨みがへばりついていたが死霊からのモノは呪いと言うレベルまではいっていない。
あの地縛霊さんも彼女を殺したって言う無理心中の相手も、彼を呪いはしなかったようだ。
とは言え、健康を損なって寿命を縮めるような遅延タイプの軽い呪詛は掛かってるけど。
これは・・・腎臓へ徐々に負荷を掛けていくタイプかね?
碧の方がしっかり分かるだろうけど、碧が触れたら返しちゃいそうだな。
退魔協会の職員と会ったなら、気がつかれなかったのかね?
呪詛祓いも金になると思うが、うっかり先の短い年寄りの呪詛祓いを提案して子世代の反感を買うのは損だと言う事で、依頼が来なければ口を出さないスタンスなのかね?
まあ、この爺さんも姉を売って栄達したって話なんだし、それなりに恨まれる事をしてきたんだから清廉潔白って訳ではない。
呪詛はそのままで手配した人間だけ痛い目に遭わせられたら良いのに。
「ええ。
我々の名前まで知っていましたよ」
碧が爺さんに答える。
「除霊の話は皆にしていたのですから、襲撃する日を知る為に誰か退魔協会の人間を買収したのでしょう」
おっさんが言い募る。
ほう。
おっさんからの感触だと、後ろ暗いところはあるけど自分で手配した訳ではないみたい?
ついでに退魔協会へのコンタクトをそれとなく勧めているって事は呪詛もこのおっさんじゃないのかな?
完全に白って感触じゃあないんだけどね。
誰かがやっているのを知っているか感付いていたけど、都合がいいと容認したって事かな?
実の父親が苦しむのを静観しているんだから、金持ちって嫌だねぇ。